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第15話 不徳の商人

 私とサクヤさんは、ルミナスタウンの南西にあるエンドラの館へと向かった。目的はヒカリショップの店長、ヒカリさんの救出だ。

 私たちは武器を積んだ荷車を引きながら、エンドラの館に近づいていた。武器と荷車はヒカリショップの店員から借り受けたものだ。

 

 私たちは商人を装ってエンドラの館に潜入する手筈(てはず)になっている。まずはエンドラに商談を申し込み、珍しい武器があるので実物を見せたいと持ち掛ける。奴が表に出てきた所で、商材に偽装した武器を突きつけて拘束する。その後は、エンドラの身柄と引き換えにヒカリさんを救出するというシナリオだ。


「そこの二人組、止まれ!」


 館の門前で、見張りの用心棒が私たちを制止した。


「お前たち、ここに何をしに来た?」

「わたくし遠方から参りました、商人のカスミと申します。是非ともエンドラ様と商談をさせていただきたいのですが……」

「だめだ。エンドラさんは誰とも会わない。そういう決まりなんだ」


 用心棒は私たちを門前払いしようとする。やはりエンドラは外部の人間を警戒しているようだ。


「そんなことを仰らずに……どうかこれをお納めください」


 私は用心棒に10万esを手渡した。本来は武器を購入するための資金だが、今はヒカリさんの救出が最優先だ。


「……エンドラさんに話だけは通してやる。そこで待っていろ」


 金を受け取った用心棒は館の中へと入っていった。

 ……所詮、用心棒たちは金で雇われている身だ。本気でエンドラに忠誠を誓っているわけではない。金さえ渡してしまえば、コントロールすることは容易なのだ。


「エンドラさんの許可が出た。二人とも荷物を置いて中に入れ」


 館から出てきた用心棒が、私たちを門の内側へと案内した。他の用心棒たちは、荷車の積荷を調べているようだ。


「ちょっと、人の荷物なんだから乱暴に扱わないでくださいよ」

「そうはいかないんだよ。爆薬でも持ち込まれたら大変なことになるからな」

「そんな恐ろしいことしませんよ……」


 私たちはしぶしぶ荷物を置いて館の中に入った。館の内装には華美な装飾が施され、大陸の各地から集められた調度品が所狭しと置かれている。ゲームシステム上はギルドハウスの一つに過ぎないが、かなりの金をかけて改修されているようだ。

 私たちは階段を登り、館の2階にあるエンドラの部屋へと案内された。


「この部屋でエンドラさんがお待ちだ……武器は渡してもらうぞ」


 私たちはエンドラの部屋の前で、用心棒に武器を手渡した。ブルーアースにおいて武器を他人に渡すことは自殺行為だが、エンドラを油断させるためにはやむを得ない措置だった。


「あなたですか……私と商談を希望されている女性というのは」


 部屋に入ると、エンドラが私たちを待ち受けていた。

 エンドラは黒いコートを身に着けた男性PCだった。コートは金の装飾が施された特注品だ(装飾の有無で性能は変わらないので、完全に趣味の域である)。側近の男には剣を持たせているが、自身は武器の代わりに酒の入ったグラスを手にしている。自ら武器を振るう機会など皆無なのだろう。


「今日は珍しい酒が手に入りましてね……ご一緒にいかがです?」

「……遠慮しておきます」


 にやけ顔で酒を勧めてくるエンドラは、時代劇の悪徳商人そのものだった。気持ち悪いぐらいにハマり役なのだ……こんな男とはさっさとおさらばしたい。私は本心を悟られぬよう、エンドラに話を切り出した。


「突然の訪問にもかかわらず、商談に応じていただき感謝いたします。わたくしは……」

「あなたの目当ては『ヒカリさん』でしょう?」


 ……! いや、待て、エンドラは私たちが敵かどうかを見極めようとしているだけだ。私たちの目的に気づいているわけではない。


「何を仰っているんです? わたくしは武器の取引をするために……」

「ふふ、私を安く見てもらっては困る。あなたが銀の殺し屋(シルバーマーダー)の協力者であることはお見通しですよ。そもそもあなたは商人には向いていない。お姫様(・・・)の付き人がお似合いですよ」


 エンドラはサクヤさんを指しながら嘲笑した……サクヤさんは何も言わずにエンドラを睨みつけている。悔しいが、エンドラは私たちの目的を全て把握しているようだ。


「荷車に載せた武器を商材と偽り、私を油断させたところで武器を突きつける……悪い作戦ではありませんが、詰めが甘いですね」


 エンドラが左手で合図を出すと、部屋に二人組の用心棒が入ってきた。連中はよりにもよって、私とサクヤさんから奪った武器をこちらに向けてくる。


(皮肉のつもりか)


 狼狽(うろた)える私たちを前に、エンドラは不敵な笑みを浮かべた。


「あなたたちを侵入者として始末することは簡単だ……とはいえ、女性を痛めつけるのは流石に後味が悪い。我々の邪魔をしないと約束していただけるのであれば、今回の件は不問としましょう」

「あなた、何様のつもりよ。ヒカリさんを誘拐した悪人の癖に!」


 サクヤさんは強い口調でエンドラを非難した。初めて会った頃の彼女からは考えられない行動だった。レイカさんと行動を共にする内に、サクヤさんの心にも正義感が芽生えていたのだ。


「誘拐とは人聞きが悪い。私は話をするためにヒカリさんを招待しただけのことです。乱暴なことは何一つしていませんよ」

「……だったら私たちをヒカリさんに会わせてください。彼女の身は無事なんでしょう?」


 私はエンドラを挑発した。奴とて商会の当主……表向きは悪事を働いていないとアピールしたいはずだ。そこに付け入る隙がある。


「ええ、構いませんよ……ヒカリさんをお連れしろ」


 エンドラが側近に指示を出した後、一人の女性PCが部屋に入ってきた。

 どこか憂いを帯びた黒髪の女性PC……それがヒカリさんだった。

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