三章 18話 素振り
用語説明w
ヤマト:獣人の男子、体力があり身体も大きい。土属性が得意で、特技が使えるが魔法は苦手
リマ:神族の女子。魔物使いの家系で、使役対象は空狐のクゥ。風属性が得意
今日も基礎訓練
走らされ、走らされ、走らされ…
「モンスターを逃がしたら、守るべき民が死ぬんだぞ!」
ゴンサロ先生の声が響く
重い体を引きずって訓練場に移動
次は素振り、いつもの流れだ
だが、三年生になって変わったことがある
それは素振りの獲物だ
今までは全員が木刀を使っていた
それが、今年からはそれぞれの武器に持ち替えている
「オラァッ!」
ヤマトは斧を使っている
「ヤァッ!」
ミィはショートソードだ
「エイッ!」
フィーナは、訓練用の魔導士の杖を振る
他のみんなも、槍だったりこん棒だったりフレイルだったり、それぞれがいろいろな武器を試している
訓練で楽をするだけなら、ミィのようなショートソードやナイフなどの軽い武器を選べばいい
しかし、ダンジョンを体験した全員が、来るべき自らのダンジョンアタックを見越している
モンスターとの戦いから生き残るために、本気で使うべき武器を探しているのだ
「はぁ…はぁ…、ラーズは武器を変えないのね…?」
ミィが息を切らしながら僕の武器を見る
僕の武器は木刀のまま
これは、ロングソードや刀と同じ長さだ
「僕の武器は、セフィ姉からもらったドラゴンブレイドって決めているからね」
「こらーーー! 集中しろ、怪我するぞ!」
「…っ!?」「…!!」
答えた途端に、ゴンサロ先生の怒鳴り声が飛んで来る
僕たちは必死に武器を振り続けた
「よーし、よく頑張った! しっかり汗を拭いて、水分を取っておけ。寒くなって来たから風邪を引かないようにな」
ゴンサロ先生が言う
ようやく、訓練の授業が終わった
「あー、腹減った! ラーズ、飯行こうぜ」
「ヤマト、あれだけ動いた直後に食べられるの?」
「当たり前だろ」
「…」
「お、ラーズ。ちょっと待て」
僕が疲れ知らずのヤマトと体育館を出ようとした時、ゴンサロ先生に声をかけられた
「はい?」
「フォウルの様子はどうだ。何か変わったことは無いか?」
「いえ、特には…。最近は騎士学園に慣れて来たのか、授業にはついてこないで僕の部屋で寝ているようになりました」
「そうか…」
ゴンサロ先生がまじめな顔で言う
いつも豪快な先生らしくない表情で、少し不安になってしまう
「フォウルに何かあるんですか?」
「ああ、いや、心配させてしまったな」
ゴンサロ先生が頭を掻く
「フォウルに呪いのような作用を感じたと、大森林から連れて来た直後に診た竜使いが言っていたのが気になってな」
「あー…、そう言えば、そんなこと言ってましたね」
「ドラゴンは強い生命力を持ち、呪いに対しても高い抵抗力を持っている。それにもかかわらずに呪いの作用を受けているなら、何らかの処置が必要かもしれない。様子がおかしかったらすぐに見せに来い」
「わ、分かりました」
僕は怖くなり、ゴンサロ先生に頷いた
昼食を取ると、一度寮に戻ってフォウルを連れて来た
「ガルル…」
「寝てばっかりいないで、様子を見せろって。体調は悪くないのか?」
僕は、寝ているところを引っ張り出されて不機嫌に唸るフォウルに言う
「ガウ」
「それならいいけどさ」
「お前ら、仲良くなったよな」
そんな僕たちをヤマトが笑う
「そうかな」
ようやく、ちょうどいい距離感が分かって来た
お互いに嫌いではないことも分かっているので、ちょうどいい関り方を模索した結果かもしれない
最近は嚙み合いの喧嘩も少なくなった
少なくなっただけで、たまにはするけども
「あれ、ラーズ。フォウルを連れて来たの?」
ちょうど通りかかったリマが言う
「部屋で寝てばっかりだからさ、少し連れ出そうと思ったんだ」
「コン!」
リマの側の空間から空狐のクゥが顔を出す
「クゥ、元気そうだね。髪飾りを見つけてくれてありがとう」
僕はクゥを撫でる
顔見知りになると、意外とクゥは撫でさせてくれることが分かった
モフモフすぎてキュンキュンして爆発しそうだ
擬音語多めだが、この説明で絶対に伝わる自信がある
獣系の、フォウルとは違う魅力だ
「ナダルが、ドラゴンを使役しているラーズは凄いって言ってたわよ」
