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第22話 三麗騎士

 私たちがレーベンの元にたどり着くと、予想外の光景が広がっていた。


「ゔっ……!」


 投擲されたナイフが、団員の額に突き刺さった。


「ば、馬鹿な……!」


 トドロキがたじろいでいた。驚くべきことに、レーベンは既に4人もの敵を仕留めていたのだ。


「レーベンさん、無事でしたか!」

「……思ったよりも早かったな。残りは敵の隊長だけだ」

「ぬううっ、我ら平定団の精鋭がこうも簡単にやられるとは……!」


 予想外の結果にトドロキは憤慨した。


「トドロキ、もはやお前に勝ち目はない。尻尾を巻いて逃げ帰るがいい」


 レーベンは両手に小型ナイフを構えている。彼は小型ナイフの投擲のみで、数的不利を覆していたのだ。


「ふざけるな! 俺は平定団の隊長だ。敵に背を向けることなどできるものかよ!」


 トドロキは大剣を構え、私たちに向けて突撃してくる。


「ぬおおおっ!」

「む、あの構えは……」


 レーベンはトドロキの動きを警戒していた。トドロキは身体を大きく回転させ、大剣を振り回しながらこちらに突撃してくる。


「俺の『旋風剣(せんぷうけん)』を受けてみろ!」


 旋風剣――上位クラスの大剣使いが使用できる攻撃スキルだ。身体を独楽(こま)のように回転させながら大剣を振り回すことで、周囲の物体を薙ぎ倒しながら前進することができる。更に回転中は周囲の攻撃を弾き返す効果まで備わっている。


 あんな攻撃に巻き込まれたらひとたまりもない。敵のスタミナが尽きるまで逃げるのが得策か――


 しかし、スタミナ切れを待つわけにはいかない事情があった。

 ここはキャピタルシティの中心部にほど近い場所だ。周囲には騒ぎに気づいたプレイヤーたちが集まってきている。旋風剣を使用しているトドロキは周りが見えていない。下手をすれば無関係のプレイヤーにも被害を出しかねない状況なのだ。


「私が囮になるわ。カスミとレイカはタイミングを見て攻撃を仕掛けてちょうだい!」

「そんな……危険すぎます!」


 サクヤさんが自ら囮になると言い出した。街の住民を守るためとはいえ、あまりにもリスクの高い選択肢だった。


「カスミ、今はサクヤを信じろ」

「レイカさん……」

「サクヤはお前が知っているよりもずっと強い人間だ。それだけは保証してやる」


 レイカさんの表情に戸惑いはなかった。彼女はサクヤさんの決意を信じているのだ。


「分かりました……私もお二人を信じます!」


 トドロキは、がむしゃらに旋風剣を繰り出してくる。私たちは分散して攻撃を回避するが、道脇の露店が粉微塵(こなみじん)に破壊されてしまった。


「うわあああっ!」

「平定団の野郎……なんてことするんだ!」

「ええい、黙れ!」


 住民の非難など気にも止めず、トドロキは旋風剣による攻撃を繰り返してくる。


 サクヤさんは住民への被害を避けるため、無人の廃屋まで移動していた。廃屋の正面で狙撃態勢を取り、トドロキに向けてライフルを発砲する。

 しかし、トドロキに向けて放たれた銃弾は旋風剣によって阻まれてしまった。


「そこか!」


 銃声を耳にしたトドロキは、すかさずサクヤさんに向けて突撃してくる。このままでは廃屋ごとサクヤさんが斬り刻まれてしまう――


「カスミ、仕掛けるぞ!」


 突撃するトドロキの右側面から、レイカさんが攻撃を仕掛ける。助走をつけて跳躍し、トドロキの頭部に向けて銀の槍を投擲した。旋風剣といえども、頭上からの攻撃を防ぐことはできないはずだ。


「甘いわっ!」


 しかし、トドロキはレイカさんの攻撃を予測していた。回転状態から大剣を振り上げ、頭上から飛来する槍を弾き返したのだ。


 ――だが、こちらの攻撃はまだ終わりではない。


 私はレイカさんとは反対方向から、トドロキに迫っていた。右手で打刀を抜き、スライディングでトドロキの足元に滑り込む。大剣を振り上げていたトドロキの足元はガラ空きだ。私はすれ違いざまにトドロキの足首を斬りつけた。


「ぬわあぁぁっ!」


 足首を斬られたトドロキは転倒し、旋風剣の勢いそのままに地面を転がっていった。


「ぐっ……ううっ!」


 足首を斬り裂かれ、痛みに(うめ)くトドロキの元へ銀の殺し屋がやってきた。


「どうする? このまま続けるか?」


 銀の槍は既に回収されていた。冷たく光る穂先がトドロキの喉元に突きつけられる。


「殺してくれ……」

「なんだと?」


 レイカさんは驚いていた。命乞いをしてくるとばかり思っていた敵が、逆に死を求めてきたのだ。


「このまま逃げ帰ったら、俺は仲間の信用を失ってしまう……頼む、殺してくれ」

「……分かった」


 殺し屋はそう答えると、トドロキにトドメを刺した。





「見事な戦いぶりだった」


 私たちが戦いを終えた後、レーベンが現れた。


「ブルーアースの三騎士……いや三麗騎士(さんれいきし)とでも呼ぶべきか」

「レーベン、高みで見物していたのか?」


 レイカさんは不満げな表情で問いただした。


僭越(せんえつ)ながら君たちの力を測らせてもらった。イーストシティの盗賊団を打ち破ったという話も嘘ではないようだな」

「力を測っただと? 無駄なことに時間を使う男だ」

「すまなかった……だが、時間がないのは君たちの方だ。すぐにも大陸平定団の討伐隊がやってくるぞ」


 大陸平定団の団員を倒してしまった以上、奴らからの追撃は避けられないだろう。


「君たちは、すぐにこの街を()った方がいい。私はキャピタルシティで身を隠しつつ、管理者の情報を探るつもりだ」

「レーベンさん、私たちはこれからどうすれば……」


 サクヤさんが不安を口にした。現実世界に帰還するにしても、管理者の正体を探るにしても、現時点では情報が少なすぎる。真相に近づくには、糸口が必要だった。


「……イースターエッグを探せ」

「イースターエッグ?」

「この世界の秘密を握る鍵だ」

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