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宵、夏音の中で  作者: ぽんこつ


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12/13

踊りの先

※このエピソードは長くなっています。

『それでは、予選結果発表します……

「36番。今野麻衣子さん」

「48番。浜宮清さん」

「65番。末永美幸さん」

「75番。橘結衣さん」

「78番。十河菜穂さん」

「101番。安斉花音さん」

「108番。小幡望さん」

「109番。大月里菜さん」

「110番。飯坂宥羽さん」

「122番。遠山瀬那さん」

「125番。高梨愛理さん」

「129番。七瀬笛乃さん」

「131番。岩崎暁斗さん」

「163番。桜井瑞帆さん」

「174番。渡辺栞さん」

「188番。葛原朋輝さん」

以上16名が決勝に進まれる方々です。決勝は19時開始です』

どよめきや拍手、歓声が沸き起こる。

男性は年配の人と若い男性と自分の3人。

女性のほとんどはきっと学生。

小さな女の子も二人。

宥羽たちは喜びを分かち合っている。

なんだろう。

わくわくするようなドキドキするような。

すごく不思議な感覚。

宥羽と同じ舞台に立てるんだ。

もう目標は達成したようなものだけど。

これから始まる、宥羽と一緒に盆踊りを踊るかけがえのない時間。

きっと俺は一生忘れないと思う。

そのために楽しめたらいいと思ってる。

おかしいな。

あれだけ望んでいたのに。

始まって欲しくないような気持ちがどこかにわずかにあるなんて。

足の指の絆創膏には滲んだ血。

履き慣れない下駄だから仕方ないけど、勲章で戦友みたいなもん。

この一年間。

頑張ったんだな俺……

タンタンタン。

下駄の足音が近づいて。

「岩崎くん」

宥羽の声。

「すごいね、決勝進出おめでとう」


挿絵(By みてみん)


いや、いい笑顔すぎるだろ。

「あ、ありがとう、飯坂こそ、おめでとう」

「うん。ありがとう」

「岩崎くん、浴衣似合うね」

指さしながら笑っている宥羽。

かわいい……

何か喋ればいいのに、突然すぎて何も出てこない。

空回りする頭の中。


挿絵(By みてみん)


