第3話
神海 セロ……。
天乃キラと一番仲が良かった、シュガプロのVtuberだ。
俺が向かったのは都内にあるカフェテリア。そこで神海セロと合流する予定になっている。
カフェテリアに少しだけ早く到着し、コーヒーを飲んでしばらく待っていると聞きなじみのある声がした。
壁越しに姉の部屋からよく聞こえてきた声。世間一般からすれば、画面からのものだろうけど。
「あ!いたいた!お~い晴く~ん」
Vtuberの姿と同じような派手な水色のポニーテール髪の人物がこっちに向かってきている。
(この人はリアルでもVtuberみたいな見た目してるから分かりやすい)
「遅いっすよ。結構待ちました」
「ごめんごめん。それ、キラちゃんにもよく言われたよ」
そう、彼女が神海セロ…本名は成海 志乃。
「で、話って?」
セロが頼んだオレンジジュースを一口飲んだのを見届けて、俺は本題に入る。
「……まずは、謝りたくて」
「遅刻したことを?」
「いやそれも申し訳ないと思ってるけど!そうじゃなくて」
俯きながらセロは言った。
「キラちゃんがあんなことになったのに呼び出しちゃったし、何より……友達なのに、気付いてあげられなかった」
「大丈夫です。気持ちの整理ももうできてますし……唯一の家族である俺が、気付いてやるべきだった」
……話し始めて早々、鉛のように重たい空気が立ち込めた。誤魔化すようにコーヒーを一口飲む。
「で、本題を聞かせてくれ。まさか謝りに来ただけじゃないだろ」
「……おっけー。単刀直入に言うんだけどね」
セロの目つきが変わる。
「キラちゃんの自殺にはシュガプロの誰かが関わっていると思う」
まぁ、そうだよな。という感想しか出なかった。それは俺も分かってる事で……重要なのは『誰が』関わってるかだ。
「あんまり驚かないね。もしかして気づいてた?」
「あぁ」
俺は小さく相槌を打ち、コーヒーカップを口に運ぶ。
俺はまだこの鳴海セロという人物を信用していない。キラの友達で、何度か会った事があるとしてもだ。
キラという人間を死に追いやった者がいる。人が……死んでいるんだ。一歩間違えばキラの弟である俺なんてすぐに目を付けられる。
慎重にならざるを得ない。遺書のことは隠しておいた方がいいな。
「どうして誰かが関わってるってわかったんだ?」
「遺書が届いたの。これ」
セロが見せた遺書は俺の物と全く一緒の物だった。
「これ…俺も同じのもってるんだけど」
「え?晴くんも届いてたの!?キラなら晴くんには渡さないと思ってたんだけどなぁ」
「ん?なんで俺には渡さないと思ったの?」
俺がそう言うと、なぜか自慢げな表情をしながらセロは語り始めた。
『え!!キラちゃん弟いるの?!』
『うん。晴っていうんだ。私と違ってすっごい几帳面で、親が死んでから家事とかやってくれるの』
『いいなぁ。私も兄弟欲しかったなぁ。お父さん仕事で忙しいし』
『私のVtuber活動も応援してくれてるし』
だからね……
晴だけは心配させたくない
「そんなこと言ってたのか」
「まぁ結構前の話だけどね。やっぱりこんな恥ずかしい事、本人には言えないよねぇ。でさ、話戻るけど」
「遺書の件だな。俺のやることはもう決まってる」
「まさか……犯人を見つけ出す気!?」
「あぁ、キラを殺したやつをあぶりだして、俺がそいつを殺す」
「…………ころす」
殺す、殺す、とセロは何回か復唱する。
「ころ……殺す!?流石に冗談……」
「じゃない」
「……そう、みたいだね」
そう言ったセロはオレンジジュースを飲み干し、深いため息をついた。
「危険だからやめてほしいって言いたいところだけど……」
『私も恨んでるから……キラの親友として……』
──────その時のセロの表情は、いつも笑顔な普段の彼女とは違い怒りに満ちた眼をしていた。
この人は信用できる、それが俺の中で確固たるものとなった。もしかしたら俺の協力者になってくれるかもしれない。
「じゃあセロ、協力して一緒に見つけ出さないか?キラを殺したやつを」
「うん!私にできることがあったらなんでも言って!」
「あ、じゃあ早速なんだけど……」
「Vtuberのなり方を教えてほしいぃぃぃ!?」
「あぁ俺はキラと同じようにVtuberになって探るんだ」
「そ、それはいいと思うけど……まず企業に入るか個人でやるかだよね。あとはイラストとか背景も頼まなくちゃいけないし、機材だってたくさん必要だから……」
「とりあえずは個人でやってみるよ。機材はキラが使ってたやつを使えばいいし、あと一つ問題があるとすれば……」
「イラスト……立ち絵だね。それこそキラのママの明日さんに頼めば?」
「残念だけどあの人はだめだ」
そう言って俺は昨日、明日さんと話したことをセロに話した。
「そっかーだめだったのね。あの人いつもだらしないけど、そういうところちゃんとしてるからなぁ」
「さらに残念なことに明日さん俺らの邪魔をしてくるみたいなんだよ」
「それはまずいね。明日さんのイラストレーターとしてのコミュニティは広いから、手回されたらイラスト発注できないかも」
「そうなのか、そこらへんは全くわからないからセロ頼みになっちゃうな」
「……う~ん。手は無くはないんだけど」
セロは露骨に嫌がる顔をし始め、空のグラスの底を覗いた。
「頼るしかないか、あいつに」
「あいつ?」
「私のイラストを描いてくれた人。まぁ──────」
「私のパパだね」
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