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第4話

「私のパパ……私のイラストを担当している……名前は『(うれい)』」


憂…姉とセロの会話で名前だけは聞いたことがある。けどSNSやイラスト投稿サイトでの活動はしておらず、本当に実在したのかという感じだ。


「あいつ結構気難しいし変人だから私はあんまりおすすめしないけど…」


「いやでもセロを描いた人の実力なら信用できる。俺を憂先生に会わせてほしい」


「了解!そうと決まれば早速行こう!」


と言いたいところだけど……とセロは言った。


「私そろそろ事務所行かなきゃ!ごめんね明日なら一日中空いてるから」


「わかった。それじゃ明日にしよう。俺も帰ってキラの機材見てみるよ」


そして俺はセロとカフェから外に出て解散し、家に帰った。



「さてと……」と

汚い部屋を見渡して、溜息と同時に自分を鼓舞するような言葉を吐いた。


姉の部屋には高性能のPC、マイク、Vtuberの雑誌、漫画などが散らかっており、整理しつつ必要な物を洗い出すことにした。


「これは使わなくなったマウス…これはケーブル…これは靴下…」と俺が姉の部屋を整理していた時……


「なんだこれ」


手に取ったのはところどころページが破れている一冊のノート



2017年9月21日

今日は晴にVtuberになることを打ち明けた。応援してくれるみたいですごく嬉しい。これから頑張っていこう!


これは姉が書いた日記らしい。もしかしたら情報が載っているかもしれない。そう思い次のページをめくる。


「時間がすごく空いている。まぁ姉さんならめんどくさがってやらなそうだしな。」


2018年9月21日

今日は私がVtuberを始めてちょうど一周年!シュガプロのみんなともいろいろな思い出ができた一年だった。神海セロちゃんは同期で入ったけどすごく可愛くていい子!ずっと仲良くしていきたいな。



2020年6月4日

武道館ライブ決定!これは視聴者さんのおかげでもあるけど、やっぱり一番は晴のおかげ。晴がいなかったら私みたいな家事出来ないダメダメ人間は生きてけないよ。ありがとう晴。


気づいたら俺はこのたった2行の文に涙を流していた。でも俺は姉さんが自殺にまで追い込まれていることに気づけなかった。たとえ洗濯ができても、部屋の片づけができても、そんなことに気づけなきゃ意味ないじゃないか。償わせてくれ姉さん。絶対に復讐して見せるから。


次のページをめくる


「これは姉さんが死ぬ一日前」


2020年7月20日

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───────そこには、黒塗りのページがあった。





「やっほ~それじゃ行こうか!」


「あぁ。……っていうかセロさ、憂先生の家知ってんの?」


「知ってるも何も……実は…」とセロはあからさまに隠していることを打ち明かすような仕草をした。


「ん?」


「一緒に住んでるんだよね」


「はぁ?!Vtuberが男の人と一緒に住んでいいのかよ」


「まぁまぁ、私が家出して居候させてもらってるって感じかな。」


「う~ん……セロがいいならいいけどさ」


家出、というワードが出てきたから、それ以上突っ込まない事にする。人にはそれぞれ事情と理由があって、この場合詮索するとセロというせっかくの味方を失いかねない。




俺とセロが向かったのはある都内のマンションの一室。外から見るだけでも結構この人たちが稼いでいることがわかるほどの大きさだ。


「憂?ただいま。連れてきたよ」


ゲーミングチェアが回転し、肘をつきながら丸眼鏡をかけた男が姿を現す。パーマがかかったその髪はデスク周辺の汚さや、本人が着ているヨレヨレのシャツの影響でワカメのように見える。痩せてはいるが手足は長く、多分俺よりも身長は高いだろう。


「おかえり~~神海たん。それと……あぁ君が神海が言っていたキラの弟か」


レンズの奥から骨の髄まで見透かすような視線が貫く。


「はい。今日はキラの件と俺のVtuber活動について話を…」


「──────悪いが帰ってくれ」


即答……どうやら、最初から話を聞くつもりはないようだ。


「神海たんからもう話は聞いている。僕にイラストを頼みたいんだろ?それなら僕はもう神海以外の絵は描かないから、お前の望みには答えられない」


「……どうしてですか。キラの復讐を果たすために協力して欲しい」


「キラたんが死んだ今、僕は神海セロ以外のVtuberには興味がない。たとえお前じゃなくたって絵は描かないよ」


「憂、私からもお願い。憂もキラちゃんのこと好きだったでしょ?……一緒に無念を晴らそうよ」


「神海たんのお願いでも引き受けられないな。こいつにはキラたんや神海たん以上にVtuberとしての素質は感じられないと言わざるを得ない。僕に絵を描かせたいなら、君にVtuberの素質があると証明してみろ。じゃなきゃ僕は絵を描かない」


堅く、曲がらない意思をそこに感じた。

…………今の俺じゃ、何を言ってもこの人は動かない。


「行こうセロ、こいつと話してても無駄だ」


「いきなりこいつ呼ばわりとはな。やんちゃで可愛い弟さんだと言わざるを得ない」


「え!?じゃあイラストはあきらめるの!?」


「違う」


「え、えぇ?」


今の俺じゃ、動かない。


「こいつに俺がVtuberとしての素質があることを一刻も早く証明する。手伝ってくれ」


「……神海たんを使って有名になってもそれは君の素質とは言えないよ。自分の力で証明してみなよ」


「うるせぇ見てろよ、絶対証明してやる。」


「あっ、ふーん…………いい眼をしてると言わざるを得ない」


若干狼狽えた表情を見せた気がしたが、それはすぐに怪しげな笑みへ変わった。


「一週間あげるよ、それまでに証明できなかったら君の絵は描かない」






2020年7月20日


「ただいま晴」


「あ、姉さんおかえり。どしたの?今日元気ないけど」


「疲れてるだけ」


「そうなんだ。ゆっくり休みなよ」


鉄球でも引きずっているかのような重い足取りで、部屋のドアを開く。


「はぁ…………ごめんね晴。今までありがとう」


深いため息をつき、その場にいない弟に思いを馳せる。

数秒目を瞑った後、一冊の日記を手に取る。


「これも最初は毎日書こうって決めてたけど、結局全然かけなかったなぁ」


「2020年7月20日っと」


キラは日記に文字を書き始めた。しかし以前つけていた日記と違って、たった二文字を何度も何度も日記に記していた。

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。










セロセロセロセロセロセロセロセロセロセロセロセロセロセロセロセロセロセロセロセロセロセロセロセロセロセロセロセロセロセロセロセロ────────

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