「飯坂こそ、その浴衣すごくいいね、似合ってる」

言えた……

言いたかったことだから。

「えへ。そう」

帯をちょんと持ち上げて、襟元に手を添えて、裾をちょこちょこって直す。

やばいって。

全部見ちゃう。

頭が熱い。

「これね、おばあちゃんが作ってくれたの」

「ん? あ、え? そうなんだ」

「おばあちゃんに、この浴衣で優勝したとこを見せたいんだ」

「そうなんだ、飯坂は優しいんだ」

「そう? だから負けないからね」

頬が上がって、唇をかむように笑う宥羽。

袖の中で握った手と背中に汗がわいてくる。

これ。

息が止まるかも。

「あ、ああ、俺も頑張るし、楽しむ」

「宥羽~」

望の声。

「じゃあ、またね」

宥羽は小さく手を振って下駄を鳴らして駆けていく。

髪かざりを揺らして。

大きな息が漏れて。

俺、今日だけで何度死んだんだろ……


                 ☆


すごいな。

岩崎くん。

もう踊りを楽しもうって気持ちになってる。

なんか、盆踊りを好きでいてくれるのが分かって。

真っ赤な顔して力入ってた。

私も頑張ろ。

あっ。

「くしゅん」

両手で口を覆う。

「宥羽どうしたの?」

眉をきゅっと寄せた望。

「ん?」

「なに、にやけちゃって」

「そりゃあ、決勝行けるし、しかもみんなで」

「ふーん。それだけ?」

「?」

私が首を傾げると、望は顔の前で指をさした。

その方向には、岩崎くんがいる。

「ん? 岩崎くんがどうしたの?」

「どうしたの? じゃなくて何話してたの?」

「え? 決勝進出おめでとうって言いに行っただけだよ」

「ふーん。そう」

「だって、すごい練習したと思うよ。去年はほとんど踊れていなかったでしょ」

「まあ、そうだけど」

「何かおかしいことある?」

「なーい。ぜんぜんない」

望は両手振って、そのままばんざいするように大きく広げた。

「だよね。ここからは望も里菜もライバル。頑張ろうね」

クスクスと肩を揺らす望。

「宥羽のこと、ますます好きになった」

「何それ?」

「ううん。なんでもない。なんかいい顔してるんだよな宥羽」

「そう?」

「だから、決勝行けるほかにいいことあったのかなって」

望は私の肩を指でつついた。

いいこと?

口を尖らせる。

「え? ないよー。私は今日のために頑張ってるんだから」

「そうだね。宥羽は宥羽だもんね」

「うん、私らしく私の踊りをするだけ」

両手でガッツポーズをした私につられるように望も真似をした。


                 ☆


いよいよ舞台で踊る。

その時がきた。

コンクールでは、『葛飾音頭』『東京音頭』『大東京音頭』の3曲を2回踊る。

櫓の上では久美さんがスタンバっている。

俺は両手で頬をパチンと叩く。


挿絵(By みてみん)


『タ―タラッタラッタ、ラッタラッタラッタラッタ……』

カラッカッカ

ドンドンドン。

カラッカッカ。

ドドドンドン、ドドドン

ドン、カラカッカ。

ドン、カラカッカ……

両手を開いて、

もう一回。

両手をかざして、

もう一回。

左手前、右手前、

手拍子をしながら輪の中心を見る時、対角線にいる宥羽と目が合う。

めっちゃかわいい笑顔で笑ってる。

それを見てたら自然に笑っている俺。

手拍子をして前を向く。

指先、集中。

足も軽やかに運ぶ。

いいぞ、この調子。


                 ☆


ドンドンドン。

カラッカッカ……

輪の外に母の姿を見つけた。

手拍子をしながら、私を見つめている。

中学一年の優勝した時もそうだった。

大丈夫。

振りや動きは問題ない。

ないんだけど。

『188』番のうちわの青年がちらちらと私を見ているのに気がついた。

輪の中心を向いて拍子を打つとき。

その彼は私を見て笑った気がした。

ううん。

あきらかに笑った。

え?

って思って。

その度に彼は私を見ていた。

よく見ると、そこそこいい顔している。

二重で眉が太くて。

笑った時、右の口の端の方が僅かに上がる。

え?

うそ?

あの子の笑い方に――

似てる。

小学生の頃、一緒に踊っていたあの子に。


                 ☆


『さぁさ葛飾 住みよいところ

月の小窓も ほんのり濡れて

ほんによさよさ、パラダイス~』

『タ―、タラッタラッタ、ラッタラッタラッタラッタ

タラタラッタラッタラッタラッタ、タンタンタン』

ふうー。

一曲目が終わる。

大丈夫、楽しめている。

曲の合間。

前で踊る小さな女の子に、自分のほっぺに人差し指を当ててにっこり笑う宥羽。


挿絵(By みてみん)


それを見た女の子も真似をしている。

普段通りの宥羽。

俺は死にそうになるのを必死でこらえる。

同じ舞台にいる喜びをかみしめて。


                 ☆


ドドン、ドドン。

カラカッカ……

『ハア~ 踊り踊るな~ら

ちょいと 東京音頭 よいよい

花の都の~ 花の都の真ん中で~……』

太鼓の縁の澄んだ音。

くーちゃんから叩き手が変わった。

町村さんだ。

その音色に乗るように、肩の力が抜けて、踊れている。

楽しめている。

舞台を囲う輪の中で踊る美瑠や梨花さんも楽しそう。

私は自然と笑えている。

前で踊る菜穂ちゃんも、いい動き。

岩崎くんも集中してる。


挿絵(By みてみん)


