第13話 戦装束
ルミナスタウンに帰還した私は、サクヤさんたちと今後の方針について話し合った。
サクヤさんたちは、大陸中央に存在するキャピタルシティについての情報を入手していた。キャピタルシティは、大陸の中でも最大の都市として位置付けられており、様々な施設が存在する一大拠点だ。
だが重要なのは、キャピタルシティに情報屋の「レーベン」が滞在しているということだ。
レーベンは神出鬼没の情報屋として知られている。迷宮に迷い込んだプレイヤーに無償で脱出経路を教えたり、街道に出現した強力なモンスターの攻略方法を街の掲示板に書き込んだりしている謎の人物だ。
サクヤさんたちは、レーベンに助けられたプレイヤーから偶然話を聞くことができたらしい。現在レーベンは何かを調査するために、キャピタルシティに滞在しているというのだ。
レーベンについては、実像がはっきりとしないものの、ブルーアースに詳しい人物であることは間違いないだろう。レグナントの関係者という線もある。接触できれば、サクヤさんの兄についても情報が得られるかもしれない。
いち早くキャピタルシティに向かいたいところではあるが、同時に私たちの装備を新調する必要もあった。新しい街に進むためにはモンスター……そしてプレイヤーとの戦いに備えなければいけないのだ。
私たちは早速装備の新調に取り掛かった。ルミナスタウンには装備を生産するための工房が用意されている。必要な素材を持ち込むことで、新たな装備を入手することができるのだ。
だが、工房に職人のNPCは配置されていない。あらかじめ用意されている設計図をもとに、プレイヤー自身が装備を作成する必要があるのだ。
今になって考えてみれば、グラインダーキットを使って有明月を作成できたのは、プレイヤー自身が装備を生産するシステムが用意されていたおかげなのだろう。
私はサクヤさんを連れて工房に入っていた。武器は既に有明月を作成していたので、鉱山で入手した鉱石は防具の作成に使用することにした。
工房には装備の作成に必要な機材が取り揃えられており、防具の新調は順調に進むはずだった。
だが、私が採寸のために服を脱ごうとすると、サクヤさんが発狂してしまったので、作業には丸一日かかってしまった(結局、目隠しを付けた状態で採寸する羽目になった)。
「なんだ、その格好は……」
作業を終えて工房を出ると、表で待っていたレイカさんがジト目を向けてきた。私は既に新しい防具を身に纏っている。
「『ステラストラ』っていう防具ですよ」
「防具? ドレスの間違いじゃないのか?」
ステラストラは鉱石を用いた防具だ。月鉱石は有明月の作成で使用してしまったので、代わりに回収した汎用鉱石を使用している。
一見すると青いドレスのようにも見えるが、ゲームシステム的には立派な防具だ。近接戦闘の邪魔にならないようにスカートは短めになっている。足にはサクヤさんからの強い要望でタイツを履かされている(本来はニーソックスを組み合わせるのだが、なぜか猛反対された)。頭部には兜の代わりにベレー帽を装備した。
「インナーは鉱石を使って強化してあります。見た目以上に防御力は高くなっていますよ」
「理屈は分かるが……」
レイカさんは「ジルバリッター」と呼ばれる銀色の防具を身に着けている。左腕はプレートアーマーで覆われているが、槍を持つ右腕はほとんど露出している。彼女の装備は元々高性能なので、今回は更新していない。
「レイカさんは、かっこいい防具を着てますよね」
「……見た目で防具は選んでいない。使いやすい装備を選んでいるだけだ」
そんなことを言う彼女だが、後頭部には黒色の大きなリボンを付けている。短めの銀髪と合わさって、とてもかわいい……かわいいって言ったら殺されてしまうんだろうな。
「カスミ……あなた自分が男だってこと忘れてない?」
呆れた表情のサクヤさんが工房から出てきた。彼女も新しい防具を装備している。「スカウトクロス」と呼ばれる軽量で動きやすい緑色の防具だ。
「心配しなくても忘れていませんよ」
「だったら、なんで女性用のスカートを履いてるのよ?」
「これは元々そういうデザインの防具なんですよ」
ブルーアースは元々MMORPGだ。この手のゲームでは、凝ったデザインの女性用防具が多数登場する。
ステラストラもどちらかといえば、デザインを重視した防具だ(防具としての性能に問題があるわけではない)。戦闘服ではあるが、お洒落なドレスのようにも見える。デザイナーも相当気合いを入れてデザインしたに違いない。
一方でサクヤさんが装備しているスカウトクロスは、現実世界の軍服を模した防具だ。軽量といっても露出は少なめで、やや地味な印象を受ける。ライフルの運用に適しており、選択自体は間違っていないのだが……
「サクヤさんこそ、もっとかわいい防具を選んでもいいと思うんですけど」
「かわいいとか、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
「見た目は大事ですよ。馬子にも衣装という諺があるでしょう?」
「だからって、こんなに短いスカートを履くんじゃない!」
サクヤさんは顔を真っ赤にしながら私のスカートの裾を引っ張ってきた。危うくスカートが脱げてしまうところだ。
……今日のサクヤさんは何かがおかしい。いや、元々こんな性格だったのかもしれない。彼女の本質を理解するには時間がかかりそうだ。




