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第31話 エッグハントⅠ

「みんな、グリフォンの巣はこの峠の先だ。準備はいいかい?」


 私たちは、シズマさんを先頭にグリフォンの巣へと向かった。巣をけしかけるメンバーは、サクヤさんを除いた5名だ。サクヤさんは、グリフォンを誘導する予定の洞窟付近で待機している。

 峠を越えるとグリフォンの巣が眼下に現れた。グリフォンは地上に巣を作る習性がある。針葉樹の幹を集め、巨大な巣を築き上げるのだ。


「いたぞ……グリフォンだ」


 グリフォンは巣の中央に鎮座していた。鷲の頭と獅子の身体を持つ怪物に、天敵などいるはずもない。ただ、縄張りを荒らす侵入者を排除するのみである。


手筈(てはず)通りにいこう。まずは僕がライフルでグリフォンをここまで誘導する。君たちは足止めに専念してくれ」

「分かりました。時間稼ぎは任せておいてください」


 シズマさんがライフルを構える。彼女が装備しているのは、カービンモデルのボルトアクションライフルだ。カービンモデルは取り回しがよく、機動力を確保できるため、囮役には最適な武器だった。


 シズマさんは、ライフルの有効射程ギリギリの位置からグリフォンに向けて引き金を引いた。

 弾丸はグリフォンの身体に命中した。しかし、この距離では、まともなダメージを与えることはできない。攻撃に気づいたグリフォンは、すぐさまシズマさんに向かって突進してくる。


 シズマさんはライフルを持ったまま、グリフォンに背を向けて走り出した。グリフォンを誘い込む洞窟までは、かなりの距離がある。突進してくるグリフォンの時速は50km以上……人間の足では、あっという間に追いつかれてしまう。囮役のシズマさんが一人でヘイトを取り続けるのは困難だった。

 そこで私たちは、シズマさんを追撃するグリフォンの足止めを行う。ナツミさんが作戦のために、大量の石ころを用意していた。


「そらっ! 石ころの雨を浴びせてやりな!」


 ナツミさんの掛け声と共に、私たちは投石を開始した。グリフォンに石つぶてを浴びせ、ヘイトをこちらへ向けさせるのだ。

 怒ったグリフォンは私たちに狙いを変え、鋭い鉤爪で襲いかかってくる。


「石ころを投げ続けろ! ヘイトを一人に集中させるな!」


 私たちは分散してグリフォンへの投石を続ける。石ころはグリフォンにぶつけても簡単に跳ね返ってくるので、すぐに拾い直して攻撃を続けることができる。弾切れを心配する必要はなかった。


 私たちが時間を稼いでいる間にシズマさんは山道を下り、洞窟の入口にたどり着いていた。再びライフルを構え、グリフォンに向けて射撃を行う。

 銃声を耳にしたグリフォンは翼を広げて飛び立ち、シズマさん目がけて滑空攻撃を繰り出してきた。地上での突進とは比べ物にならないスピードだ。


 グリフォンの動きを視認したシズマさんは、洞窟の中へと逃げ込んだ。洞窟の中では、グリフォンも翼を使って飛び回ることはできない。グリフォンは着地して洞窟の中へと入っていく。


「誘導はうまくいったみたいだな」


 グリフォンが洞窟に入ったことを確認すると、ナツミさんは満足げな表情を浮かべていた。


「まだです。シズマさんの脱出を待たないと……」

「あいつなら大丈夫だよ。心配すんな」


 洞窟内から大きな反響音が聞こえてきた。閃光手榴弾の爆発音だ。シズマさんがグリフォンの目を眩ませるために使用したようだ。

 しばらくすると、シズマさんが洞窟の奥から走ってくるのが見えた。後ろからはグリフォンが迫ってきている。


 私は洞窟付近で待機していたサクヤさんと合流していた。サクヤさんは狙撃体勢をとり、洞窟入口の上部に仕掛けられた爆薬に照準を合わせている。爆薬を起爆すれば崩落を発生させることができるだろう。だが、タイミングを誤れば囮役のシズマさんが生き埋めになりかねない。


