表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/382

二章 34話 生還と救出

用語説明w

ラングドン先生:ノーマンの男性で三組の担任、黒いとんがり帽子がトレードマーク。数々の魔法に精通し、考古学や歴史学を研究している

セフィリア:竜人の女子で、長く美しい金髪が特徴。容姿端麗、学科、実技とも常に学年一位だが、パーティには恵まれていない。ラーズとフィーナは学園入学前からの知り合いで、セフィ姉と呼んで慕っている


あのネズミは火光獣、妖怪系のモンスター

火属性と雷属性で爆発を起こす特技(スキル)を使うが、その一撃さえ凌げば大したことはないらしい


爆弾みたいな特技(スキル)によって、僕は崖の上まで吹き飛ばされた



「……おい………!」


「おい、大丈夫か!?」


「目を開けろ、死ぬなよ!」


「よく耐えた! よく生きてたな! すぐに病院へ!」



気が付くと、兵士の人達

そして、鎧を着た騎士の姿があった



観測所の側で起こった爆発音を聞き、警戒に来た兵士によって倒れていた僕は発見された


僕の胸にはちいさいドラゴン

僕は…、僕たちは助かった


そう思った瞬間、身体から力が抜けてしまい、僕はまた眠りに落ちていった




騎士学園の初等部二年三組、ラーズ

大森林で拉致され、行方不明になっていた彼はブリトンの病院に入院となった


爆発の影響か肋骨にひび

体中擦り傷とあざだらけ


大森林の中を、十一歳の少年が一人で歩く

その過酷さを物語っていた


一番ひどいけがは右腕の切り傷

止血剤と包帯代わりのローブで傷を塞いでいたが、雑菌が入って蜂窩織炎を起こして腫れあがっていた


もう少し彷徨う時間が長ければ、発熱して動けなくなっていただろう

深く抉られた傷だった


だが、それでも彼は生還した

いくつもの幸運が重なった、まさに奇跡だった



拉致集団、森の牙

何人もの子供達を拉致や人身売買で集めていた


たまたま、大森林の入口領域に来ていたボリュガ・バウド騎士学園

子供達の集団がいたことから、森の牙の正規兵たちが軽い気持ちで襲ったようだ


大森林は秘境であり、ブリトンの国家権力も及んでいない

拠点に逃げ込めば大丈夫と軽く考えたのだろう


だが、騎士を育てる学園の教師が弱いはずがない

闘氣(オーラ)を使う初等部の教師四人、更に警戒についていたモンスターハンター達によって、あっという間に森の牙の戦闘部隊は壊滅


しかし、一人の生徒を人質に教師の一人を脅迫

ゴンサロという教師が闘氣(オーラ)を解除したところを、銃を撃って逃走した


その後、確保された戦闘員から森の牙の拠点を特定

何人もの子供達の存在が判明し、ブリトン軍と警察組織が協力して子供達の救出と森の牙壊滅作戦が行われた


その結果、森の牙のキャンプは壊滅

何人かの少年兵を保護した


しかし、拉致された騎士学園の生徒は未発見

一台のバスが逃走し、子供達を乗せていたとの情報があったことから捜索が続けられていた



「ガウッ!」


「ふーん…」


一人の中年女性が、ドラゴンに手を差し出している


「何をしているんですか?」


「ドラゴンテイマー…、竜使いの技能で、竜族との意思疎通ができるんだ」

ラングドン先生が教えてくれる


僕が大森林から連れ帰ったドラゴン

ブリトン軍で保護し、折れた翼の治療を受けていた



最初、ブリトン軍の人から、大森林から出て来たモンスターは殺処分が基本と言われた


「ちょっ、待って! やめてよ! 僕が面倒見るから!」

と、取り乱してしまった


本気で恥ずかしい


だってこいつは、あの大森林から生還した戦友だ

一人だったら、絶対に無理だったと思うから



騎士学園のみんなは、僕が拉致されたその日に学園島に戻ったらしい

大森林見学は本来は二泊三日の予定だったが、このトラブルのせいで中止となった


ラングドン先生は、僕の発見されたと聞いて、学園島から急いで迎えに来てくれたのだ



「どうやら、魔素の代謝はそこまで高くなさそうね。魔素含有のドラゴン用補助食品で賄えるでしょう」

竜使いのおばちゃんが言う


「そうですか。それなら、飼うことに問題は無さそうですね」


「騎士学園で飼育なさるのですか?」


「ラーズに懐いているのなら、それもいいかと。ドラゴン飼育を行っている教師もいますから」


「ドラゴンの飼育は難しいですからね。もし、手に余るようであれば私が引き取ることもできますので」


竜使いはそう言うと僕を見る

「ドラゴンは絆を大事にする。誇りと闘争の二面性を理解して、真の友として接すること。それがドラゴンの飼育の条件よ」


「は、はい」


「この小竜、名前はフォウルと言うそうよ。ドラゴンと絆を持てることは稀、大切にしなさい」


そう言うと、竜使いのおばちゃんはドラゴン…、フォウルの頭を撫でてから病室を出て行った



「…お前、フォウルって言うのか」


「…」


「僕と一緒に騎士学園に来るか?」


「…」


「…無視するなら大森林に送り返すぞ?」


「ガウッ!」


「痛っ、聞こえてんじゃねーか!」


相変わらず、かわいくねーな!



