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二章 33話 生存競争3


ドラゴンを抱えてしばらく走ると、僕は立ち止まる


右腕がざっくりと切れて出血、ズキズキと痛み出してきた

止血をしないとまずい気がする


ピクリとも動かないドラゴンを一度地面に置く


破れたローブを裂いて不器用に腕に巻き、森の牙からも持って来た止血剤というアイテムを取り出す

これはシート状になっていて、幹部に貼り付ければ止血が出来るらしい

軍隊って、ダンジョンアタックでも使えるようなアイテムがたくさんあるな


そして、残っていた軍用のポーションを取り出して腕にかける



「うっ…」


一瞬、しみるような痛みがあったが、すぐに消えて楽になっていく



更に、息が切れていた体が楽になる感覚があった


そうか、この回復薬は聖属性を帯びていると言っていた

だから、生命力が上がり、怪我だけじゃなく体力も回復するんだ


僕は、残った少しの回復薬を飲み込んだ



…気が付くと、空がオレンジ色になって来ている

もう日が暮れて来ているんだ


暗くなったら、夜行性の夜目が効くモンスターが動き回る

反対に、僕は真っ暗の中で視界を失う


このまま進むのは危険だ

登れる木を探して、木の上で夜を明かすしかない



ドラゴンを胸に抱えると、また歩き出す


「あっ…」


だが、気が付いた

ドラゴンの左の翼が変な方向に向いていることに


叩きつけられた衝撃で、翼の骨が折れてしまっているのだ



僕は、最後に残った回復薬の残りかすをドラゴンにかけてやる

しまった、もう少し残しておけばよかった


回復薬の残りの雫くらいではよくなるはずがない


僕は早歩きで進み、登れそうな高い木を見つける

そして、ドラゴンをリュックサックに入れ、痛む右手も使ってよじ登る


他にも高い木はあるが、その隙間から、遠くに人工の光のような物が見える



「あそこが森の端だ…!」


僕が進んでいた方向は合っていた



入口領域は森の端よりも手前のはず

もう少し歩けばたどり着けそうだ


不安定だけど、夜の間は枝に跨って過ごす

そして、日が登ればすぐに入口の領域に向おう



「グルル…」


前側にかけていたリュックサックから唸り声が聞こえる

開けると、ドラゴンが顔を出した



「お、起きた。大丈夫か?」


「グル…」



ドラゴンがリュックから這い出ようとしてくる


「おい、待てって。落ちるぞ」


「ガウッ!」


「痛っ! バカ、見ろって、木の上なんだよ!」


こいつ、いちいち反抗すんな!


「…」

やっと木の上にいることが分かったのか、ドラゴンは大人しくなった


「お前、翼が片方折れてるから治るまで飛べないぞ。気をつけろよ」


僕が言うと、ドラゴンが自分の背中に首を捻る

翼を動かそうとするが、痛みがあるようでピクピクとしか動かなかった


いや、それよりも

こいつ、やっぱり僕の言葉が通じて…、まさかな



辺りはもう真っ暗

遠くの夕焼けがきれいだ


僕は、残った缶詰を空けてドラゴンと食べる

これで食べ物は終わり


川で補充できたので、水だけはペットボトルが一本だけ残っている



「おい、水は節約しろよ。これしか残ってないんだぞ」


「グルル…」


不服そうに、ドラゴンが飲むのをやめる



これだけだと、入口の領域までに迷ったらもう終わりだ

すぐにたどり着けるだろうか?


たどり着けたとして、助けを求められる人に会えるだろうか?

それが森の牙の正規兵だったら、また連れ戻されるか、最悪は殺されてしまうかもしれない



「…」


僕は怖くなり、目を瞑ることにした



不安定でお尻が痛い

でも、満天の降り注ぐかのような星空は大森林のご褒美のように感じる


森の途切れた辺りに灯る文明の光

あそこにたどり着ければ、僕は助かる


僕は弱い

人間は弱い


自然界の厳しさを生き抜いているモンスター

そりゃ、強い訳だよな…





……








腕がうずき、熱を持つ

激しく痛み、寝られない


怖い

このまま死んじゃうのかもしれない


お父さんとお母さんに会いたい

フィーナ、セフィ姉に会いたい


ラングドン先生…



動きを止めているディノサウノロイドの頭に杖を叩きつける

何度も、何度も、何度も…


汚い手だと思う

卑怯だと思う


でも、やらないと生き残れない



ディノサウノロイドはどうなったのだろうか?


死んだのか?

銃弾を撃ち込み、頭を杖で殴りつけた


あそこで死ななかったとしても、今頃動けないだろう


逆に言えば、僕が同じような大ケガをしたら…

その場を逃げられたとしても助からない

動けなくなって、他のモンスターに襲われて終わりだ



「…っ!?」


その瞬間、木々の陰から何者かが飛び出して、鋭い爪で僕を斬り裂く



うあぁぁぁっ!!