「サクヤさん、今です!」


 私は、シズマさんが洞窟から脱出するタイミングで、サクヤさんに射撃の合図を送った――サクヤさんがM7000の引き金を引く。弾丸が爆薬に命中し、洞窟の入口を崩落させた。

 シズマさんの背後に迫っていたグリフォンは、崩落に巻き込まれた。モンスターといえど岩盤の下敷きになれば、ただでは済むまい。洞窟の入口付近を土煙が包み込んでいた。


「やったか?」

「ナツミ、死亡フラグ立てないで……」


 ナツミさんが禁句を口にしてしまったので、セリナさんは不安げな顔をしていた。


「……大丈夫です。グリフォンが洞窟から出てくる気配はありません」


 土煙が落ち着いたが、そこにグリフォンの姿はない。シズマさんの立てた作戦通り、グリフォンは洞窟の中に閉じ込められたようだ。


「見事な作戦でした。グリフォンと正面から戦うことなく無力化するだなんて」


 私は、洞窟付近で座り込んでいたシズマさんに声をかけた。かなりのスタミナを消耗したらしく、瓶に入った栄養ドリンクをしきりに飲んでいた。


「いや、まだだよ。急いでグリフォンの巣を確かめないと……」


 シズマさんは立ち上がると、息が整わない内にグリフォンの巣へ向かって歩き始めた。グリフォンが、いつ洞窟から出てくるか分からない以上、時間的な余裕はないのだ。私たちも彼女に続いてグリフォンの巣へと直行した。





「これは……」 


 グリフォンの巣に戻ったシズマさんは、その場で立ち尽くしていた。

 グリフォンの巣には財宝など無かった。代わりに60cmほどの大きな卵が一つだけ置かれていた。グリフォンが産んだ卵のようだ。


「ハズレか……」


 シズマさんは、うなだれながら言った。モンスターの卵を一つ手に入れたところで、現実世界に帰還できるわけがない。眼前の卵は、望みの品ではなかった。


「……何言ってんだよ。卵は見つかったじゃないか」


 ナツミさんはシズマさんを励ますが、彼女自身もどこか諦め気味な表情をしていた。


「これがイースターエッグだって言いたいの?」

「他に何があるっていうのさ?」

「……持って帰って卵焼きにしましょう。これだけ大きければ、みんなで分けて食べられるわよ」


 セリナさんは当初の目的を完全に忘れているようだった。舌なめずりしながら卵を持ち上げようとする。


「あれ……この卵、なんかすごく軽いんだけど?」


 セリナさんは卵を軽々と持ち上げて見せた。殻の大きさに比して、さほど重くないようだ。


「もしかしてその卵、中身は空なんじゃ……」


 シズマさんの表情が更に曇った。


「空の卵じゃ使い道はなさそうだな……」

「グリフォンの卵焼き食べたかったな……」


 期待外れの結果にナツミさんとセリナさんは肩を落とした。


「その卵……私にも見せてもらえませんか?」

「え? いいけど何するつもりなの?」


 私はセリナさんから卵を受け取った。空のダンボール箱のような軽さだった。


「イースターエッグは、ゲームの開発者が意図的に隠している要素です。一見すると何の役にも立たないアイテムが、イースターエッグを見つけるヒントになるかもしれません」

「とりあえずその卵を持ち帰ってみましょうよ。詳しく調べれば何か分かるかもしれないわ」

「うん……」


 サクヤさんの提案に、シズマさんたちは、しぶしぶ従った。私たちはグリフォンの巣から卵を持ち出し、キャンプへの帰路についた。

 私は卵を抱えたまま山道を降りていく。うっかり手を滑らせたりしたら大惨事だ。卵は簡単に割れてしまうだろう。


「カスミ、少し気になることがあるんだけど」


 卵の運搬中にサクヤさんが話しかけてきた。


「サクヤさん、どうしたんですか?」

「巣を作って卵を産んでいたということは、あのグリフォンには(つがい)がいるということよね……」

「まさか……」


 さっきのグリフォンが卵を産んだメスだとすれば……


「カスミ、上を見ろ!」


 レイカさんが叫んだ。

 嫌な予感が当たった――私たちの頭上にオスのグリフォンが現れたのだ。

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