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第27話 シュガーロードをたどれ

 私とレイカさんは、お菓子の材料を入手すべく、サンライトタウンの中央にある市場を目指していた。


「しかし、どうしてカリンだけがお菓子を作れるんだ? 材料とレシピさえ用意できれば、他のプレイヤーでも作れそうなものだが」


 レイカさんが疑問を口にする。カリンさんの能力については、一つ心当たりがあった。


「ひょっとすると、ブルーアースには可視化できないマスクデータが設定されているのかもしれません」

「マスクデータ……隠しステータスのことか」


 ブルーアースに限ったことではないが、ゲームではキャラクターに正規の方法で確認することのできない特殊能力が設定されていることがある。特定の条件を満たすことで発動できる強力な能力が用意されている場合もあるのだ。


「先天的、あるいは後天的なものかは不明ですが、カリンさんは他のプレイヤーにはない特殊な技能を持っていると考えるべきでしょう」

「だが、本来のブルーアースでは食事をとっても味はしないはずだ……カリンの能力には管理者が関与しているんじゃないのか?」


 レイカさんの指摘通りだとすれば、カリンさんは管理者によってステータスを書き換えられている可能性がある。仕様外の現象を引き起こせるとすれば、管理者をおいて他にない。


「しかし、管理者がそんなことをする理由が思いつきません」

「管理者は私たちとは価値観そのものが違うんだろう。そもそも今回の事件を起こした理由自体が不明だ」


 カリンさんがお菓子売りになったことも、管理者の計画の内なのだろうか……真相を確かめるには、カリンさんにお菓子を作ってもらうしかないだろう。





 市場にたどり着いた私とレイカさんは、個人経営の商店を回った。ユリカさんの言っていた通り、お菓子の材料だけが販売されていない。買い占めが行われた形跡はなく、流通そのものが滞っているようだ。


「店を回るのは時間の無駄だな」

「となると、運び屋をあたった方が良さそうですね」


 私たちは、市場の近くにある物流センターへと向かった。物流センターといっても大量の荷物を運べるトラックやベルトコンベアが存在するわけではない。実際の所は、人力でアイテムを運んでいる運び屋たちの溜まり場である(運び屋たちは、商会が物流のために用意した施設を居抜きで利用している)。


 物流センターを見回っていると、運び屋たちの中に見覚えのある顔が混じっていた。


「あれ……あなたはアタゴさんじゃないですか」

「あ、アンタは確かイーストシティの……」


 私が見つけたのは、イーストシティで私とサクヤさんに護衛を依頼してきたアタゴだった。


「貴様……まだ盗品の輸送を行っているのか」


 レイカさんがアタゴを睨みつける。アタゴが盗品を運んでいたことが原因で、私とサクヤさんは危うくレイカさんに殺される所だったのだ。


「ば、馬鹿なことを言うな! 商会が機能しなくなったのに盗品の輸送なんてするわけないだろう」

「どうだろうな」


 レイカさんが銀の槍を握った。周囲の運び屋たちがざわつき始める。


「レイカさん、ここで騒ぎを起こすのは得策ではありません。せっかくなのでアタゴさんから物流についての話を聞きましょう」

「こんな男を信用するのか? こいつは生粋(きっすい)の悪人だぞ」

「ひ、人聞きの悪いことを言わないでくれ。今は商会を離れて個人で運び屋をやっているんだ。前みたいなヤバい仕事に手をつけたりなんてしてないよ」


 アタゴは必死になって弁明した。私は最初からこの男を信用などしていない。ただ、情報を得るために利用するだけのことである。


「アタゴさん……私たちはお菓子の材料を探しているんですが、この町では流通していないようなんです。理由について心当たりはありませんか」

「お菓子の材料……卵や牛乳のことか。その手のアイテムは元々流通量が少ないんだ。食材を使って料理ができるのは一部のプレイヤーだけだからな」

「ですが、食材を出荷している農家自体は、まだ経営しているんでしょう?」

「そのはずだが……」


 私がアタゴに話を聞いていると、血相を変えた男性PCが物流センターに駆け込んできた。


「大変だ! また『黒騎士』が出やがった!」


 周囲でどよめきが起きる。


「黒騎士?」

「最近、運び屋を襲っているP(プレイヤー)K(キラー)のことだよ。奴に襲われた運び屋は殺された挙げ句、積荷を全て燃やされちまうんだ。ここ1か月で何件も被害が出ている……俺たちにとっては悪魔のようなプレイヤーだよ」


 アタゴは怯えた表情で黒騎士について説明した。被害が発生するようになったのは、ここ1か月……


「そういえば、ユリカはここ1か月材料が手に入らなくなったと言っていたな」


 レイカさんも気づいたようだ。黒騎士が現れた時期と、カリンさんがお菓子を作れなくなった時期は、奇しくも一致している。


「アタゴさん、過去に黒騎士が現れた場所は分かりますか?」

「ああ、被害が発生しているのは、主に南方面の街道だよ。この町の運び屋が一番よく利用する道だな」


 だめだ……この情報だけでは黒騎士の目的は特定できない。


「では、襲われた運び屋が運んでいた積荷は分かりますか?」

「過去の配送品のリストは、物流センターに保管されているはずだ。襲われた運び屋の積荷は未着になっているから一目で分かるぜ」


 そう言って、アタゴは物流センターの監督者からリストを入手してきた。未着になっている積荷には、赤いバツ印が付けられている。


「このリストで何かが分かるのか?」


 運び屋たちは輸送の手間を減らすため、一度に複数のアイテムを運ぶことが多い。リストには、中古品の武器からインテリアの壺に至るまで様々なアイテムが記載されている。

 だが、その中でも被害者たちには共通して運んでいるアイテムが存在した。


「卵と牛乳、砂糖に小麦粉……」

「やはりそうか」


 私とレイカさんの読み通り、黒騎士はお菓子の材料を狙っていた。材料を燃やしていたとなれば、黒騎士の目的はカリンさんにお菓子を作らせないことだと推測できる。


「黒騎士の目的は分かった……後は奴を始末するだけだな」


 レイカさんは早くも黒騎士と戦うつもりのようだ。


「アンタ、まさか黒騎士と戦うつもりなのか?」

「そのつもりだが?」

「悪いことは言わない。黒騎士には関わるな。俺たちも腕利きの傭兵を募って奴の討伐を依頼したが、(ことごと)く返り討ちにされちまったんだ」

「そうか、では次は奴が死ぬ番だ」


 レイカさんの言葉に、アタゴは息を呑んだ。


「……アンタが殺し屋って呼ばれる理由が分かった気がするよ」


 いずれにせよ、黒騎士がカリンさんのお菓子作りを妨害しているのであれば、放っておくわけにはいかない。


「アタゴさん、色々聞かせてもらった後で申し訳ないのですが、最後に一つ頼みを聞いてもらえますか?」

「……構わないぜ。アンタには俺のせいで色々と迷惑をかけたからな」


 アタゴは、自分が犯した罪を償うつもりのようだ。本気かどうかは分からないが、せっかくなので利用させてもらおう。


「ありがとうございます。では早速ですが、この町までお菓子の材料を運んできてください」

「ちょっと待て! 黒騎士はお菓子の材料を狙っているんだろ? アンタは俺を生贄にするつもりなのか?」

「その通りです」

「なんだって!?」


 驚愕するアタゴに、私は笑顔を向けていた。

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