僕が大声を出した瞬間、身体が痙攣してバランスを崩す

眼を開けると、朝日の眩しい光が目に飛び込んで来た



「夢…」


同じ姿勢でいたため、身体が痛い

それでも、少し寝たことで多少は元気が戻ってきたようだ



僕のお腹に置いたリュックサックの中で、ドラゴンが丸くなっている


こいつは凄いな

こんなに小さいのに一人で、いや、一匹でこの森を生き抜いてきたんだ

かっこいいよ


気まぐれで助けた

そうしたら、思った以上に助けられた


変な縁だったけど、たった一日だけど、一緒に大森林を逃げて来た

そして、二人で夜を明かした


仲間意識はある

こいつも僕から逃げないところをみると、そう思っているのかもしれない



「…」


こいつ、生きているのか?

僕は、あまりに動かないドラゴンをツンツンしてみる


「ガウ…」


不機嫌そうに、目を開けるドラゴン


「よし、そろそろ行こう。思ったよりも日が登ってるから暑くなってきそうだよ。水も少ないし」


「…」


僕が言うと、ドラゴンはリュックサックの中で目を閉じる

お前、僕に運んでもらう気なのか?



寝起きでボルダリングのようなハードアクションはお勧めしない

何とか木から降りると、身体が擦り傷だらけになってしまっていた


「痛い…」


木は、登るよりも降りる方が危険だ

愚痴ってもしょうがないので、僕はコンパスで方向を確認して歩き始める



「おい、ちゃんとモンスターを見つけろよな」


「グルル…」


ドラゴンを無理やりリュックサックから引きずり出し、外を警戒させる

お前も、もう飛べないんだから襲われたら喰われるの確定なんだぞ?



ずっと木の枝に跨っていたから、おしりと腰が痛い

かと言って、さっさと進まなければ危ない


しばらく進むと、少しだけ木の種類が変わってきたように思える

もしかしたら、入口領域に着いたのかもしれない



「よかった、すんなり着けたね。後は人を探すだけだ」


更に進むと、所々に小さな空き地のような場所がある

そう言えば、騎士学園のバスが停まった場所も木の生えていない草原のような空き地だった


共通点がある

つまり、ここが入口領域である可能性が高いということだ!


僕は自分の考えに興奮する

もうすぐ帰れるかもしれない!



「ガウ…!」


「え?」



ドラゴンが鳴く

しかも、緊張感を持って


つまり、何かが来る

人だろうか


でも、僕は思い出した


僕がバスを降りた場所は入口領域

あの場所で、モンスターハンターや先生たちがモンスターと戦っていた


つまり、入口領域にもモンスターはいるということ

もう、カラシニコフも杖もない



ガサガサッ…


僕は念のため、音がする方向と反対方向に向かい、その場を離れる



どこかに逃げられる場所はないか?


木の上?

運よく助けてくれる人はいないか?


大声を出してみる?

いや、モンスターに居場所を教えることになる



近づけば近づくほど、その音の主が人間とは思えない

歩き方が違う



「…しまった!」


僕が向かった先には急斜面、崖と言ってもいい場所になっていた



横に五十メートルほど走れば急斜面は終わっている

しかし、現れたこいつがそれをさせてくれなさそうだ


大型犬ぐらいの大きさの大きなネズミで、その毛は真っ白

明らかに僕に敵意を持ち、威嚇するように睨みつけてくる



僕は、残った最後の武器であるナイフを取り出す

ゴア・ジャガーは無理だったが、ネズミなら何とかなるかもしれない


僕の右手の傷が鈍くうずく

ディノサウノロイドとの命を懸けた戦い


怖い

死にたくない


地面に転がったディノサウノロイド

僕はあんな風に死にたくない!



「あぁぁぁぁぁっ!!」


僕は自分から走っていく



ナイフを突き立てて、崖の端まで走る!

そして逃げる!


その時、白いネズミの毛が白から赤に変わる

僕はその瞬間、第八感の一つ、輪力を感じ取った



…これ、特技(スキル)!?


特技(スキル)を使おうとしている!




まずい!



僕は急ブレーキ、すぐに後ろに駆け出す






少しでも離れて、避け……!





ドッ……




「………っ!?」






………ァァァァァン!!!!






結果的に僕の判断は正しかった





ネズミは体を中心に大爆発を起こし、その爆風で僕の体が浮きあがる





真後ろからの爆風





僕の身体が浮き上がり、急斜面に激突





そのまま転がりながら斜面の上へと吹き飛ばされる





衝撃で息ができない





轟音で失われた音、響く耳鳴り





ピクリとも動かせない体






…意識を失う直前、僕は胸に抱いたドラゴンの暖かさを感じていた




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