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第19話 導きを求めて

 ルミナスタウンを出発して数日後、私たちは大陸中央のキャピタルシティにたどり着いていた。大陸最大の拠点であるキャピタルシティには、工房や市場はもちろんのこと、戦技訓練を行うための地下訓練場まで用意されている。

 現在、ベータテストが開始されてから既に6か月は経過している。大陸で最も大きな街ということもあり、多くのプレイヤーがこの街を中心に活動を続けていた。


 大陸各地の財宝を探し求める者。

 ひたすらにモンスターを倒し続ける者。

 武器職人として腕を振るう者。


 それぞれの思惑は異なるが、最終的な目標が現実世界への帰還であることに違いはなかった。現実世界に家族を置いたまま、不安な日々を過ごす者が大勢いるのだ。

 しかし、事件の発生から6か月経過した現在においても、プレイヤーたちが現実世界に帰還するための有益な情報や指針は何一つ見つかっていなかった。


 現実世界がどうなっているのか、帰還方法が見つかる日は来るのか……プレイヤーたちは何の導きもないまま、この世界の住人として生きていくしかなかった。


 私たちはルミナスタウンで得た情報を元に、「レーベン」というプレイヤーを探していた。情報屋として知られるレーベンに接触し、レグナントについての情報を得ることが目的だ。

 レーベンの素性について、詳しいことは何も分かっていない。ただ分かっているのは、このキャピタルシティで何かを調査しているという一点だけだった。





「レーベンさんは一体どこにいるのかしら……」


 宿の待合室で、サクヤさんが疲れ気味に呟いた。街にたどり着いてから既に3日間レーベンを探し続けているが、手がかりは一つも得られていない。


「奴は神出鬼没な情報屋だと聞いている。そう簡単に人前に姿は現さないだろう」


 レイカさんも他のプレイヤーを通じてレーベンの居場所を調べていたが、目撃情報すら入手できていなかった。今はレーベンがこの街から出ていないことを期待するしかない。


「かくなる上は、レーベンの方から来てもらうしかありませんね」

「カスミ、一体何をするつもりなの?」


 サクヤさんが不思議そうな顔で問いかけてきた。


「まずは街の至る所に、私たちがレーベンを探しているという張り紙を出します」

「流石にそれだけじゃ来てくれないと思うけど……」

「いえ、レーベンには恐らく自分を衆目に晒したくない理由があるのです。私たちが人通りの少ない場所に待機していれば、必ず向こうから姿を見せます」


 レーベンは、ブルーアースの各所でプレイヤーの前に突然現れては消える謎の人物として知られている。その行動を鑑みるに、素性を明かせない理由があると考えるべきだろう。


「張り紙か……そんなもので本当にレーベンが動くのか?」


 レイカさんもレーベンの動向に疑念を抱いているようだった。


「大丈夫ですよ。張り紙も既に用意してあるんです。これを見れば、レーベンも私たちの力になってくれるに違いありません」


 私は二人に手製の張り紙を見せた。

 




 レーベンさんへ


 レグナントについて、お聞きしたいことがあります。どうか私たちを助けてください。


 カスミ サクヤ レイカ





「……こんなもので本当に大丈夫なの?」

「流石に来ないだろ。こんな適当な張り紙一枚で……」


 二人は揃って不安げな声を出した。


「心配しないでください。レーベンの過去の行動を調べましたが、各地でプレイヤーを助けていたのは事実のようです。後はレーベンが私たちに協力してくれることを信じるしかありません」


 私は二人をなんとか説得し、張り紙を出すことに同意してもらった。

 ……頭のいい人間であれば、もっとスマートな方法で問題を解決できるのだろうが、私にはこんな方法しか思いつかない。所詮、私は「偽物」なのだ。





 翌日、私たちは張り紙を貼り終え、街外れの教会に集合していた。

 教会といっても、プレイヤーを導いてくれる聖職者は配置されていない。ゲームシステム上、プレイヤーが訪れる必要のない施設だった。

 この施設に足を運ぶプレイヤーはほとんどいない。レーベンが人目を避けて行動しているのであれば、教会に姿を現す可能性は高いはずだ。


「本当にレーベンは来るのか?」


 レイカさんは苛立(いらだ)ちを隠せないようだった。既に私たちが集合してから3時間は経過している。そろそろ我慢の限界なのだろう。


「今は信じるしかありません」


 私は、誰もいない祭壇に向けて祈りを捧げていた。

 ……人は無力な生き物だ。自分にできることがなくなれば、後は祈ることしかできない。


「カスミ、あなたがいくらお祈りしたって神様は応えてくれないわ」


 サクヤさんがいつになく冷たい言葉を浴びせてくる。彼女は明らかに私の行為を責めていた。


「サクヤさん……どうしてそんなことを言うんです?」

「だって、あなた『嘘つき』でしょ?」

「……」


 私は祈ることをやめ、祭壇に背を向けた。


「……もう十分だろう。私は先に帰るぞ」


 しびれを切らしたレイカさんが教会の扉を開けようとしたその時――



「待ちたまえ」



 後ろを振り向くと、一人の男が祭壇に立っていた。

 黒いローブを身に纏った男性PC――その男こそ私たちが探していた情報屋、レーベンだった。

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