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第35話 疑惑

 私たちは、キャピタルシティの大陸平定団本部へと連行された。平定団の本部は、シティの中央に建設された要塞のような施設だ。一般的なギルドハウスとは比較にならない威容を放っている。脱出が困難であることは言うまでもない。


 苦労して手に入れたフィルム――イースターエッグもカイルに奪われてしまった。もっとも、あのフィルムを使用するには幻灯機が必要だ。平定団が幻灯機を入手したとの情報は出回っていない。奴らがイースターエッグの謎を解き明かすまでには、しばしの猶予があるはずだった。今は奪還の機会をうかがうしかない。


 平定団本部に到着した後、私たちは要塞内の講堂へと連行された。講堂内には法壇が設置され、団長のカイルをはじめとする平定団の幹部たちが、私たちを待ち受けていた。さながら軍事法廷の様相である。


「奴がアルマか……」


 レイカさんは、カイルの隣で侍立する長身の男性PC――アルマを注視していた。

 アルマはグリフォンのみならず、あらゆるモンスターを一人で討伐し、必ず生還することから「最強のプレイヤー」と呼ばれていた。

 しかし、目の前にいるアルマは武器を装備していない。余分な装飾を排した灰色の礼服だけを身に纏っている。アルマには、魔法を使ってモンスターを倒したという噂話もある。もしかすると特殊な武器を秘匿しているのかもしれない。


「さて……この度は、我が平定団本部まで足を運んでくれたことに感謝するよ」


 法壇の上に座ったカイルが、尊大な態度で切り出した。


「三麗騎士と言ったか。君たちには、私の部下が随分と世話になったらしいな」


 カイルが、講堂の脇に立っている団員たちを横目で見た。その中には、鉱山で遭遇したソニア、レーベンを追っていたトドロキの姿もあった。彼らは自分たちの失態を恥じているのか、俯いたまま微動だにしなかった。


「見せしめに、私たちを処刑するつもりですか?」


 平定団にとって、私たちは目障りな存在に違いなかった。ここに連れてこられた時点で、命の保証はないのだ。


「……君は何か勘違いをしているな。私は君たちに感謝しているんだよ。私に代わってイースターエッグを発見してくれたのだからな。礼代わりといってはなんだが、君たちに『答え』を教えてやろう」

「答え?」

「レグナント社について調べていたのだろう? 我々は、君たちが探していた答えを知っている。ここへ連れてきたのも、それを話すためだ」


 私たちが探していた答え……カイルは一体何を知っているんだ?


「もったいぶらずにはっきりと話せ。お前たちが知っている答えとはなんだ?」


 レイカさんは苛立(いらだ)った表情で、カイルに回答を促す。カイルは笑みを浮かべながら口を開いた。



「今回の事件の犯人は屋島宗太郎……サクヤ、君の兄だ」



「そんな……!」


 カイルの口から出た言葉に、サクヤさんは驚愕した。


「待て、屋島宗太郎は既に死んだはずだ」


 レイカさんが反論する。既に死亡している人間が犯人とは、どういうことなのか。


「その通りだ……奴は最初から精神に異常をきたしていたんだよ。そうでなければ開発室に火を放って自殺することなどできまい」

「……」


 サクヤさんは言葉を失い、震えていた。兄の死の謎を追ってブルーアースにログインした彼女にとって、カイルの話は到底受け入れられるものではなかった。


「宗太郎は脳波コントロールシステムの開発者だ。奴はブルーアースの開発段階から事件を計画していたのだよ」

「……屋島宗太郎がブルーアースのシステムに深く関わっていたのは事実かもしれません。しかし、それだけで犯人扱いするのは早計ではありませんか?」


 レーベンの話を聞いた時から、宗太郎が今回の事件に関わっていることは、ある程度予想していた。だが、既に死亡している宗太郎が事件の首謀者――管理者であるとは思えない。管理者は現在進行系でブルーアースを監視しているはずなのだ。


「カスミ、君の言いたいことは分かる。だが、我々も宗太郎についての情報を収集し、奴が自殺する直前にブルーアースのシステムに手を加えていたことを突き止めたのだ」

「システムに手を加えた?」


 まさか……管理者とはブルーアースのシステムそのものなのか?


