俺、ドS。変身はするよりさせたい派
世の中には二種類の人間がいる。〝させたい派〟と〝させられたい派〟だ。聞かれるまでもなく、俺は〝させたい派〟。それも超ドS。とはいっても、カツアゲして弱い者をイジメるという訳ではない。それは俺のポリシーに反するし、勝てる勝負をしても何の面白みもない。しかし、強敵を完膚なきまで打ち負かすのはとってもキモチがイイ。ただの負けず嫌いかと言われればそうかもしれないが、何に言い換えられようと、俺が〝させたい派〟であることに変わりはない。
「よぉ、雄司。ちょっと来い。イイものを手に入れた」
「あん?」
学校が終わって放課後、俺と同じ〝させたい派〟のライバル・カズが俺を呼んだ。
「これ見てみろよ。すげぇーだろ! 銃だぜ、銃!」
「お前……そんなものどこから拾ってきたんだよ」
カズは嬉しそうに、カバンの中で危なく光るソレを見せる。
「バーカ、日本に銃なんて落ちてる訳ねぇだろ。じっちゃんの最新の発明品だ!」
「ほぉ」
カズのじっちゃんは発明家らしい。ノーベル賞とか取れそうな勢いの発明品を次々と発明していくのだが、悲しいことにどこか方向がズレている。しかし、日常に飽き飽きしている俺達にとってはなかなか刺激的な格好の遊び道具だ。
「この銃はただの銃じゃないぜ。人を動物に変身させられるんだ」
「へぇー、すげぇな」
「ここに〝サプライズメーター〟ってのがあってだな。人を動物に変身させて驚かした感情が数値化されて得点になるんだ。これで誰かとバトルできるようになっている。なぁ、面白そうだろ」
「やべぇー、今回のはイイのつくったじゃねぇか、お前のじっちゃん」
俺のS心がウズウズする。
「やるか?」
カズも俺に引けを取らないS野郎だ。イタズラ心みえみえの笑みが問い掛ける。
「やらないはずないだろ?」
「よし、キタ!」
こうして、俺とカズの変身銃バトルが始まった――
二人で相談してルールをつくった。
ルールはシンプル。バトルステージは校内。一時間以内により多くの得点を得た方が勝ち。
カズから渡された変身銃は思いのほか軽かった。ポケットに入れられるサイズだから、先生に見付かって咎められることはない。使い方についてはカズに説明してもらったが、カズもまだ試したことがないらしく、謎の機能が多いとのこと。しかし、それがかえって好奇心をくすぐる。まるでゲームの中で手に入れた武器みたいだ。
ゲームはスタートした。俺達はお互い廊下を反対方向に駆け出し、まず校内に残っている人間を探した。
「お、最初のターゲット♪」
ワクワクする。これを撃って、どんな驚く姿が見られるだろう。俺は疼く興奮を必死に抑えて、最初のターゲットと擦れ違う。そして、無防備な後ろ姿を晒した瞬間、俺は早撃ちガンマンみたいにポケットから変身銃を取り出し、トリガーを引いた。
すると、音も無く、細い光線がターゲットに命中した。
「おぉ!」
どんな感じで発射されるのかはわからなかったが、これは面白い。ビーム形式だ。
しかし、光線を浴びせた男子生徒は撃たれたことに気付いていない様子。
「あれぇ? おっかしいなぁ。ミスったか?」
ターゲットはふつーに歩いて行くので、俺は失敗したかと思った……その時!?
