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宵、夏音の中で  作者: ぽんこつ


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10/13

見守って

ドンドンドン。

ドドン、ドドン……

まだ昼の名残りが残る空。

いよいよコンクールの日。

私はすでに課題曲は一回踊り終えた。

感触はいい。

末永さんや瑞帆さん、みんな上手だしきれいだけど。

私はこの楽しさを表現できればいい。

頭のてっぺんから、足の先まで。

飯坂宥羽の踊りに対する楽しさが伝わったらって。

「宥羽ちゃん」

「あっ、吉岡のおじさん」

「昨日はありがとう、あの動画は宝物になったよ」

「そうですか、良かった」

おじさんは笑いながら人差し指を立てた。

「さっき見てたけど、宥羽ちゃんの踊り、一段とそうだな、華やかになった」

「えへ、そうですか? うれしいな」

「うん、初日に見た時より断然いい。表情も動きも。いまのその感覚、大事にしなさい」

「はい、ありがとうございます」

両手を前に重ねて頭を下げる。

「じゃあ、がんばって」

おじさんは両手でガッツポーズ。

私も真似してガッツポーズ。

微笑み合って、おじさんは片手を挙げると、近くにいた浜宮のおじさんと話し始めた。

自分の中の気持ちの変化が踊りに出ているのかな。

変わったと言えば太鼓を叩いて、改めて盆踊りが好きだって確信したことくらいだけど。

日々の練習の成果の賜物には違いない。

そして、吉岡のおじさんからのアドバイスをしっかり胸に刻む。

「宥羽~」

高いはつらつとした声が私を呼ぶ。

「うえー。美瑠。来てくれたんだ」

同い年の従妹の香坂美瑠だった。

私は両手を振りながら駆け寄る。


挿絵(By みてみん)


ピンク地に青い花柄が美瑠の明るさにピッタリ。

「ふふん。宥羽の晴れ舞台だもんね」

隣には知らない女の子。

ラベンダーに花火のような花柄のかわいい浴衣。

二人ともちゃんと髪も結いあげて、お人形さんみたい。

「ああ、こっちは親友の梨花」

「あ、倉科梨花です。梨に花で梨花」

かわいらしい自己紹介に頬が緩んで。

「飯坂宥羽です。えーと、宥めるの宥に羽で宥羽」

絶対分からないのに宙で文字を書いて見せる。

「どうどう? 感触は? 見てて気合入ってるの分かったけど」

「うん、いい感じ。でもライバル多いから、全力出すよ」

顔の横でピースサインをする。

「でも、宥羽さんの踊りきれいで、ずっと見惚れてました。宥羽さんだけがなんか目に入ってくる感じで」

「ほんと? 梨花さんありがとう」

「そうなんだよね、宥羽の踊りって見入っちゃうんだよね」

「二人ともありがとう。すごくうれしい、頑張れる。折角だから踊ろうよ二人とも」

美瑠もだけど。

初めて会った梨花さんでも、私の踊りを見て感じてくれたこと。

伝えてくれたことが嬉しくて。

テンションが上がる。

「でも、練習いいの?」

「まだ、コンクール迄時間あるし、踊ってれば練習にもなる」

私は二人を手招いた。

思わぬ従妹の美瑠と梨花さんの来訪。

わざわざ応援しに見に来てくれた事も嬉しくて。

輪の中の流れに乗る。

あっ。

岩崎くんだ。

今日も早くから踊りに来ていた。

気合入ってるなって。

男の子なのに、指の先とか、足の運びが、本当に女性っぽくて繊細。

集中しているのが分かる。

動きを確認しながら踊っているのも。

そして、膝を使うようになってるのも。

振りが大きく映えて見える。

私も頑張ろ。

ドンドンドン。

カラカッカ、カラカッカ……


                  ☆


しかし、宥羽の努力の一端を垣間見た。

練習のために昨日、今日と夕方の5時くらいには来ていたけど。

もう、宥羽は踊っていた。

望も里菜も来てなくて一人で。

踊っている人も10人もいないくらいだった。

自分もその輪に加わった時。

目が合って、笑ってくれて。

もう、今日は頑張れる。

そう思えてしまう。

まあ、自分の場合はこんな風に動機が不純だけど。

好きなことに没頭するのって、苦じゃないのかもしれない。

だって。

踊ってる宥羽はいつだって楽しそうだから。

惹きつけられて、見ているだけで、こっちも楽しくなってくる。

ドンドンドン。

カラカッカ、カラカッカ……

今は、数人前で踊っている宥羽。

相変わらずのしなやかな手の動き。

足もスッと前に出て。

友人かな?