「そうだ……現状では奴が何を考えてこんな事をしでかしたのかは不明だ。しかし、奴が事件に関与していることは疑いようがないのだ」


 カイルとてブルーアースに閉じ込められたプレイヤーの一人に過ぎないはず……なぜ、これだけの情報を入手することができたんだ?


「……さっきからつまらない話を続けているが、お前の話が事実だと裏付ける証拠は何一つないんじゃないのか?」


 レイカさんがカイルに疑念を突きつける。カイルが信用に足る人物でない以上、奴の言葉を鵜呑みにすることできない。


「では聞くが、君たちは宗太郎以外に犯人として挙げられる人物を知っているのか? 現状では奴以外に関与が疑われる人物はいないはずだ」


 ……カイルは、サクヤさんの兄を犯人に仕立て上げようとしているのか。


「あくまで疑い(・・)なんだろう? 現実世界に帰還しなければ十分な証拠は得られないはずだ」

「そうでもないさ……サクヤ、君は宗太郎の計画を知っているのではないか?」

「えっ……」


 カイルから疑惑の目を向けられたサクヤさんは、困惑を隠せずにいる。


「君は自分でベータテストには応募していないはずだ。その君がなぜここにいる?」

「それは、兄さんがなぜ亡くなったのかを調べるために……」

「君は自殺した宗太郎に代わり、奴の計画を見届けるためにここへ来た……そして知っているのではないか? この世界から脱出する方法を」

「そんなことは……」



「憶測で物を言うのはやめなさい!」



 私はサクヤさんの前に立った。


「脱出する方法を知っている? 本当にそうならとっくの昔に脱出していますよ! サクヤさんはこの世界にいい加減うんざりしているんです。貴様のような奴がいるから……!」


 私の態度が急変したせいか、平定団の団員たちがどよめいていた。


「……私の話が憶測の域を出ないことは認めよう。だが、疑惑が晴れたわけではない。サクヤが信用に足る人物かどうかは、今後の君たちの態度で測らせてもらうことにしよう」

「何を企んでいる?」

「簡単な話さ。君たちには大陸平定団の活動に協力してもらいたい」


 協力? カイルの目的は自分だけが英雄になることだ。本気で協力を仰ぐつもりなどあるはずがない。


「私たちを監視するつもりか……!」

「そうじゃない、我々がサクヤを守ると言っているんだ。サクヤが屋島宗太郎の妹だという情報がプレイヤーの間に広がれば、彼女の身に危険が及ぶとは考えないのかね?」


 ……これは脅しだ。サクヤさんが事件の容疑者の妹であるとの情報が広まれば、プレイヤーたちのヘイトはサクヤさんに向けられることになる。カイルはサクヤさんの素性を流布するつもりなのだ。


「汚い真似を!」


 レイカさんが怒りの声を上げた。


「あまり悪く思わないでほしい。我々の指示に従ってくれれば、君たちの安全は保証されるのだからな」


 カイルは私たちを見下すように言った。どこの世界にも、こういった性根の人間が必ず存在する。


「……カスミ、レイカ、ここはカイルさんの言う通りにしましょう」


 ずっと俯いていたサクヤさんが、顔を上げて言った。


「サクヤさん、しかし……」


 私は言葉を詰まらせた。ここで平定団と敵対してしまうことは、サクヤさんを危険にさらすことに他ならない。


「物分かりがよくて助かる。君たちには追って指示を出す。それまでは待機していてほしい……ついでに言っておくが、キャピタルシティは我々の管理下にある。逃げ出そうとしても無駄だぞ」


 カイルはサクヤさんに嫌疑をかけ、彼女の兄を犯人に仕立て上げようとしている。私にはどうすることもできないのか……

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