みんな上手だけど。

私は私。

あっ。

ふと見た輪の外に田辺さんがいて手を振ってくれていた。

笑顔で返すと、両手でガッツポーズをしてくれた。

ありがとう。

今この瞬間が愛おしいとさえ思う。

みんなと踊れて。

だから。

私の全力、見てる人に届いて。

心の底から湧き上がる想いを指先、足の先まで沁み込ませて。

その想いが運ぶ笑顔と共に。


                 ☆


ドドン、ドドン。

カラカッカ……

さっき、宥羽おねちゃんが、

「菜穂ちゃん、いい感じ、ニコニコで行こう」

そう言って笑いかけてくれた。

おねえちゃんみたいにニコニコしながら、ちゃんと踊れてる。

「菜穂、頑張れ~」

お父さんの声。

チラッと見ると。

こっちに向かって手を振ってくれている。

隣でお母さんはスマホを掲げて手を振ってくれている。

ちゃんと見ててくれている。

頑張るから。

だから。

お別れなんかしないで。

ずっと、一緒にいようね。

あっ!

パパとママが手を繋いでる!

ちゃんと仲直りしてくれたんだ。

嬉しくて、泣きそうになって。

口を結んで。

手を動かす。

足も動かす。

パパもママも私の約束守ってくれた。

頑張るんだ私。


                 ☆


ドドン、ドドン。

カラカッカ……

和佳奈が、

「高梨愛理の踊りを牧野くんに見せてやれって」

はっぱをかけてくれた。

おかげで、もやもやは少しなくなって。

体は音楽に乗っている。

私は飯坂さんのことは、もう関係なくなっていたけど。

負けたくないって。

純粋に思っていた。

だって、私は高梨愛理だもん。

負けず嫌いの。

だから――

「高梨ー頑張れー!」

へ?

あ?

え?

牧野くんの声?

視線の先。

舞台の外の輪の向こう側。

うちわを大きく振っている。

牧野くん。

顔に熱が……

ダメ。

今は、踊りに集中しないと……

太鼓の音よりうるさい耳の傍で鳴る心臓。

『ヤートナ ソレ ヨイヨイヨイ

ヤートナ ソレ ヨイヨイヨイ……』


                 ☆


『タッタ、タラララ、タラララ、ラララ、タッタ、タラララ~……』

ドン、ドン、ドン。

カラッカッカ……

『人が輪になる ソレ 輪が花になる ヨイサ ヨイサ

江戸の残り香 ほのぼのとけて

通う心に 咲き残る  ヨイショ

東京 東京 大東京 サテ

咲いて咲かせて いつまでも ソレ いつまでも……』

中央を向いて手拍子をする。

向かいの岩崎くんと目が合う。

すごくいい顔。

微笑みを返した私。

私はその笑顔を引きつれて、前を向いて両手を顔の前にかざす。

指先が糸を引くように、そのまま両手を開く指先はピンと伸ばして。

右手をかざして手首を捻って、手で何かを掴むように、そして飛び跳ねる。

その瞬間、左手で袖を掴んで。


挿絵(By みてみん)