「うをっ!? 何だこれ!」
ターゲットが突然、驚きの声を発した。
「!」
ターゲットの首筋からもさもさした毛が生えてくる。
「うぅ……がはぁっ」
ターゲットはもがきながら、何かに変身していく。体にどんな変化が起こっているのかはわからないが、服が膨張していくのは見て取れる。
「すげぇ……」
俺はゲームや漫画じゃなく、現実で初めて人間が動物に変身していく様を見た。
ターゲットのお尻側が盛り上がり、ズボンを突き破って黄色と黒のシマシマのしっぽが出てきた。服から露出している部分すべてが同じ色の毛に覆われ、人間の耳は丸くなり、頭の上に移動した。
「ガアアァァァーー」
猛獣の咆哮。ターゲットは制服をところどころ破ってトラに変身した。トラになったターゲットはその場にペタリと座り込み、困惑の表情で自分の体を呆然と見つめていた。
「面白れぇー!」
後ろから表情は見えないが、トラらしくない動きで困惑している様子がわかる。
「百ポイント追加されました」
銃から声が聞こえ、メーターを見ると、今の得点が入っていた。
「これはいい。ガンガン攻めるぜ!」
俺はテンションがやばいくらいに上がり、次なるターゲットを求めて、廊下を走った。
ちなみに、変身は十分後に解除されるらしい。
「おい、とっとと出せよ、金」
廊下を走っていると、下の階から声が聞こえた。階段を覗くと……あれは一組の不良男子だ。奴もなかなかのS野郎だが、弱い者イジメが好きな低俗者だ。
「よぉーし、カツアゲされている方をさっきみたいに猛獣にしてやろう」
俺は銃を脅されている男子生徒に向けた。すると、光線が当たった男子生徒が変身し始める。
「ぐあぁぁぁっ」
「な、なんだ!?」
事情を知らない、奴が驚いた。
男子生徒は黄色と黒のシマシマの毛に覆われ、鋭い牙を生やす。鼻先がピンク色に染まり、前に突き出てマズルが形成される――
「ん?」
しかし、男子生徒はネコになった。
「やべぇ、さっきと違う。これはマズイ」
俺はとっさに、不良男子の方にも銃を放った。すると、不良男子はみるみるうちに体が縮み、ネズミに変身した。
「ふぅー、これなら普段の仕返しができるだろう。それにしても変身させる動物はランダムなのか?」
俺は次のターゲットを探す中で、銃の機能を調べてみることにした。
それから俺は次々と、放課後の校内にいる人間を教師、生徒に構わず動物に変身させまくった。どうも変身させる動物はランダムらしいが、次に何に変身させるかはメーターに表示されることに気付いた。
「お! あれはマドンナ」
廊下の角から、通称マドンナと呼ばれるクラスのアイドルが目に付いた。
「さぁーて、マドンナだから……可愛い動物にしてやろう」
俺はトリガーを連発して引き、可愛い動物が選択されるのを待った。
「ウサギ! いいんじゃね。よぉーし、マドンナを変身させるぜ!」
俺は死角からマドンナに銃を向けた――その時!
「うおっ!」
モコモコと銃を持つ手に白い毛が生え、指先が丸くなった。白い毛は凄まじい勢いで体を覆っていく。
「ちょっ、待て、何だ……これ?」
〝変身させよう〟としていた俺が〝変身させられている〟。何故だ? 握れなくなった銃はその場に落ち、俺は何かに変身していく。お尻の方がムズムズして、丸いしっぽが生えた。耳が伸びていく感触があり、前歯が長くなる。
「まさか……ウサギ?」
相手が違う! 俺はマドンナをウサギにしたいんだ!
「ご名答。さすが雄司」
「その声は、カズ!?」
ウサギに変身していく俺の背後から現れたのはカズだった。
「勝負あったな、雄司。S派のお前が変身させられる時の屈辱と驚きは高得点だ」
「その手があったか……」
カズは俺を狙っていたらしい。その発想は無かった。変身が進んだ俺の体は縮み、上から制服が落ちてきた。
「知ってるか? マドンナはウサギ好きらしいぜ」
ウサギになった俺はカズに捕まえられ、マドンナの前に突き出された。
「抱いていいの? ありがとう。うさちゃん、カワイイ~!」
カワイイとか裸とか、羞恥心が込み上げてくる。〝させたい派〟の俺が〝させられる〟なんて……覚えておけよ、カズ。しかし、マドンナに抱かれるのは悪い気はしないが……