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宵、夏音の中で  作者: ぽんこつ


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盆踊り

「この裏のお寺でお祭りしてますから、良かったらご覧になってきたらどうですか?」

ドンドンドン……ドドンドドン……。

確かに太鼓の音がかすかに聞こえてくる。

「盆踊り、いいですよ、私も若い頃は良く踊りましたから」

女将さんは懐かしむように窓の外に目をやった。


私は、そんな誘いに乗って、ふらっとそのお寺を訪ねてみた。

見事な彫刻を施された楼門をくぐった途端。

ドンドンドン。

カラッカッカ……

「ヤートナ ソレ ヨイヨイヨイ、ヤートナ ソレ ヨイヨイヨイ……」

空気を震わせて一段と響く太鼓と歌声。

境内は思った以上に広かった。

本堂以外にも建物があって、共に歩んできただろう幹の太い木も何本も。

町の中にあるのに、この空間の空だけ抜け落ちたように開けている。

木があるからか、地面が土だからか、暑さも和らいでいる気がする。

お誂え向きな広場の中央に組まれた櫓。

お寺の屋根と同じくらいの高さ。

提灯で装飾され、さしずめこの町のシンボルタワーのように見える。

そこから四方に伸びる紐にいくつもの提灯が吊るされていて。

その淡い明かりが、暮れ馴染んできた一帯を橙色に染めていた。

櫓を囲うように大人の背丈ぐらいの高さの舞台が設けられていて。

同じ浴衣を着た女性の一団が踊っている。


ドンドンドン。

カラッカッカ……

調子のいい太鼓や鐘の音に合わせて。

たくさんの人達が櫓を中心に円を描き列をなして踊る。

黄色に青、白に黒に赤。

色彩豊かな浴衣たちが華やかさを引き立てている。

その息の合った動きにふっと見惚れた。

小さな子供も大人顔負けの手つき。

おばあちゃんやおじいちゃん、普段着の人もいる。

当たり前のように同じ振りをし、ゆっくり歩みを進めている。

仕事帰りに寄ったんじゃないかと思えるスーツ姿の人。

金髪の男性も、茶髪の女性も、白髪頭の年配の人も。

きれいにおめかしをした若い女の子たちも。

男性が多いのには少し驚いた。

その中に背中に番号が印刷されたうちわを挿している人達がいる。

何かの催しでもあるのだろうか?

踊りを見守る人々も、小さな子供からお年寄りまで輪の中の人達と同じ。

きっと、ずっと、何世代にも渡ってこの場所で続いてきた文化なのだろう。


ドンドンドン。

ドドン、ドドン……

音に導かれ櫓の上に目を移す。

太鼓を叩いているのは若い女の子。

浴衣姿に襷がけをして妙に様になっている。

楽しそうに、自信に満ちた笑顔で、男性顔負けの気迫あふれるパフォーマンス。

弾むような音色は一緒に踊ろうよ。

そう誘っているかのよう。

その傍にはもう一人、ばちを抱えている女の子がいた。


挿絵(By みてみん)


色鮮やかな浴衣をまとった子。

その無垢な笑顔が眩しいくらい。

へー。

いいなあ。

女の子が叩く太鼓。

感情の補正が入ってしまったのか。

それとも、この空間だからなのか。

今叩いてる子も、傍にいる子も。

それに踊っている人もみんな輝いて見える。

盆踊りか。

生まれた町でもやっていたような気がする。

祖母や母に浴衣を着せてもらって。

髪を結い上げて。

手を引かれ連れて行ってくれた記憶が微かにある。

踊ってみたいなと思うだけで、さすがに輪の中に入る勇気は持ち合わせてなくて。

でも、どこか懐かしい目の前の出来事を眺めていた。

ドドン、ドドン。

カラッカッカ……

藍色の空に浮かぶ三日月。

たなびく細い雲が縁を光らせ緩やかに漂っていた。

お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

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*人物画像は作者がAIで作成したものです。無断転載しないでネ!

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