閑話2・下 森の牙の調査報告
用語説明w
セフィリア:竜人の女子で、長く美しい金髪が特徴。容姿端麗、学科、実技とも常に学年一位だが、パーティには恵まれていない。ラーズとフィーナは学園入学前からの知り合いで、セフィ姉と呼んで慕っている
ラングドン先生:ノーマンの男性で三組の担任、黒いとんがり帽子がトレードマーク。数々の魔法に精通し、考古学や歴史学を研究している
夏休みが終わり、中等部と高等部の生徒が学園島に戻ってくる
初等部が戻る数日前に、上級生は戻って来ているのだ
ラーズたちが戻って来る数日前の、そんなある日
本校舎の地下、神秘研究部の部室で、セフィリアとラングドン先生が向かい合って座っていた
「…神らしきものの教団に間違いないようです」
「ああ。どうやら、森の牙という集団は無数にある教団の外部団体の一つだったようだ。おそらく、発見できなかった子供達は教団の施設に連れて行かれたのだろう」
「…」
セフィリアは静かに紅茶を口に運ぶ
しかし、その瞳は見たことがない程に鋭く輝いている
「セフィリア。ラーズの件は本当にただの偶然だ。今回、投降したボウマンと言う戦闘員の供述も取れている」
「龍神皇国に送られたんでしたっけ?」
「ああ。彼は教団からの離脱を図った裏切り者だ。暗殺から守る必要があるからね」
「離脱ですか…」
「実際、あの教団の悪事をいろいろと話しているそうだ」
ボウマンはブリトンの国軍に投降した
そして、捕虜となった後に森の牙が行って来た行為を詳細に語った
その方法とは、子供を拉致して、その頭に銃を突きつける
次に、銃を握らせて自分の親に向けさせる
そして一言、引き金を引くように命令するのだ
…事が終わると子供に言い放つ
お前は、自分で自分の居場所を壊した
もう帰る場所はないぞ、と
テロリストによる子供の洗脳方法
ラーズが言っていたニーナという少女も、もしからしたら、その犠牲者なのかもしれない
ボウマンは何人かの子供と投降したが、ニーナを含む大多数の子供は連れ去られたまま
どこかで、また戦闘訓練を受けさせられ、テロリストやゲリラ兵として育てられるのかもしれない
「ハビエル先生が聞いたという、ナイツオブラウンドという組織については?」
「はっきりしないな。教団関係なのか、別系統の上位団体なのか…。ボウマンも、新たな子供達の就職先と言うくらいしか認識がなかったようだ」
「そうですか…」
セフィリアは、ブリトン当局から情報提供を受けた
龍神皇国の貴族と言う立場を利用し、外交ルートを通じて行ったのだ
ラーズを拉致した集団、森の牙
資料によれば、森の牙というグループは神らしきものの教団の関連組織
ブリトン北部に広がる秘境、大森林の内部にキャンプを構えることで、ブリトンの国軍から拠点を隠していた
そして、ブリトンや周辺諸国から誘拐や人身売買などで子供達を集め、大森林のキャンプにおいて戦闘訓練を行う
その後、成長して兵士として使えるようになれば、どこかへと出荷していたと目されている
「これは私の判断だが…。ラーズには、ボウマンが捕まったことについては伏せようと思う」
「黙っていると?」
「ラーズは生還した。ボウマンのおかげで虐待は無かったようだが、森の牙での生活はトラウマになっている可能性がある。このまま、何も言わずに忘れたさせた方がいい」
「…」
「私が病院に駆けつけた時、ラーズはうなされていた。おそらく、大森林でモンスターに襲われた時の恐怖の影響だ。しばらくはそっとして、記憶の風化を待つべきだ」
「分かりました」
セフィリアは頷く
ラーズの生還
それは、幸運の結果だ
セフィリアは、ボウマンの判断を正しいとは思っていない
初等部の子供を大森林に放りだすなど、殺人と同義だ
武器を持たせたとしても、生きて入口領域までたどり着ける可能性はどれほどあっただろう
「ふぅ…」
セフィリアは、ため息をついて紅茶を口に運ぶ
少し冷めてしまった紅茶は、セフィリアが思考に費やした時間の長さを表している
…あのまま教団に連れて行かれていたら、ラーズが学園に帰って来ることは無かった
それも分かる
ラーズの生還は、ボウマンがいたこともまた理由だ
「神らしきものの教団………!」
セフィリアの呟きには、深く暗い怒りが込められている
ラングドン先生は、そんなセフィリアを静かに見つめる
神らしきものの教団
四千年前に人類を追い詰めた、超高次元的存在、神らしきもの
この世は神らしきものに委ねられるべきであり、今すぐにでも神らしきものを封印都市から解き放つべきだという、狂った教義を持つ宗教団体
ギアに本拠地があり、ウルにも進出している
しかし、その実態はカルト集団
各地でテロ活動を行い、支援し、その見返りとして信者を得ている
また、自らも傭兵集団を擁しており、破壊活動や人身売買などの違法行為を繰り返している
特に、人身売買や人体実験、強制的な奴隷兵士化、使い捨てなどが有名で、各国で監視対象となっている教団だ
神らしきものの教団は各国で活動しており、惑星ウルにある龍神皇国も例外ではない
貴族の間でも使い捨ての戦力として利用する場合があり、過去に何度か大事件を起こしている
彼らは思想と理想の実現のためには何をしてもいいという考えを持っており、それがどんな残虐な行為でも、無関係な人間を何人巻き込んだとしても、教団の教義のために許されると教え込まれている
そのため彼らの活動は大きな事件となりやすく、その行為が正義の執行であると宣伝され、また新たなテロの呼び水となってしまうのだ
ラングドン先生はセフィリアの様子を探る
「…セフィリア。君が教団によって家族を壊された気持ちは理解できる。だが…」
「…」
セフィリアが、その言葉にピクリと反応する
「復讐には正義という甘美さが付いてくる。その甘さは人をおかしくする麻薬だ」
「…」
「しかし、その甘さは人生を豊かにはしてくれないし、何も生み出さない。一時的な快楽に過ぎないんだ」
「私は…」
「セフィリア、君はまだ若い。そして、まだ無知だ。知識はあったとしても経験が圧倒的に足りない。自分の選択肢を、復讐という一時的な感情で狭めてはいけない」
「………」
しばらく考えた後、セフィリアは静かに頷いたのだった
二章 23話 大森林見学2 ナイツオブラウンド
また、まったりと三章始めて行きます
しばらくお待ち下さい、よろしくお願いします!