「フォウルって使役になるのかな? それに、ナダルのピットヴァイパーも凄いと思うけど」
モンスターを使役して自在に操る
ナダルは、正にモンスターマスターって感じだった
「いいよなー。俺もモンスターを飼いたいぜ」
ヤマトが言う
「ヤマトはラングと仲がいいじゃん」
「犬じゃねーか! 猟犬ならともかく、ラングなんかをダンジョンに連れて行ったらすぐ喰われちまうよ」
「あら、使役対象はダンジョンだけで使うわけじゃないわ。いつも一緒に生活するんだから、かわいさも大切よ」
「そういうもんか…」
「あ、そう言えば。他にも使役対象を持つ子がいるって。確か二組の子で、人形使いらしいわ」
「人形使いって、ゴーレムとか?」
「そうそう。今度、聞いてみようと思って」
僕たちは、おしゃべりをしながら教室に向ったのだった
・・・・・・
放課後
僕は桑の木に向った
今日はセフィ姉と約束していた
また、去年と同じように一緒に剣の練習をすることになったのだ
「ラーズ、お待たせ」
「行こうか」
その話をしたら、フィーナも一緒に行くと言い出した
その髪には、黄色いハオマの花の髪飾りをつけている
「やっぱり、ハオマの花がないとだめだな」
「えー?」
「フィーナ、ずっとつけてるから、無いと違和感があったよ」
「そうかな。えへへ」
桑の木の前には、もうセフィ姉の姿があった
遠くからでも、輝く金髪ですぐわかる
また双剣で素振りをしていた
「ラーズ、フィーナ」
「セフィ姉、お待たせ」
「来たよ!」
セフィ姉がフィーナの頭を撫でる
「セフィ姉、ハオマの花、見つかったの! 失くしちゃってごめんね?」
「大切にしてくれて嬉しいわ。それに、失くしたのはフィーナのせいじゃないもの」
「ラーズがずっと探してくれていたの! おかげで見つかったんだよ」
「私も一度、ラーズと探したんだけど見つからなかったの。どこにあったの?」
「木の上だよ。僕たちと同じ初等部の三年生に空狐とピットヴァイパーの使役対象を持つ人がいて、見つけてくれたんだ。枝に引っかかっていたみたい」
「そうだったのね。見つかってよかった」
僕たちは、セフィ姉にハオマの花を探したことを話す
しばらくすると、すぐに空が黄色に染まってきてしまった
もうすぐ冬
あっという間に日が落ちる季節だ
「よーし、素振りするね!」
僕は、寮から持って来たドラゴンブレイドを構える
材質のせいか、やはり木刀よりも重い
ドラゴンキラーの霊的構造を備えた金属製の剣は、ずっしりと手にのしかかってくる
「ラーズ、職業は魔法剣士に決めたの?」
フィーナが尋ねる
「もちろん。魔法剣士一択だよ」
僕の憧れはセフィ姉
セフィ姉と同じ魔法剣士を目指すのは当たり前だ
「ラーズ。魔法剣士を目指すなら、剣と杖を使い分けないといけないわ」
「え…、魔法剣士って剣と杖を使ってるの?」
「そうよ。杖が無い状態で魔法を使っても、魔法の威力が低くなってしまうもの。同じ腕力でも、剣の攻撃と素手での攻撃で威力が違うのと同じね」
「む、難しそう…」
「ラーズなら大丈夫だよ」
「え?」
突然、フィーナが言う
「だって、諦めずに私のお花、探してくれてたもん」
「いや、それは…」
僕のせいで捨てられちゃったから必死に探しただけなのに
急にそんなことを言われても、恥ずかしい
「そうね。ラーズは諦めないで続けられる。そうしたら、いつかできるようになるわ」
セフィ姉まで僕を誉めだす
嬉しいけど、恥ずかしくてしょうがない
「でも、僕。去年、セフィ姉と素振りを続けるって言ったのに、新学期になってから全然やらなかったんだよ?」
そんな僕の言葉に、セフィ姉が微笑む
「別にやめてもいいし、諦めてもいい。自分が必要だって思った時にまたやり始められる。それが本当の継続力よ。一緒に頑張りましょう」
「う、うん。やるよ、頑張る!」
「私も!」
フィーナが杖を振り始める
「杖で直接攻撃ってすることあるの?」
「本当の緊急時ね。ダンジョンでは何があるか分からないから、やっておいて損はないわ」
僕たちは、セフィ姉と一緒に素振りを続けるのだった
訓練の後の素振りはきつい
それでも、強制されない素振りの後は、心地い疲労感に包まれた
武器選び 三章 5話 武器選択
呪い 二章 35話 大森林のお土産




