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第8話

配信後、夜中1時になっている。俺はVtuberとしての素質を見せられただろうか。正直明日さんが邪魔をしてこなければ十中八九俺の作戦は成功していた。


『天野晴』


「あー配信は終わらせたけどまだ通話切ってませんでしたね……どうでしたか?」


『君のその覚悟、戦略、話し方、ビジュアル(笑)、全てにおいてキラたんに劣っていると言わざるを得ない』


そうだキラだったら明日さんの邪魔があっても俺よりも多くの視聴者を惹きつけていたに違いない。前に明日さんが言った「キラにはなれない」というのはそういうことなのだろう。


『だが、一つだけキラに勝っているところがあるだろう?テクロスとかいうゲーム、僕はその一つの可能性を信じたくなったな。』


「意外とギャンブラーなんだな」


『あぁ結局俺がどうゆうことが言いたいのかというとな……』


通話越しでは見えない憂の眼の色が変わったのを感じた。おそらく大人としての責任を背負うことに対する覚悟の眼。




──────────僕は天野晴に協力する。君の勝ちだ



『ということではい』


ポロンと憂とのDMの通知が鳴る。普通の高校生ならば見慣れない拡張子のファイルが送られてきた。


『君の立ち絵だ。Live2Dも使ってすぐに使えるようにしてある』



明らかに早い仕事ぶりに俺は困惑した。まるで最初から絵を描くことが当たり前だったかのように。


「まぁありがとうございます…………ん?」


このファイルを開いたとたん。困惑に困惑が重なった。そこにはかなり精密にデザインされた『晴』の文字にオリジナルの制服を羽織った胴体がくっついているだけだった。



『やっぱり君はその立ち絵が似合うよ』



「あなたに頼んだのは失敗でした」






午前10時頃いつものカフェテリア……ではない。神海セロに連れてこられたのはある事務所の一室。シュガプロ所属のVtuberが配信など自由に使っていい8畳程の個室フリースペースだ。室内は防音になっており、大きい机、数台の高性能pc、ロッカーや冷蔵庫などの日用品まで揃っている。さすが今をときめく大企業様だ。


「正直こっちの方が話やすいんだよね~いつものカフェじゃあれだし…今日はもう一人来るからね」


「ちなみに昨日biscordでも言ったけど…」


「憂に絵描いてもらえたんでしょ?」


やや食い込み気味にセロは俺の言いたかったことを代わりに言ってきた。


「いや……それはそうなんだけど」


あの憂のふざけた立ち絵。もちろん同居しているセロにも見せたのだろう。セロが驚いている姿が容易に想像できる。


「いやぁ〜マジで死ぬほど笑ったよね。ほんとにあの立ち絵のままやるの?」


「まぁせっかく描いてもらったんだから使わせてもらうよ。」


「でもとりあえず立ち絵ができてよかったね!」


「あぁセロのおかげでもあるよ。ありがとう」


「一瞬炎上したし、バストサイズもばれたんだけどなんか言った?」


怒っている。当たり前だ、なんでも協力するとは言ったが他人の配信を荒らしてしまったのだから。今度何か可愛いパフェでも奢ろう。


「て・い・う・か!なんで私の胸のサイズしってるの!?」


「キラに聞いた」



「キぃぃぃぃラぁぁぁぁ!!!」というセロの怒号を聞き流しながら俺はあたりを見回す。これがキラの所属していた事務所の中…もちろんこの部屋にも入ったのだろう。キラが活動していた場所…何か手がかりが見つかるかもしれない。


「ん?」


カーテンがボコッと盛り上がっている。どこか見覚えがあるのは……あぁ、そうだ。幼い頃、俺を驚かそうとしているキラが隠れていた時と同じような光景。バレバレだが中にいる人は好奇心をときめかせながら心臓を高鳴らせている。だが、容赦なく俺はカーテンをめくった。


