閑話2・上 家族写真
用語説明w
龍神皇国:惑星ウルにある大国
クレハナ:惑星ウルの龍神皇国の北に位置する小国。フィーナの故郷で内戦が激化している
「ラーズ、フィーナ!」
龍神皇国の中央区国際空港に着くと、パニン父さんとディード母さんが迎えに来てくれていた
「父さん、母さん、ただいま」
「おじさん、おばさん、こんにちは!」
フィーナも僕と同じで龍神皇国のファブル地区に帰るため、一緒に電車に乗る
もっとも、フィーナの本当の実家は龍神皇国と接するクレハナと言う国
数日、ファブル地区の別荘に滞在した後、セフィ姉と一緒にクレハナに向うらしい
クレハナは内戦中のため、行き来の際にはセフィ姉とドルグネル家が準備した護衛が付くのが毎年の恒例だ
「先生やセフィリアちゃんから連絡が来て、心配したのよ?」
「ラーズ、大森林での生活を後で詳しく聞かせてくれ」
母さんと父さんが言う
「ごめんね、心配かけて。…セフィ姉も連絡くれたの?」
「ええ、すぐに。フィーナが泣きじゃくってるって聞いて、すぐに電話したんだから」
「ちょっ、やめてー!」
フィーナが真っ赤になって慌てている
そうか、心配かけたんだな…
特別特急、「新・カンセン号」に乗り、僕達はファブル地区へと向かう
「ラーズ。ラングドン先生から、学科試験の結果のことを聞いたわ」
「う…」
「初等部の勉強は、これから先の勉強の基礎となるから、しっかり見てあげて欲しいって」
「見てあげるって?」
「宿題とは別に、特別勉強用のドリルとか問題集を送ってくれたの。面倒見のいい先生よね」
「ソ、ソウデスネ…」
夏休みに、どれだけ勉強しなきゃいけないの?
大森林にいたのは一週間ちょっとなのに、とんでもないことになっちゃってるよ…
「それで、ラーズ。大森林の生活はどうだったんだ?」
パニン父さんが言う
「それ、私も聞いてないから聞きたい」
フィーナも言う
「いや、それはいいけど、父さんのそれは何?」
パニン父さんが、あからさまにボイスレコーダーを持っている
「貴重な体験だから、記事にできないかと思ってな」
「あなた、それは後にしなさいよ」
ディード母さんが言う
「ははは、母さん。実の息子がとんでもない経験をしたんだ。こんなネタを取材しないなんてジャーナリストとして許されないさ」
「息子の拉致事件を仕事に流用しないでくださいって言ってるんです!」
「大丈夫さ。ちゃんと個人名は伏せるし、問題は…」
ゴガッ!
「ぐはっ…!」
母さんが手に持った雑誌を縦にして叩きつける
父さんが直撃した頭を押さえて震えている
「そういう問題じゃないって言ってるの!」
「は、はい…」
夫婦の平和的な話し合いによってこの件は先延ばし
僕達を乗せた特急は、ファブル地区へと向かった
駅に着くと、僕は籠からフォウルを出してやる
「ガウ…」
「お前、最初は嫌がってたくせに、ずっと寝てたのか? すげーくつろいでるじゃん」
「…」
フォウルは、あくびをすると僕の背中のリュックサックにとまる
「ほぉっ! それがブリトンの秘境、大森林のドラゴンか!」
父さんが興味深げに観察する
「そう言えば、ドラゴンを飼い始めたって言ってたわね。餌は何をあげればいいの?」
母さんが聞く
「ゴンサロ先生から缶詰を貰ったんだ。同じのがあれば買って欲しいんだけど」
魔素を含んだ肉の缶詰
これならフォウルも不満なさそうだ
「探してみるわ。フィーナ、今日は家でご飯食べるでしょ?」
「う、うん。いいの?」
「もちろんよ。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが来てるから、みんなで食べましょ? お寿司でもとろうかと思ってるの」
「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが来てるの?」
「そうなのよ。ラーズの話をしたら、びっくりして来ることになったの」
「そうなんだ…。ラーズ、よかったね。心配してもらえて」
フィーナが僕に言う
「ま、まぁ…」
フィーナはクレハナと言う国の王族
クレハナで起こっている内戦は、王位継承権を持つ王族同士の争いだ
つまり、フィーナの親族で戦争をしているわけで、フィーナが気軽に話せる親族は父親のドースさんしかいない
ドースさんはフィーナを可愛がっているという話だが、忙しいためなかなか会えないらしい
「あら、私たちはフィーナが同じ目に遭っても会いに来るわよ? もう、他人じゃないんだから」
ディード母さんがフィーナの頭を撫でる
「え、あ、はい…」
「ちゃんと私たちにも甘えて、困ったら全部言うの。ドースさんが会えない間、私たちが親代わりだと思ってね」
「うん…」
フィーナが恥ずかしそうに、そして、嬉しそうに目を伏せる
うむ、しっかり甘えるがいい、僕が許す
「おう、ラーズ。フィーナちゃんも!」
家の方向から手を振る二人
ドミニクお祖父ちゃんとトシコお祖母ちゃんだった
「ただいま!」
「よかったよー、無事で。話を聞いた時は、びっくりして腰を抜かすかと思ったよ」
トシコ祖母ちゃんが大げさに言う
「うん、何とか帰って来れたよ」
「子供をさらうなんざ、人のやることじゃねぇ! そんな奴ら、全員とっちめてやる!」
ドミニク祖父ちゃんが怒る
「お祖父ちゃん、その組織はブリトンの国軍によって叩き潰されたみたいだから大丈夫だよ」
父さんがまぁまぁと止めに入る
「フィーナちゃん、今年も家に来れるんかい?」
トシコ祖母ちゃんが尋ねる
「あ、あ、はい! 少しだけなら」
「そっか、そっか。また黄金パンを食べに来とくれ。夏祭りもあるからなぁ」
「はい!」
トシコ祖母ちゃんもフィーナの頭を撫でる
家の家系は、みんなして頭を撫でる
セフィ姉でさえ、小さいときにはたくさん撫でてもらっていたらしいからな
「ラーズ、後ろ姿がパニンの小さい頃にそっくりだなぁ」
ドミニク祖父ちゃんが言う
「そうなの?」
「ああ、大きくなったら、もっと似るかもなぁ」
「パニンのアルバムもあるで、家に来た時に見たらええよ」
トシコ祖母ちゃんがフィーナと手を繋いでいる
「そう言えば、ラーズのひいじいちゃんが、ラーズが生まれたばかりの頃にドミニク祖父さんにそっくりだったって言ってたな」
パニン父さんが思い出したかのように言う
「そ、そうなの?」
「あぁ、言ってた。ラーズに会った後、すぐに死んじゃったんだけどね」
「ひ孫に会えて、抱っこ出来て死んだんだ。満足だろ」
「そんなにすぐに死んじゃったの?」
「一か月くらいたってからだったわ。その時の写真、あるわよ」
「私も見たい」
「いや、フィーナに見られるの恥ずかしいな」
僕達は、完全な身内トークを楽しみながら実家に向かう
夏の思い出
今年は、祖父ちゃん、祖母ちゃん、父さん、母さん、僕に加え、フィーナとフォウルが加わった新しい家族写真がアルバムとストレージの加わった
ちなみに、僕の大森林での体験は、ディード母さんの知らないところで記事になっていたらしい
後日、大黒柱の土下座を巻き起こすほどの夫婦喧嘩が勃発したとかしないとか
これも夏の思い出だ




