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第18話 光の奪還者

 エンドラの始末が済んだ後、私たちはヒカリさんを連れてルミナスタウンへと帰還した。


「ヒカリさんだ! ヒカリさんが帰ってきたぞ!」

「ヒカリさん、無事だったんですね!」


 ヒカリさんの姿を目にして、ヒカリショップの店員たちは歓声を上げた。救出に協力してくれたプレイヤーたちも加わり、皆で再会を喜び合った。


「皆さん……ご心配をおかけして申し訳ございませんでした」

「何言ってるんですか。僕たちこそヒカリさんを助けなければいけないのに、何もできなくて……」


 ヒカリさんと店員たちは、再会を喜びつつも互いに頭を下げ合った。その姿を見てサクヤさんは涙ぐんでいた。

 

「カスミさん、サクヤさん、レイカさん……私がこの町に戻ってこれたのは、あなた方のおかげです。なんとお詫びしたらいいのか……」


 ヒカリさんが私たちに向かって深く頭を下げてきた。


「私は何もしてませんよ。正義の味方にピンチを助けてもらっただけなんですから」


 私は隣にいるレイカさんに視線を送った。今回ばかりは、何一つ嘘は言っていない。


「こんな時までふざけるな、馬鹿……」


 レイカさんは悪態をついた。彼女は人から感謝されるために戦っているわけではない。自分の信じる正義のために戦っているだけなのだ。


「レイカ、あなたは本物の正義の味方なのよ。もっと自分の行いに誇りを持つべきだと思うわ」


 サクヤさんもレイカさんに賛辞を贈った。彼女にとっても、レイカさんの存在は心の支えに違いなかった。


「レイカさん……あなたのような勇敢な女性に出会えたことは、私の人生の誇りです。本当にありがとうございました」

「……そんな言葉は必要ない。あなたが無事ならばそれで十分だ」


 ヒカリさんの感謝の言葉を受けて、レイカさんがようやく安堵の言葉を口にした。


「だが、これで全てが解決したわけじゃない。商会の連中もしばらくは大人しくしているかもしれないが、いずれは再び悪事を働こうとするだろう」


 レイカさんが懸念を口にした。エンドラに制裁を加えたとしても、商会そのものが無くなったわけではない。悪意を持ったプレイヤーが消えることはないのだ。


「その件なんですが……今回ヒカリさんの救出に協力してくれたプレイヤーたちと相談して、この町に自警団を作ることにしたんです」


 ヒカリショップの店員たちが今後の対策について説明した。彼らとて何もしていないわけではなかった。ヒカリさんを救出した後のことも考えて、ヒカリショップの利用客たちに協力を仰いでいたのだ。


「僕たちがブルーアースから現実世界に帰還できる日が来るのかは分かりません……でも、今はこの世界で生きるためにできる限りのことをやっていきたいと思うんです」

「そうか……」


 店員の言葉を聞いて、レイカさんは胸を撫で下ろした。正しき心を持ったプレイヤーたちが、かけがえのない存在であることをレイカさんは知っているのだ。


「私たちはこれからキャピタルシティに向かいます。この町に残ることができないのは残念ですが……」

「カスミ、その前にもう一つやるべきことがあるでしょう。私のライフルを新調してくれるんじゃなかったの?」


 サクヤさんが呆れ気味に言った。今更だが、私たちがヒカリショップを訪れたのは、彼女の武器を買うためだったのだ。


「……そう言えばそうでしたね。ヒカリさん、帰ってきたばかりで申し訳ないのですが、私たちにライフルを売っていただけませんか?」

「それでしたら……」


 ヒカリさんが店の中へと駆け込んでいった。しばらくすると、ライフルを収納するためのケースを抱えて戻ってきた。


「どうぞこれをお受け取りください。お支払いは必要ございません」


 ヒカリさんはそう言って私たちにケースを差し出した。


「ええっ!? そんな……悪いですよ」

「何を仰るのですか。これぐらいのお礼は当然のことです」


 ケースの中には「M7000狙撃銃」が収められていた。可変倍率スコープを搭載したボルトアクションライフルの上位モデルだ。


「こんな貴重な武器を……本当にいいんですか?」

「あなたたちは、お金よりも大切なものを知っています。この武器は正しき心を持った人にこそ使っていただきたいのです」

「……分かりました。この武器は人々を悪意から守るために役立てさせていただきます」


 私たちはヒカリさんからライフルを受け取り、三人揃って彼女にお辞儀した。


「カスミさん、本来のブルーアースはプレイヤー同士が交流し、喜びや感動を分かち合うために創られた世界なんです……これからも辛いことや苦しいことが続くかもしれません。でも、そんなときこそ、この世界で生きる人々のことを思い出してください」


 ヒカリさんは人を信じる心を失ってはいなかった。彼女のようなプレイヤーがいる限り、この世界から希望の光が消えることはないだろう。


「ヒカリさん……私たちも、あなた方のご健闘をお祈りします」


 私たちはヒカリさんたちに別れを告げ、ルミナスタウンを後にした。


 人の心は必ずしも醜いものではない。ヒカリさんたちのようなプレイヤーの存在は、私たちに生きる希望を与えてくれた。

 混沌と悪意が蔓延(まんえん)するブルーアースの中で、人々は生き続ける。いつか現実世界に帰れる日が来ることを信じて生き続ける。それこそが私たちの戦いなのだ。

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