「うわ、びっくりした。なんでこんなところに人が………」


「にんにん☆セロちゃん、拙者ばれたのでござる」


「あ~バレちゃったかぁ~!千鶴ちゃん出てきていいよ~」


「シュッ!!」といいながら彼女はカーテンを払いあげジャンプをしながら目の前に登場した。


千鶴、聞いたことがある。おそらくシュガプロ所属の切裏千鶴(きりりせんず)。忍者をモチーフにしたVtuberで赤黒いロングヘアの髪に黄緑色のメッシュ、忍者服が特徴のVtuberだ。今はただ緑色のパーカーを着ているただの眼鏡をかけた女性だが……確かセロのいる二期生だったはず、いわゆる同期と呼ばれる存在だ。


「あなたがキラ殿の弟の天野晴殿ですね。セロちゃんとはどういう関係なのでしょうか

。まさか付き合っているのでは?」


お互いがお互いをVtuberの名前で呼んでいるのはこの事務所内でのルールなのだろう。


「ないない。俺には『推し』がいるんで……」


「へぇ~晴って推しのVtuberいるんだぁ~。だれかな~??私かなぁ~~」


「今言ったらこの場が荒れそうだからやめとく」


「「えぇぇぇ~~~~」」



とその時、「あぁぁ!」というほぼ断末魔のような声がして、ロッカーが勢いよく倒れた。その勢いで扉が開き黄色いツインテールが姿を表した。


「は??もう一人いるのかよ」


「ど、どうも~ははは」


俺とその黄色い髪をした彼女は数秒間目を合わせ、時が静止したかのような感覚に陥った。その静寂を破るようにセロは口を開いた。


「いやぁ~ジンちゃんもバレちゃったかぁ~」


「言い表すならば……四間飛車」


「千鶴ちゃんたまに意味わかんないこと言うよね」



……ジン?その名前は聞いたことがあるというより、体がビクンと反応してしまうくらいネットで検索した名前だ。つまり俺の────────いや待て。まだ分からない。でもこの事務所にいて『ジン』という名前だという時点で確定か?え、でも……え?本当に?


「ごめんねジンちゃん。私のわがまま聞いてもらって」


「ほんとにセロ先輩は隠れてとか意味わかんないこと言うし、千鶴先輩はノリノリだしこのロッカー臭いし最悪なんですけど」


「これで今日私が呼んだメンバーは集まったかな。」

とセロは周りを見渡しながら言った。多少登場の仕方には一癖あるがここにいる人は全員シュガプロ所属なのだろう。という事は、やはり…………。


「晴、紹介するね!同期の切裏千鶴ちゃんと三期生の宇宙ジンちゃんだよ。」




────────捧げたスパチャ額は18万。当然の如くメンバーには加入し配信にはリアルタイムで張り付いている。俺の部屋の中にはもちろん彼女の…………宇宙ジンのグッズがびっしりと飾られている。


「あ~、な、なるほどね~…………」


真っ白になった頭は、そんな言葉しか思いついてくれなかった。






「憂クン、キミは本当に何が目的なんだ?」


暗い部屋、そこは憂の家の中。先ほど訪ねてきた坂月明日とコーヒーを飲みながら天野晴の話をしていた。


「僕はキラたんを超える可能性を見つけただけだ。それを応援して何が悪い?」


「キミもキラの件聞いているんだろう?たかが子供に犯人捜しなんていう重責を担わせてはいけないと思うのだがね」


「彼らはもう子供の年齢ではなくなりつつある。別に我々大人がそこまで執着する必要ないと思うがっ!?」


憂は急に明日に胸倉を掴まれ、壁にたたきつけられる。



「じゃあ、晴やセロに何かあったら責任とれるのかよ。私はそういう大人が嫌いなんだ。」


明日のいつもの無気力な姿からは想像できないほどの怒り。彼女の鋭い眼光は憂の目を貫く。しかし憂は彼女の腕を彼女の力の数倍で握り、彼女よりも鋭く目を光らせた。


「僕は彼らの邪魔はしない。が、命だけは必ず守ってやる」


そう言い力を緩める。そして……


「だから僕を信じて欲しい。君がキラを信じ、絵を託したように……同じイラストレーターとして…同じ大人として…」


「…………もういい。私も彼らを止めるのはやめよう。憂クン…キミを信じることにするよ」


気づけば彼女も憂から手を離し、あきらめたようにして部屋を出て行った。





(君がキラを信じ、絵を託したように……)


彼女の噛みしめた歯の間から、声にならない嗚咽がこみ上げた。


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