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第11話 石拾いの冒険

 ルミナスタウンにたどり着いた私たちは、二手に分かれて行動することになった。

 サクヤさんとレイカさんはタウンで情報収集を行う。私はタウンの北側にある鉱山で、装備の作成に必要な鉱石を入手するという手筈(てはず)だ。

 装備は店で直接購入することも可能だが、素材となる鉱石を入手することで、より強力な装備を作ることができる。レイカさんから教えてもらった情報だ。


 ルミナスタウンの近くにある鉱山は、大して強いモンスターが出現しないわりに良質な鉱石が入手できるらしい。鉱石の収集のみであれば、私一人で十分だと予想された。

 ……というのは建前で、本当は女の子二人だけで色々仲良くやってるんだろうなと勘ぐってしまう。私の本質は女性ではないので、疎外感を禁じ得ないのだ。これは性別を偽り、女性PCでログインしてしまった自分への罰なのかもしれない。





 私はどうにもならないことを考えながら鉱山へと向かっていた。すると、鉱山道の反対側から一人の女性PCが歩いてきた。


「鉱山に行っても無駄よ……」


 赤い服を着た女性PCは、落ち込んだ様子で話しかけてきた。髪はセミロングのブラウン系。ルビーのような赤い瞳……ヒロイン願望を具現化させたPCのようだ。


「どういうことです?」

「大陸平定団が鉱山を占拠したのよ」


 大陸平定団――ブルーアース攻略、すなわち現実世界への帰還を目的に結成されたギルドだ。実力派プレイヤーが多数所属しており、最大手のギルドとして幅をきかせていた。


「平定団がなぜ鉱山を占拠する必要があるんです?」

「あいつらは、装備の材料になる鉱石を独占するつもりなのよ」

「そんなことを……ブルーアース攻略を標榜する連中が、プレイヤーの妨害をするんですか」


 理解に苦しむ行動だった。ゲーム内のリソースを独占することが、現実世界への帰還に繋がるとでもいうのか。


「平定団は自分たちが帰還方法を見つけることしか考えていないのよ。使命感によるものなのか、それともただの独善なのか……」

「……後者でしょうね。まあ、そんなことはどうでもいいんですが」


 私はそのまま鉱山に向かって歩き始めた。


「ちょっと、私の話聞いてた?」


 女性PCが私を追いかけてくる。


「ええ、聞きましたよ。鉱山が平定団に占拠されたんですよね」

「だったら、なんで鉱山に向かうのよ」

「私は仲間に鉱石を手に入れてくると約束したのです。どんな理由があろうと約束を違えるわけにはいきません」


 私は歩みを止めることなく、鉱山道を進んでいく。


「……待って、私もついて行くわ」

「どうぞご自由に……私はカスミです」

「エリスよ。短い間になると思うけどよろしくね、カスミ」


 私とエリスさんは鉱山に向かった。彼女も鉱石を目当てに鉱山に来たところを大陸平定団に門前払いされたらしい。


 鉱山にたどり着くと、周辺は平定団の団員たちによって占拠されていた。

 団員たちは灰色の野戦服を着用している。大陸を模したデザインのワッペンが目を引いた。


「坑道の入口は一つしかないの。あそこを通らない限り、鉱石を採りに行くのは不可能よ」


 エリスさんが坑道の入口を指した。武装した団員たちが周囲を警戒している。入口では鉱石を積むための荷車が出入りしていた。


「正面突破は不可能ですね。見張りが少なくなるタイミングを見計らい、潜入するしかありません」

「見張りが少なくなるタイミング?」

「……そろそろお弁当が食べたくなりませんか?」


 時刻は正午に近づいていた。ブルーアースでは昼食をとらなければいけないというルールはない。だが、プレイヤーたちは人間であることを忘れないようにするため、朝昼晩の三食をとる習慣を身に着けていた。


 正午を過ぎた頃、平定団の団員たちに弁当が配られていた。団員たちは気が緩んだ様子で、弁当を食べ始める。


「カイル団長は、なんで鉱山の占拠なんて指示したんだ?」

「聞いた話だと、団長は他のプレイヤーたちに強い武器を手に入れさせたくないらしい」

「最近は俺たちに楯突くプレイヤーが増えてるからな。こうした対策が必要になるのさ」


 団員たちは弁当を食べながら無駄話に興じていた。侵入者を警戒する様子は見受けられない。


「見張りの数が少なくなってきましたね。そろそろ行きましょうか」

「待って、まだ入口に一人だけ見張りが残ってるわ……どうするつもりなの?」


 できれば戦闘は避けたいが、見張りが一人でも残っていると、坑道に入るところを気づかれる可能性が高い。


「……見張りを倒しましょう」

「倒すって……PCはキルしてもリスポーンしてしまうのよ。私たちが潜入したことが平定団にバレてしまうわ」

「では、殺さずに無力化しましょう」


 私は採掘用のロープを取り出した。足音を立てないようにしながら、見張りの死角に回り込む。そして見張りの首をロープで絞め上げた。


「うぅっ……!」


 ロープがギリギリと音を上げて見張りの首に食い込んでいく。しばらくすると、首を絞められた見張りは気絶した。


「ちょっと、それ大丈夫なの?」

「しばらく気絶するだけですよ。他の団員に見つかると厄介なので、鉱石用の袋を被せて荷車に放り込んでおきましょう」


 見張りを始末した私は、エリスさんを連れて坑道に侵入した。

 暗い坑道の中をしばらく進むと、団員が引いている荷車が見えた。荷車の後ろに身体を寄せ、他の団員たちに見つからないようにしながら前進していく。荷車の行き先には、鉱石が採掘できる鉱床があるはずだ。そこで価値の高い鉱石を入手し、早々に退散させてもらうことにしよう。


「着いたみたいよ……」


 荷車が停止した。鉱床にたどり着いたようだ。

 荷車を引いていた団員は、ハンマーを使って採掘を始めた。


「なんで俺がこんな面倒くさいことしなきゃならないんだ……」


 団員は愚痴をこぼしながら作業を続けていた……ゲームの中でも他人の命令に従うことしかできないとは、哀れな男だ。


「私が代わってあげましょうか?」

「え?」


 私は採掘用のハンマーで団員の頭を殴打した。コンッ、と小気味よい音が辺りに響いた。


「うぐっ……」


 望まぬ労働から解放された団員は地面に寝そべり、幸せそうな表情を浮かべていた。


「他の団員はいないようです。早く石ころを採って帰りましょう」

「えっ、ええ……」


 私とエリスさんはハンマーを使って採掘を始めた。鉱石には幾つもの種類があるが、持ち帰れる量には限りがある。できるだけ価値のある鉱石を選定する必要があった。


「見てカスミ、白く光る鉱石が出てきたわ」


 鉱床から白い輝きを放つ鉱石の一部が見えた。


「これは月鉱石(げっこうせき)ですね。この鉱山では、かなり珍しい鉱石のようです」

「やった! カスミも早く掘ってちょうだい!」


 私とエリスさんは月鉱石を掘り出した。ちょうど武器を二つ作成できる程度の大きさだ。私たちは月鉱石を半分に分け合うことにした。


「あとは平定団に気づかれる前に脱出するだけね」


 私たちは採掘した鉱石を籠に入れ、その場を立ち去ろうとする。


 だが、私たちの行く手を阻む者が現れた。


「残念だけど、あなたたちを帰すわけにはいかないわ……」

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