第5話
「さてと……とは言ったもののどうするべきか」
今俺たちがいるのは都内のカフェテリア。そして目の前にいる青い髪をしているポニーテールの少女。この姿はVtuberの姿を模しているようだ。これが日本一のVtuber企業シュガープロダクション所属神海セロ本人だと知っている人はこのカフェには誰もいない。
「普通にイラストは適当なのにしてVtuberやってみたら?」
「それがよさそうだね。とりあえず配信してみるしかないな」
俺は決意を固める。キラの死の真相を探るためにVtuberになるしかないんだ。そのためにはまず憂先生を説得しなければイラストが手に入らない。
「一回さ、いろんなVtuberの人の配信見てみて何のジャンルが自分にあっているのか決めた方がいいね。私は結構オールジャンルで配信やってるから参考にしてみてね!」
「わかった。とりあえずはVtuberの研究からだな」
自分にあっているジャンル……まぁあるにはあるんだけどなぁ。
「じゃ!一旦解散にしようか!何か聞きたいことあったら連絡してね!」
「頼もしいな。ありがとう」
「今一番人気のVtuberに手伝ってもらうんだから、絶対一緒に憂を説得しようね!」
そうだ。キラが死んでからセロがシュガプロのなかで登録者が一番多いVtuberになった。つまり日本一ということだ。セロは簡単に一番人気と言っているがここまで上り詰めるにかなりの努力をしてきたと考えることが妥当だろう。
俺に本当にVtuberなんてできるのかなんて考えも少しはあったが、姉を殺したやつへの復讐心の方がはるかに勝っていた。
セロと解散した後に俺はキラのPCを起動し、Vtuberの研究を始め、一人づつノートに記していった。
シュガプロ所属『神海セロ』 登録者433万人
ジャンル:オールジャンル
「こんなるみ!!神海セロだよ~!」という挨拶から始まる彼女は現実の彼女と同じく水色と白色か交互に混ざった色にミディアムの髪型と緋色よりは少し明るいオレンジ色の目をしておりおなかの少し上までしか丈がないデニム素材の長袖シャツに白タイツというファッションが彼女のビジュアルの良さをより引き出している。彼女の配信スタイルは、彼女のゆるふわのような雰囲気とは裏腹に知識が豊富だったり頭の回転が早かったりと頭脳を使った配信を得意としている。
過去にはオセロのオンラインゲームでランキング入りを達成したり、FPSの大会で優秀な成績を残したりしている。また歌もうまかったり、プログラミングもできたりなど視聴者からは『完璧超人』などと呼ばれることもあるほど色々なことができるVtuberだ。
そんな彼女だからこそすべてのジャンルで活躍できるのだろう。
個人勢『月詠 アスカ』 登録者102万人
ジャンル:絵描き、雑談
この人はキラのイラストを描いたイラストレーターである坂月明日さんのVtuberの姿だ。彼女のリアルでのぼさぼさの赤髪とは全く異なり、ボーイッシュような髪型に紺色の髪色、紫色の透き通った目、ちょこんと出ているアホ毛は弧を描ている。細部にまでこだわったオーバーサイズの青みがかったセーターは彼女の性格や声にマッチし、「だるさ」と「凛々しさ」という相反する属性が彼女の中に存在している。このビジュアルは彼女自身自ら作り上げたものであり、プロとしてのこだわりを感じさせる。彼女の人気の秘訣は絵のうまさとダウナーな声にある。
やる気のこもってないような声からは想像できないほどの絵の情熱で、視聴者だけでなくVtuberや同業者のイラストレーターまで虜にしてしまう。
他にも俺は色々なVtuberの配信を見て、自分の配信に参考になるようにノートにまとめた。
元シュガプロ所属『占 タロ』や人気男性アイドルユニットに所属している『タクト』など、キラと親しみがあるVtuberを中心に、何か手がかりがないかを探しながらノートに書き込んでいた。
この研究でわかったのは、全員それぞれ違った個性があり、ありふれた個性でもそれを組み合わせることで新たな個性を生み出している。
Vtuberに必要なのは卓越した個性、そしてそれを生かせるようなトークスキル。
「俺にもあるといえばあるんだよなぁ個性。それをどう生かそうか、そうだセロに相談しよう」
俺はスマホを手に取り、セロに電話をかける。
『はいは~い。もしもし~晴、どしたの~?』
「ちょっと相談したいことがあってな、今時間あるか?」
『おっけ~PCに移動するね~!どうせなら晴もキラちゃんのPC使って話そうよ~』
もう使い手がいなくなったPC、1か月くらい使っていなかったがまだ使えることは確認している。
「了解、やってみる」
「で、こういう考えなんだけどどうかな?」
マイクごしに俺はVtuberの研究結果と、自分の持っている”個性””のことをキラに話した。
「いや~晴意外とすごい人だったんだね!私も聞いたことある!さすがキラちゃんの弟」
意外とという言葉に少しだけひっかかったが、実際に誰にも明かしたことがなく、知っているのは姉と親しい友達、そしてキラのプロデューサーくらいだ。そう俺の個性…Vtuber業界で生きていくための武器は……
─────────キラが死んで数日後、セロに遺書を見せられた時正直ぞっとした。セロが見せてきた遺書は俺と同じ……なのだがそれは│二枚目の方。
キラが人によって違う事を伝える為に2枚目の遺書の内容を変えたのかもしれない。けど俺とセロの遺書は同じ人が書いたとは思えないほど内容も字体も違っていた。
晴へ
私は多くの人に希望を与えたかった。あの人みたいに。でもそれは実現できないようです。シュガプロはすごく好きでした。あの人がずっといれば。ありがとう晴。私は先に行くよ。
セロちゃんへ
逃げて。あの人と関わっちゃダメ。