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第9話

「あ~、な、なるほどね~…………」


こうなってしまうのも無理はないだろう。なにせ目の前には俺の『推し』がいるのだから。


「その反応はもしかして知らない?」


「いやいや!知ってます!『ジンジン星から地球に来た、ゲームを愛する地球外生命体にしてゲームの魅力を全世界だけでなく全宇宙に発信するために活動する宇宙人系Vtuber。好きな食べ物は宇宙食。ちなみに宇宙については全くもって興味がない(公式サイトより)』でおなじみの宇宙ジン様ですよね?え?どうしてこんなところに?あぁぁぁぁぁ!」



「「「あ~そゆことね~~」」」



この場にいるVtuberが全てを悟ったような声が1秒のずれもなくシンクロした。何せ彼女らはこのような『オタク』という存在を嫌というほど見て、聞いて、大事にしているのだから。


「なんというか……晴が取り乱してるの初めて見た気がする」


「拙者、晴殿がこんな人だとは思ってなかったです」


「なんかセロ先輩に言われていた人と全然違いますね」


そこから数分の間地面に這いつくばる天野晴を見ながら三人のVtuberは唖然としていた。



────────────────────────────



「じゃあ気を取り直して……全員で自己紹介しようか!」


セロは周りを見て三人がうなずいたのを確認し、まずは自分から…と、自分の自己紹介を始めた。


「私はまぁ全員知ってるだろうけどシュガプロ2期生神海セロ、今18歳。以上!!」


簡潔な自己紹介。おそらく他の二人とは何年もの付き合いだし、俺もセロとはかなり関わってきたので、自分の自己紹介に時間を使う必要はないという判断だろう。


「じゃあ次!千鶴ちゃん!!」


「次は拙者か…了解した。」


セロのフリに対してまるで台本でもあるかのようなスムーズさで対応する。これは何年もVtuber業界で培ってきた技術の表れだろう。


「拙者の名は切裏千鶴と申します。セロちゃんとは同期の2期生でござる。セロちゃんの一個下の17歳でござる。FPSが大好きなので天野晴殿がテクロス強いと聞いてとてもワクワクしているでござる!」


「テクロス知ってるなんてだいぶFPS好きなんだな」


「まさか晴殿が強いとは思わなかったでござる。今度一緒にやろうでござる!」


「それよりも、みんな若すぎないか?成人してないって大丈夫なのか?」


「シュガプロはVtuber初の未成年でも入れる事務所だからね〜。その影響で未成年が集まりやすいんだよ。うちみたいに大企業じゃないとできないことだよね~。」


たしか俺がキラの2歳下だからキラが入ったのは15歳の時だったっけか。


「次は自分ですかね。自分は宇宙ジンといいます。シュガプロ所属3期生です。年は16です。」


宇宙ジン様、俺と同い年だったのか。3期生ってことは今あるシュガプロの中で一番最近入ったことになる。彼女が話しているとさっきみたいにテンション上がっちゃいそうだ。でも最初は緊張したけどさすがに慣れてきた。

次は俺の自己紹介の番のようだ。


「俺はキラの弟の天野晴って言います。Vtuberをやったのは単純にキラ……いや姉さんに憧れてなったって感じですね」


まだキラの件はセロにしか話さない。さすがにむやみに明かすのは危険すぎる。それはセロもわかっているようだ。


「まぁお互いよく知ってるみたいだし、自己紹介はここら辺にして本題に移ろうかな。みんなに集まってもらったのは、晴が知名度をもっと上げたいって相談きたから、みんなでアイデア出ししよ!ってことです!!」