待合室で退院の手続きを待っている間、僕はラングドン先生に尋ねる

ちなみに、僕の膝にいるフォウルは他の患者の注目の的だ


「ラングドン先生、捕まった人の中にボウマン教官と言う人はいませんでしたか?」


「…いや、リストにはいないね」


「そうですか…。ニーナと言う女の子は?」


「…その名前もない。キャンプにいた人かい?」


「はい、仲良くなって…。ボウマン教官は、僕を逃がしてくれた人です」


「…」



ノヴァ―ル港に着くと、ガイドのマイリ―さんが見送りに来てくれた


「良かった…、無事で本当に良かった…!」


サイボーグなのに、目に涙を溜めるマイリ―さん

涙が出る機能もあるのか…、なんて失礼なことを考えてしまい、僕は少し反省した


いろいろな人に迷惑をかけてしまった…

父さん、母さん

フィーナ、セフィ姉

ヤマトやミィ、三組のみんなと早く会いたい



船に乗り、ブリトンを後にする

フォウルは海が初めてなのか、潮風をフンフン嗅いでいる


僕は学園島に帰る


ようやう、長かった僕の島外学習が終わった




・・・・・・




学園島の港町に船が到着

桟橋に降りると、なんとセフィ姉が待っていてくれた


「ラーズ!」

セフィ姉が降りて来た僕を抱きしめる


「わぷっ! セ、セフィ姉、授業は!?」


「私、優秀だから、少しなら許してもらえるの」


「そ、そうなの?」


「学年一位の特権ね」


「…」


いや、実際一位の人が言うと何も言えない

そういうもんなんだろう



「良かった、本当に無事で。あの拉致集団、絶対に許さないわ…!」


セフィ姉が僕を放して、静かに言う

僕のために怒ってくれている、それが分かる


嬉しい

また会えて、本当に良かった



「あなたがフォウルね、よろしく」


「ガウ…」

セフィ姉がフォウルの顎を撫でる


フォウルは大人しく撫でられている

お前、僕は噛むくせに美人には撫でさせるのか?



「さ、帰ろうか。久しぶりの学園島を見ながらね」


ラングドン先生が言い、僕たちは歩き出す


「結局、あの森の牙って何だったんだろうなぁ」

僕は、歩きながら思い出す


一週間を過ごした、あのキャンプ

そして、彷徨った大森林


もう、遠い昔の出来事のように感じる


「ラーズ、大森林での生活で辛い思いをしなかった?」

セフィ姉が聞く


「うーん、辛かったけど。でも、僕を助けてくれた人もいたんだ。全員が悪い人じゃなかったよ」


「ラーズ…」


ボウマン教官、ニーナ、他の子どもたち…

無事だったらいいんだけど



「ラーズ、大きな困難を乗り越えて成長したようだね」

そんな僕たちを見て、ラングドン先生が言う


「そ、そうですか?」


「人は困難を経験しなければ成長出来ない。困難がなければ、人の痛みもありがたさも理解できないからね。感謝が出来る、それはラーズの人としての器が広がったということだ」


「…」


僕は今、セフィ姉とラングドン先生に会えて、そして騎士学園に帰って来て嬉しいと感じている

そして、僕を待っていてくれて感謝の気持ちを持っている


ニーナの言葉

私には帰るところなんかない


待っていてくれる人がいる、それは当たり前じゃない

それが分かったのは、大森林のおかげかもしれない

だからと言って、二度と行きたくはないけど



「困難は辛いものだ。それでも、その辛さは人の成長に繋がる。心の大きさを成長させられる機会は限られている」


「はい…」


「経験した困難はラーズを成長させる。そして、君も同じだよ、セフィリア」


「え?」


僕は、急に言われたセフィ姉を振り向く

すると、セフィ姉が何とも言えない顔をしていた



「さ、早く帰ろう。フィーナが心配して大変だったんだ」


「分かりました」


「それじゃあ、ラーズ。私は教室に戻るから。またね」

本校舎に着くと、セフィ姉が言う


「うん、来てくれてありがとう」


「いいのよ。ラーズ、大変だと思うけど頑張ってね」

そう言って、セフィ姉が行ってしまった


大変って、何が?


その理由はすぐに分かった


最初に、学園長室でスターチス学園長に大森林での話を聞かれた

ラングドン先生だけでなく、ゴンサロ先生とマーゴット先生、それに、ハビエル先生やルノアール先生までもが同席


更に、ブリトン軍とブリトン警視庁からも偉い人が来ていて、僕を質問攻めにした

僕の拉致事件は、思った以上に大事件として扱われていたようだった


撃たれたと言っていたゴンサロ先生は元気一杯で、それだけは安心した


その後、三組だけでなく、一組や二組の奴から、寮の先輩たちからも話しかけられたりして、一時的に有名人になってしまったのは、また別の話だ


とりあえず、この日はずっと話を聞かれ、ようやく解放されたのは夕方


「ラーズ、疲れたようだね」

ラングドン先生が言う


「はい…」


「さ、ラーズ。早くフィーナに顔を見せてあげてくれ」


校舎の前には、フィーナの姿があった


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