左手をかざして手首を捻って、手で何かを掴むように、そして飛び跳ねる。

右手を左の肘の内側に添えて。

両手で二回弧を描く。

動きが早いから雑にならないように柔らかく。

でも素早く旋回させて。

左手を前に、肩から、肘、手首と指の関節も意識して、遠くに伸びるように。

右手はおでこの脇に、少し膨らみを持たせて。

止めた瞬間にぴんと伸ばして次の動作に。

今度は右手を伸ばして同じように。

ここから同じ動作を順番違いでもう一度。

両手で二回、弧を描いて。

右手を前に、左手は顔の脇。

左手を前に、右手は顔の脇。

両手を顔の前に添えて、ぐるっと回って、輪の中心を見る。

くるんと両手を内側から外に旋回させて。

前に差し出して、そのまま横に開いて。

手拍子。

また、笑顔の岩崎くんと目が合った。

くしゅんって、なったこころ。

微笑み合って。

前を向く。

くーちゃんのお父さんの力強い太鼓に身を任せた。


                 ☆


ドン、ドン、ドン。

カラッカッカ……

大丈夫。

ちゃんと踊れそう。

この踊りだけはちゃんと踊り切りたい。

私は、もう、まあくんの邪魔はしないよ。

私がいたら、まあくん辛いんだよね。

子供の頃の約束なんて覚えている訳ないの分かってた。

ケガのことで一度も責めなかったまあくんが、あんなメッセージを送ってくるぐらい苦しんでるんだもん。

だから、もういいんだ。

まあくんが元気になりますようにって。

想いを込めて踊って。

全部想いを込めて。

ここに置いていく。

もう会わないって決めたから。

拍子をする時に輪の真ん中を向く。

みんな笑顔で、楽しそうで。

悲しいはずなのに、つられて笑っていた。

踊り自体は楽しいよ。

楽しい想い出しかないから。

前を向く。

輪の外側。

木陰で吉岡のおじさんが笑っていた。

あ?

その脇に。

右手を伸ばした先に。

Tシャツ姿の……

左手を伸ばした先に。

まあくんが、真っ直ぐ私を見つめていた。

あの頃の優しい瞳だった。

右手を伸ばした指で、下に向けて指を三本下に向けて『ま』

そのままかざした指を揃えて直角に『こ』

伸ばした左手の指先で揃えた指を二本立てた『と』

ニコッと微笑んで、瀬那って指で返してくれた。


                 ☆


輪の外、建物の傍に将と紗友里ちゃんが立っていた。

将は紗友里ちゃんの手を握ったまま両手を上げた。

紗友里ちゃんは手を振ってくれている。

ありがとうな将。

エネルギーバッチリ受け取ったよ。

『大東京音頭』は輪の中心を向いて手拍子をする事が何回かある。


挿絵(By みてみん)


その度に宥羽と目が合う。

ちょうど対面になってるからもあるけど。

あの笑顔を見放題。

少し紅潮した頬が、提灯の明かりでなんか大人びて見えて。

目が合うたびにドキッとして。

でも、自然と自分の微笑みが上書きされて。

ずっとこのまま踊っていられたら。

終わらないで欲しいって想いがどこかにあって。

でも、もうこれで終わってしまう。

だから宥羽と同じ舞台を味わう。

ここまで来た自分にこれ以上ないご褒美だから。


                 ☆


『タッタ、タラララ、タラララ、ラララ、タッタ、タラララ~』

両手をかざして、天をおあぐ。

膝で余韻を残しながら。


挿絵(By みてみん)


コンクールが終わった。

今は踊り切った達成感が強い。

もう、何も残ってないくらい。

楽しかった。

「決勝に残った踊り手の皆さんお疲れさまでした。ただいまより審査の集計を行います。その間も音楽を流しますので、引き続きお楽しみください」

『令和葛飾音頭』の軽やかな音楽がかかる。

私は里菜と並んで舞台から降りて、そのままお堂の石段の前まで歩いた。

帯に挿した扇子で、熱気を冷ます様に風を作る。

「どうだった?」

里菜が私と望を交互に見る。

「うん。いい感じかな? 望は?」

「うん。私も全力出した」

「なんか。今年は一段と楽しかった気がする」

里菜が人差し指をこめかみに当てた。

「それはそう」

望が大きく頷く。

「宥羽~」

美瑠と梨花さんがちょこちょこと駆け寄ってきた。

「すごかった、みんな」

「本当に素敵だった、みんなの踊り」

キラキラした目の二人。

「あとは、結果発表だね」

「……うん」

ドンドンドン……

軽快な音色をくーちゃんが奏でている境内。

その音が私のドキドキと重なっていく。

「宥羽、やっぱりいい顔してる。踊ってた時も、今も」

ハッとして見た望の顔は笑っている。

「うん、なんか史上最高だった。真後ろで踊ってた私が言うんだから」

里菜は得意気に言って、肘で小突いてきた。

「うん、私もやり切ったよ」

私がピースをして笑うと、みんなの微笑みも弾けた。


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*人物画像は作者がAIで作成したものです。無断転載しないでネ!

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