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第14話 奪われた光

「カスミ……サクヤのライフルは新調しなかったのか?」


 レイカさんが、サクヤさんのライフルが新調されていないことに気づいた。私たちがルミナスタウンの工房で作成したのは防具だけだった。


「鉱石は防具の作成に全て使ってしまったんですよ。ライフルは既製品を購入しようと思います」


 私はアビスゴーレムの討伐報酬金を銀行から引き出していた。その額80万es……これだけあれば高性能な武器を調達することも可能だろう。


「それなら、この町にある『ヒカリショップ』を使え。あの店なら、そこそこの武器が買えるだろう」


 私たちはそのままヒカリショップへと向かった。レイカさんによれば、ヒカリショップは主にリユース品の販売を行っており、良心的な価格で装備を購入できるらしい。ちなみにヒカリショップという店名は、店長の名前に由来するものだそうだ。


「……様子がおかしいな」


 ヒカリショップの近くまで来たところで、レイカさんが異変に気づいた。店の前で、店員たちが集まって何かを話しているようだ。


「商会の奴らめ。まさかここまでやるとは……」

「ヒカリさん無しじゃ店の経営は無理だ。これからどうすればいいんだ……」


 店員たちの会話が聞こえてくる……何やら不穏な雰囲気だ。


「あの、私たち武器を買いに来たんですけど、何かあったんですか?」


 私は店員の一人に尋ねた。男性の店員は困惑した表情で口を開いた。


「じ、実は店長のヒカリさんが、商会の用心棒たちに誘拐されたんです」

「なんだと!?」


 レイカさんが驚きの声を上げた。誘拐事件……ルミナスタウンもそこまで治安のいい場所ではないようだ。


「ヒカリさんは、困窮しているプレイヤーたちのために相場よりも安い価格でアイテムを販売していました。でも商会の連中は客を取られるのを嫌って、私たちに嫌がらせをしてきたんです」


 男性店員が私たちに事情を説明した。大陸各所の拠点にアイテムを流通させている商会にとって、相場よりも安値でアイテムを販売するヒカリショップは目障りな存在に違いなかった。


「ヒカリさんは商会の圧力に屈しませんでした。僕たちも彼女の考えに賛同して、店を守ろうとしたんですが……」

「奴らは用心棒を使ってヒカリさんを誘拐したわけか」


 レイカさんの声には強い怒りがこもっていた。彼女はこのような非道を許せる人間ではない。


「ヒカリさんは今どこにいるんです?」

「……商会の当主『エンドラ』の館です。エンドラの館は、ルミナスタウンの南西にあります」


 店員は地図を取り出して、私に館の位置を説明した。商会の当主が構える館となれば、厳重な警備が敷かれていることは想像に容易(たやす)い。


「早くヒカリさんを助けにいきましょう!」


 サクヤさんが焦燥した様子で、ヒカリさんの救出を提案する。しかし、店員の一人がそれを(いさ)めた。


「だ、だめですよ! エンドラの館には金で雇われた用心棒たちが何人もいるんです。あんな場所に乗り込むなんて自殺行為です!」

「でも放ってはおけないわ。ヒカリさんがいなければ、お店を続けることもできないんでしょう?」

「それはその通りなんですが……」


 店員たちは肩を落としていた。相手がブルーアースの市場を牛耳る商会ともなれば、怖気(おじけ)づくのは致し方ないだろう。


「なんとかして館に潜り込むしかありませんね」

「エンドラは用心深い相手だ。この前の盗賊団のようにはいかないぞ」


 レイカさんがいつになく慎重な態度を見せた。エンドラに戦いを挑むことは、商会そのものを敵に回すも同然だった。厳しい戦いになることは言うまでもない。


「レイカさんは商会とも戦ったことがあるんですか?」

「ああ……私は以前から、奴らの盗品の取引を邪魔していたからな。エンドラが抱えている用心棒たちと何度も戦ったことがある」

「それは厄介ですね……」


 エンドラはレイカさんの介入を警戒しているはずだ。彼女がルミナスタウンに来ていることも感知している可能性がある。ヒカリさんの救出も考慮すると、正面から戦いを挑むことはできない。


「カスミ、エンドラの館に乗り込むにはどうすればいいと思う?」


 サクヤさんが私に問いかける。彼女は会ったこともないヒカリさんを本気で助けようとしているのだ。


「エンドラは商会の当主……アイテムの取引を持ち掛ければ、油断させることができるかもしれません」

「正面から戦いを挑まずに、商談相手として館に潜入するのね」

「……悪い作戦ではないが、私はついていけそうにもないな」


 レイカさんが(うつむ)きながら言った。商談相手を装うのであれば、用心棒たちに顔を知られているレイカさんを連れていくわけにはいかなかった。


「……まずは私とサクヤさんが館に乗り込みます。レイカさんは万が一の事態に備えて待機していてください」

「……」


 レイカさんは無言のまま頷いた。

 だけど私は知っている。彼女は悪を前にして、何もせずにいられる人間ではないのだ。

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