1.王国の御伽話
昔々、この国ができる前の話です。
この世界には二柱の神様がいらっしゃいました。
創造神である女神レイミスエルと、その弟神ルイジセルです。
この頃、二柱の神々は仲違いをなさっていました。
原因は我々人間では知り得ないことですが、その仲違いの影響は我々の住む地上に及ぶことになります。
かつて創造神はこの世界と、ほぼすべての生物をお創りになりました。
人間もその内の一つです。
ただ、人間が他の生物と違ったのは、創造神より最も深き愛情を賜っていた点です。
それがこの時ばかりは完全に悪い方向に働きました。
弟神は創造神への憎しみからか、人間を滅ぼそうとしたのです。
神々は地上で直接的な力を行使することを禁じられているうえ、夜の管理を任されているとはいえ弟神の力は創造神に劣っていたため、自らの眷属を使って秘密裏にその計画を進めました。
その眷属というのが我々が魔族と呼んでいる存在です。
魔族は人間に限りなく似せて、人間よりも強い生命力を持ち、人間に強い敵意を持つように創られました。
そしてそれを地上に送り出そうとしたまさにその時、計画に気づいた創造神がご介入なさりました。
しかしあまりに寸前のことでしたので、流石の創造神でも力が足りず、魔族には人間と見分けがつくように魔法をかけるに留めて、そちらを我々にお任せになって、創造神ご自身は弟神の方をお引き受けになりました。
もっとも、我々人間がそれを知ったのは既に魔族が人間に紛れて暮らし、魔族同士で子を成して数を増やしていた頃になります。
そうなったのは弟神の相手で手一杯だったからであり、戦況が落ち着いてきた頃、我々にご神託を下されました。
当時のある村人の記した日記にはこうあります。
『今朝、我らが創造神にご神託をいただいた。曰く、夜の神が浅ましくも偉大なる創造神に刃向かい、我らを滅ぼさんとしているという。これは到底許されざることである。夜の神は邪神に堕ちたのだ。そして創造神は我らに使いを与えてくださるらしい。我らは我らの中から邪神の眷属を探し出さなければならない』
創造神が魔族にかけた魔法について、詳しいことは告げられませんでした。
それは別々の神の力が互いに干渉し合って魔法が変質するため、創造神であってもどうなるかは分からないからです。
そしてご神託の後、金の瞳に金の髪の美しい女の子供が生まれました。
創造神の使いである彼女はフリージェと名付けられました。
しばらくして邪神は一旦抑えられましたが、同時に創造神もかなり力を消耗され、お眠りにつかれました。
魔族は人を襲う魔物を活性化させたり、聖なる泉を枯らすなどの活動を密かに行なっていましたが、フリージェが六歳になった頃、ある村の村長の娘が魔物といるところを見た、と言って一人の少女を魔族として告発しました。
その少女は両親ともそうでないにも関わらず白い髪と赤い瞳を持っており、元々疑わしく思われていたため、すぐに火炙りになりました。
その事実は村から村へと伝わり、これが創造神が魔族にかけた魔法であろうと、あらゆる白髪赤眼の人々が処刑されました。
時にはただ赤眼なだけの人やただ白髪なだけの人も処刑されることがあり、特に白髪の人は徹底的に迫害されていましたが、ともあれこれで魔族は去ったのです!
そして成長したフリージェは兄ジェイクや仲間たちと共に地上に蔓延る魔物を討ち倒し、一人天界に渡って激闘の末に創造神の力で邪神を封印しました。
その後フリージェは初代国王としてこのルミエスタ王国を建国し、疲弊した土地の復興に取り組みました。
人々の生活が安定するとフリージェは兄ジェイクに王位を譲り、ジェイクはフリージェに当時の言葉で黄金の瞳を意味するジルジットという姓と大公の位を与えました。
人類を救った英雄フリージェは余生を穏やかに過ごし、家族に囲まれて穏やかに息を引き取ったと言われています。