見たことない女の子を二人引き連れている。

その子達は、盆踊りにはあまり慣れていないよう。

だけど笑顔で踊っている。

やっぱり、踊ってる宥羽は最高だ。

いや踊ってなくても最高なんだけど。

なんだろ。

宥羽、そのものが滲み出ているって言うのかな。

上手いし。

かわいいし。

浴衣からのぞいてる素足。

下駄の先をちょんと地面に付けて。

白く細い腕が裾から天に伸びて。

見惚れそうになって。

太鼓より早い心臓にリズムが崩れそうになる。

でも女の子ってどうして毎年、毎年、きれいになっていくんだろ。

一昨年も、かわいかった。

去年も、すごくかわいかった。

今年も。

今年が一番かわいい。

間違いなく史上最高。

浴衣はこの三年間同じ浴衣。

きっと気に入ってるんだろう。

すごく似合ってて。

髪型は3日間それぞれ微妙に違うし。

なんか。

近くにいるのに、遠く手の届かない世界の人みたいに思える時がある。

両手をかざし見上げた空は、少しずつ夜の匂いがした。

音楽が終わる。

ふって笑っていた。

どうして好きになっちゃったんだろ。

でもさ、好きなんだよな。

視線の先には笑顔の宥羽。

女の子達とはしゃいでいる。

その姿を見ていたら笑ってるんだ自分。

そう、宥羽を見ていたら――

ふと視線が合った。

ニコって笑って。

片手を小さく振ってくれた。

ぎこちなく振り返す俺。


挿絵(By みてみん)


ドンドンドン、ドドンドドン……

太鼓が次の曲を奏で始めて。

宥羽はくるっと前を向いて、シュッと背筋を伸ばした。

俺も自然と胸を張る。

ずるいだろ。

あんなの。

もう、即死だよ……


                  ☆


ドンドン、ドドンドドン……

この騒がしい太鼓の音も今日で終わる。

やっと平穏な日々が訪れる。

スマホの画面の明かりだけがともる部屋で意味もない動画を眺めている。

ピコン。

また瀬那か……

ん?

町村……先輩?

『よう誠、元気か? 昨日瀬那ちゃんと会ったけど、一緒じゃなかったし、お前忙しいのか? 久しぶりに会いたいからさ、予定がないなら盆踊り来いよ』

マジか……

ていうか瀬那のやつ、俺のこと先輩に話したんじゃないだろうな?

ったく余計なことばっかしやがって。

先輩にはかわいがってくれた恩しかない。

けど、どんな顔して会えって言うんだよ。

「先輩、お久しぶりです。誘って頂いて申し訳ないですけど、今日用事があって、すみません」

送信しようとした時。

ピコン。

また、先輩から。

『余計なお世話かもしれないけど、瀬那ちゃん過呼吸なんだな。昨日急に発作起こして、ビックリして俺と吉岡さん達で介抱したけど。瀬那ちゃんってなんかあったのか?』

は?

瀬那が過呼吸?

いや、知らないし、そんなこと言われたって……

先輩への返信を後回しにして、俺は瀬那にメッセージを送る。

「お前さ、町村先輩に俺のこと話したんじゃないだろうな? それにお前過呼吸ってなんだよ。今先輩からメッセージが来て迷惑してるんだけど、どういうことだよ」

そのまま布団の中に潜り込んだ。

もう、なんなんだよ。

そっとしといてくれよ……

ピコン。

『ごめんね。町村先輩に、まあくんのことは話してないよ』

『過呼吸は大丈夫、ちょっとたまに出る様になって、昨日踊ってたらなっちゃって、町村先輩とか吉岡のおじさんに心配かけちゃったけど』

『私は大丈夫だから、ごめんね、まあくん』

『あのさ、昔の約束覚えてる?』

何だよこの連投……

「大丈夫ならいいけど、俺にまで迷惑かけるなよ。約束なんかしたか? それがどうした」

『ううん。なんでもないよ。ごめんね迷惑ばかりかけちゃって』

「ほんとだよ、ほっといてくれ」

『うん。わかった、ごめんなさい』

「いちいち謝るなよ、それだってしんどいんだよ!」

それから返信は来なかった。

とりあえず、先輩にメッセージを……

「先輩、お久しぶりです。誘って頂いて申し訳ないですけど、今日用事があって、すみません。瀬那とは最近忙しくて会ってないので分からないです」


お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

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*人物画像は作者がAIで作成したものです。無断転載しないでネ!

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― 新着の感想 ―
ここまで夢中になって拝読させていただいております。 登場人物のそれぞれの視点が良いですね! そして、宥羽ちゃん、美瑠のいとこだったのですね! 梨花も登場! すごく嬉しいサプライズでした! 宥羽ちゃんに…
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