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王都

 王都。そこは多くの冒険者が集う世界の中心部。


 なぜここが世界の中心と呼ばれているか。それは、所有するダンジョンの数が無尽蔵であるからと云われている。始まりがどうだったかは覚えていないが、少しでも多くのダンジョンという魔物をテイムしておけばそれだけ人が集まる。


 人が集まれば強い冒険者も集まり、より上位のダンジョンをテイムしに行かせる事が出来る。そうやってこの街は大きくなったのだと記憶している。


 多くのヒューマンや魔人、獣族に天使族悪魔族などが入り乱れる往来を歩きながら、俺は『竜胆』のホームを目指していた。


 ついでに、ここに来るまでのルアクとの会話を思い返す。


 ――君には二つ選択肢がある。まずは迷宮を一人で討伐したという事実を公表することだ。そこには多くの注目が集まることだろう。こんなこと、前代未聞だからね。だが……おそらくはその魔眼が邪魔する。魔汚染された冒険者を他の冒険者は欲しがらない。何なら、殺されたっておかしくないんだ。


「すみません、この串焼きおいくらですか?」

「お、見ない顔だね。兄ちゃんは新人冒険者かい? それなら奮発して三本まとめて百リーンだ」

「わっ。いいんですか? ありがとうございます」


 露店や酒場の勧誘が道の端と端を埋め尽くしていて、田舎育ちの俺としては見る物全てが新鮮だった。


 ――そして、もう一つはこの事実を覆い隠し……ボクらに付いてくること。それなら、新人冒険者として面倒を見ることができる。つまり、守ってやることができる。一人の冒険者として、君ほど熱い男が冷たい世間に消えていく事は避けたいんだ。そうだな……言わば、ボクらは君の未来を見守りたいんだ。


 やがて、大通りから一本外れた通りでは武器や防具の売り場があった。その通りも十分盛り上がっていて、これはどこの防具だとかこの剣はどれだけ斬れるだとかの謳い文句が飛び交っていた。


 ――前者を選べば、君は一時風の人になり賞賛を大いに受けることだろう。だが、魔眼のせいで様々な人種に追われることになる。良くも悪くも、だ。きっと、押しつぶされてしまうだろう。後者を選ぶなら、君の活躍も英断も人目に晒されないことになるが……未来は守られる。どちらを選んでも、ボクらは君の戦いを無かったことになんかしやしない。いや、忘れようとしても忘れられないだろう。どちらを選ぶかは、君次第だ。


 ふと、パンを焦がす匂いが鼻腔をくすぐった。見れば、そこは午後を過ごすのに最適なカフェがあった。しかし、俺の目を惹いたのはその隣……路地裏で男三人に絡まれている少女の姿だった。


 男達の方は何やらいきり立った様子で少女を怒鳴りつけていた。


「てめえもういっぺん言ってみろ!」

「私はただ事実を述べたのみです。貴方達は他人の優雅な昼下がりを乱している。カフェに来て大声で酒を出せとは何事ですか? 昼間からそんなことをしているから、上に登れないのです」

「っだと、このゴブリンもどきが!」


 その一言が何かのきっかけだった。大きな魔力が動く気配を閉じたままの右目が感じ取り、俺は慌てて間に入った。


「何だ、テメエ……」

「ま、まあまあ。暴力はよくありませんよ。ゴブリンもどきなんて言っちゃいけません。それに、まだ若い女の子相手じゃないですか。大男三人で囲んじゃ、可哀相ですよ」

「正義の騎士気取りかぁ? オレはそういう奴が一番ムカつくんだよ! おいお前ら、やっちまうぞ。まずはテメエから死ねや!」


 そう叫んで、男達の腕が振り上げられる。その豪腕から振るわれるのは俺なんかには防ぎようもない一撃だった……はずだ。


 だけど、あれ……何だ? 殴ろうとしているのか? こんなにゆっくり?


 俺の目には、彼らの動きがひどく緩慢に見えた。錆級の深層にいた魔物の攻撃速度の方が、よっぽど速い。確かに彼らは酒でダメになっているようだ。


 だから俺はそっと、三人の腕を狙って『ジャストガード』した。


「う、おっ……!?」


 すると、三人の体勢が弾かれたままで止まったので、一押しずつ。あまり力は込めていなかったが、倒れかけていた男達は見事に吹っ飛ばされた。


「な、にが……?」

「穏便に、いきましょうよ。俺も本気の殺し合いがしたいわけじゃありません。これから『竜胆』のホームに行かなきゃいけないんです。時間もあまりないんですよ」

「なっ……お前、『竜胆』所属かよ。くそっ……通りでこれか……」


 三人はそれぞれ打ち付けた部分を押さえながらじりじりと下がっていく。あっ、ここで『竜胆』の名を出すのはマズかったかな……?


「か、関係あるかよ! やられっぱなしでいられるか!」


 そう叫んだ男が拳に炎を灯す。おお、魔法を使えるんだ。だけど……。


「街中での魔法使用は基本禁止ですよ」

「うるせえ! その澄ましたツラが気にくわねえ!」


 まあ、そのくらいの魔法なら盾で十分に防げる。よって、これもまたジャスガして硬直した所を押しのけた。だけど、今度は少々力がこもってしまって彼を壁に叩きつけてしまった。


「し、漆黒の盾……おい、やべえ。ずらかるぞ!」


 いよいよケンカになるかと思った途端……正しくは、俺の盾を見た瞬間に彼らは踵を返して逃げ出していってしまった。


 ……どうしてだろう? まあ、争いが収まったなら何でも良いか。


「君、大丈夫だった?」

「……余計な事をしてくれましたね、ありがとうございます。別にあの程度の男から逃げ出すくらい訳なかったのですが」

「あはは。まあ、余計なお世話は趣味みたいなもんでね……それじゃ、あんまり無茶しないようにね」


 そう言って去ろうとした俺の服の裾を、彼女が掴んだ。何だろうと思って見返すと、彼女は口元をもごもごとして言葉を選んでいるようだった。


 その間に見えた、彼女の外見に俺は軽く驚いた。まるでオニ族みたいな……いや、それにしては小さな赤い角を額に一本生やした……言うならば、子オニ族だったのだ。左右で瞳の色が違い、左目が赤く右目が黒い。


 綺麗に手入れされているらしい髪は黒の絹糸のようで、顔全体は陶器のように滑らかな白の肌をしていた。


「か、感謝は行動で伝えなければなりません。私に出来ることはありませんか」

「えっ。別に何も……あ、そうだ。『竜胆』のホームはどっちかな? 今日から支援してもらえるって話だったんだけど……」

「『竜胆』の名前を出したのはハッタリじゃなかったんですね……しかし、今日来るのはまだ錆級と聞いてしましたが……」

「あ、知ってるのかい? そうだよ、俺は錆級のノエル。君は?」

「……道すがら、話しましょう。私はミコト。錆級の冒険者見習いです。貴方とは、色々とお話することがありそうですから、道案内しましょう」


 ミコトはまだ仏頂面のまま、俺を先導するように路地裏から表に向かって歩き始めた。そういうことなら、と俺も歩き出す。


「ちなみに、私も『竜胆』組合所属なんですよ。せいぜい長い付き合いになるよう、祈ってます」


 うーん……絶対にあの争いは理不尽なものではなく、ミコトの物言いにあるんじゃないか。そんな気がしてきた。


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