「普通に自分たちとコラボすればいいんじゃないですか?」


………数秒の静寂の後、俺は率直に思ったことを口にする




「ジン様って配信と違って結構普通の案出しますね」


「いや、さすがに現実でもあぁいうキャラをつき通してるのはバカの千鶴先輩くらいっすよ。あと様付けはやめてください。ジンでいいです」


さすがに推しに呼び捨てはと思ったが、本人が嫌ならやめておくか。ていうかそんなことより千鶴はリアルでもいつもこんな感じなのか。



「そうだね!一旦コラボ配信して、視聴者の反応を見てから次の手を考えようか!」


「自分一つだけ質問していいっすか?私たち三人で晴くんの知名度を上げるって言いましたけど、具体的にどこまでを目指すんですか?」

「そんなの決まってるでしょ!」というセロは俺を指差しながら誇らしげに小さい胸を張って、ある一つの目標を提示した。




「────────シュガプロの4期生に入る……だよ!!」




『大手Vtuber事務所シュガープロダクション』

今現状最高の倍率と、Vtuberとしての資質を求められる最高難易度の審査を通った者のみ入ることが許される。そんなところに俺が入るなんて考えたこともなかった。正直キラの足取りを辿るといってもシュガプロに入るという大きな壁を超えるのは現実味がないと感じてしまうことがある。


「セロ、そうは言っても正直自信ないんだけど。なんか裏ルートみたいなのがあるのか?」


「ん?そんなのあるわけないでしょ?!ただでさえ入るだけでも難しいのに、個人から企業に所属ってなるとさらに難しくなるよ?」


少しでも期待した俺は馬鹿だった。しかも個人からだとさらに難しくなるなんて……。大丈夫なのか。


「でも…………」


「ん?」



セロはまさしく明日さんがしたような覚悟の目をしている。それだけではない.、周りの千鶴や宇宙ジンもセロと同じような目をしていた。そして三人は同時に口を開き発言する。




「私たちがいるから大丈夫だよ。」

「そうでござる!まかせるでござる!!」

「一応私もいるから……力になれると思う」





────────────────────────────────



私は彼らのために何ができるのだろうか。もう止めることをやめた以上彼らに手出しをすることはできない。


現在Vtuberを引退しイラストレーター活動も休止した、今は働いていないただのニートと化しているこの私、坂月明日は頭の中に渦巻く悩みを誰に聞かせる訳でもなく口に出してみる。案の定、一人きりの部屋はなんの返答もくれない。


……はずだった。


ポロン、とbiscordの通知が鳴る。送り主を見た途端私は背筋が凍るような感覚に襲われる。


「キ、キラ……」


送り主は天乃キラ。今はいないはずの彼女からのDM。内容は……


「これは………動画?」


困惑した頭を整理しながら私は、MP4と書かれた動画ファイルを開く。その直後動画が再生され、スマートフォンで撮影されたような動画が再生される。それは白い壁の前に立っている天乃キラ…ではないリアルの彼女の姿が映し出される。どこかの事務所内だろうか…そう考えているうちに彼女は話始める。


「この動画を見てるのはママ…じゃなかった、坂月明日ちゃんだよね?」


改まった挨拶。若干手ぶれ補正がかかっているということはもう一人だれかいるのだろう。そうこの動画を撮影している張本人が……


『多分今頃、私は死んで晴がVtuberになって、それを明日ちゃんが止めようとして、憂が協力して晴に絵を描いてあげて、セロちゃんだったりが協力して、今明日ちゃんは何ができるのか探しているところじゃないのかな』


「は?」


あまりにも正確な予想。予言だとかそういうレベルをはるかに超えている。

これはまさか──────────


『まぁ明日ちゃんに一つだけ警告しておくよ。』


おそらくこの動画の最後の言葉………私は固唾を飲む




『切裏千鶴は晴にとって危険だよ。私は守ってあげられないから守ってあげてね』


そうキラが言い残し、動画のツールバーは終端にたどり着いていた。




「なるほどね。わかってきたよ…ある程度……」


確信した。このキラの言葉で……このキラの死は、キラとこの動画を撮ったもう一人の謎の人物によって計画的に実行されたもの。


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