表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/60

第21話 分岐路

 私たちがレーベンの隠れ家を出ると、正面から10人のPCが近づいてきた。PCたちの防具には、大陸平定団のエンブレムがマーキングされている。


「レーベン、お前がここに隠れていることは分かっている。姿を見せろ!」


 赤い兜を付けたリーダー格の男が大声で叫んだ。眼前にいる私たちのことは気にかけていない様子だった。


「昼間から騒々しい……私に一体何用だ?」


 レーベンが、しぶしぶ隠れ家から出てきた。どうやら大陸平定団には関わりたくない理由があるらしい。


「俺は大陸平定団のトドロキだ……お前が情報屋のレーベンだな?」

「情報屋を名乗った覚えはない。プレイヤーたちが勝手にそう呼んでいるだけだ」


 詰め寄るトドロキに対し、レーベンはそっけない態度をとった。


「……カイル団長がお前を探している。我々にご同行願おうか」

「断る」


 レーベンは即答した。


「貴様……!」


 無下に扱われたトドロキは声を震わせる。


「私が平定団の所業を知らないとでも思ったか? 鉱山の占拠、下位プレイヤーへの恫喝行為、個人商店へのみかじめ料の請求……お前たちのような与太者に手を貸すつもりはない」


 先の鉱山占拠事件からも分かるように、大陸平定団は各所で問題を起こしていた。その独善的な行動は、「英雄」になることを目論む団長のカイルが原因だとされている。レーベンが平定団への協力を拒むのは当然の帰結であった。


「プレイヤーたちを帰還させるために戦っている我々を愚弄(ぐろう)するとは……この男を引っ捕らえろ!」


 団員たちが武器を構え、レーベンに向かって突撃してくる――しかし、一人の戦士が行く手を阻んだ。


銀の殺し屋(シルバーマーダー)……!」


 レイカさんが銀の槍を平定団に向ける。銀の殺し屋を前に、団員たちは後ずさりした。


「レーベン、お前はさっさと逃げろ」

「レイカ、君は一体何を……」


 レイカさんの行動に、レーベンも驚きを隠せないようだった。


「勘違いするなよ。私はお前を信用しているわけじゃない。平定団のやり方が気に食わないだけだ」

「しかし、相手は10人だぞ。いくら君でも……」

私たち(・・・)を安く見積もるな」


 レイカさんが、私とサクヤさんに視線を向けた――戦うのは彼女一人ではない。


「レーベンさん、ここは私たちに任せてください」


 私はレイカさんの隣に立った。打刀の鯉口を切り、戦闘態勢をとる。


「あなたには兄さんのことを教えてもらいました……今度は私たちがあなたを助ける番です」


 続いてサクヤさんも前に出る。平定団を前にしても怖気(おじけ)づく様子はない。


「分かった……だが、君たちだけで戦うのは無謀だ。私が奴らを分断する。ついて来てくれ!」


 レーベンは背後の路地に向かって走り始めた。私たちもその後を追いかける。


「逃がすな! 平定団に逆らう者共を処断しろ!」


 トドロキを先頭に、団員たちが追撃してくる。逆上した連中は、自らの任務すら忘れているようだ。エゴを剥き出しにして襲いかかってくる。


「レーベンさん、一体どこに向かっているんですか?」

「……もう少しだ」


 レーベンの後ろを走っていると、正面に分岐路が見えてきた。


「私は左の道を行く。君たちは右へ走れ!」


 レーベンの言葉に従い、私たちは分岐路を右に進んだ。


「分かれ道だ!」

「レーベンはどっちに向かった?」

「二手に分かれて追撃しろ!」


 レーベンの読み通り、平定団は戦力を分散させて追撃してきた。私たちの後ろからは、5人の団員が追いかけてくる。


「5対3か……レーベンがくたばる前に始末するぞ」


 レイカさんが反転し、迎撃の構えを取る。


「サクヤは後方の住居に登れ。私が合図したら正面の敵を狙撃しろ」

「任せておいて!」

「カスミは迂回して敵の背後に回れ。奴らが撤退するところを見逃すな」

「撤退……? ふふっ、最初から勝つつもりなんですか?」

「当たり前だろ」


 レイカさんの指示に従い、私たちは配置についた。追撃してきた5人の団員は、既にレイカさんの眼前に迫っている。


「敵は銀の殺し屋(シルバーマーダー)だけだ!」

「この場で仕留めてやるぜ!」


 太刀を構えた二人組のPCが、レイカさんに向けて突撃してくる。


「サクヤ、今だ!」


 住居の屋上に登っていたサクヤさんがライフルの引き金を引いた。


「ゔああぁぁっ!」


 M7000の銃口から放たれた弾丸が、団員のボディーアーマーを貫通した。以前まで使用していた初心者用のライフルとは段違いの威力だ。


「なっ、狙撃兵か!?」

「……どこを見ている?」

「――!」


 動揺した太刀使いの団員に、正面から繰り出される銀の槍を防ぐ術はなかった。


「ぐあああっ!」


 太刀使いの二人組は瞬く間に沈黙してしまった。


「う、嘘だろ……」

「あっという間に二人やられたぞ!」

「レーベンはこちらにはいない……撤退して本隊に合流するんだ!」


 敵わないと判断した残りの団員たちは、元来た道を引き返し始めた。


「レイカさんの予想通りでしたね」

「えっ――」


 団員たちの背後に迂回していた私は、すれ違いざまに団員の一人を斬りつけた。団員は左手に盾を装備していたが、構える暇もなく崩れ落ちる。抜刀術は敵意を隠すことで、暗殺にも転用できるのだ。


「ちくしょう! このままで済むと思うなよ!」


 残っていた団員の一人が片手剣を抜き、私に斬りかかってくる。

 だが、その剣先が私に届くことはなかった。


「ゔわあああっ!」


 銃声が鳴り響き、背後から撃たれた団員がその場に倒れる。ライフルの再装填を済ませたサクヤさんは、スコープを用いて正確に団員の胴体を撃ち抜いていた。


「あ、ああ……そんな……」


 団員が一人だけ取り残されていた。重量のある大斧を装備していたせいで、他の団員よりも動きが遅れていたのだ。


「こんな……女の子相手に負けるなんて……」


 団員は今にも泣き出しそうな声を出している。もはや戦意は残されていなかった。


「あなたに用はありません。一昨日に来てください」

「うっ、うわあああっ!」


 団員は武器を捨てて逃げ出した。悪意を持った人間ではないのだろうが、ろくでもないギルドに所属したのが運の尽きだ。  


「片付いたか」

「カスミ、怪我はない?」


 レイカさんとサクヤさんが駆け寄ってくる。


「私は大丈夫です……それよりもレーベンさんが心配です。早く合流しましょう」


 レーベンは単独で5人の敵を相手取っているのだ。一刻も早く救援に向かう必要がある。私たちは分岐路を戻り、レーベンの元へと急いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