二章 29話 大森林六日目
用語説明w
ボウマン教官:壮年の竜人男性。拉致集団「森の牙」の教官で、子供達を大切に思っている
ニーナ:拉致集団「森の牙」で暮らすノーマンの少女。ショートカットの黒髪
「おい、急げ!」
「間違いないのか!?」
朝から正規兵の大人たちが走り回っている
「実際に襲われた! 狩りに出ていた部隊は全滅だ!」
「くそっ、どうしてここが…!!」
騒然とするキャンプ
キャンプを飛び出していく正規兵と戦車やMEB
その物音で、起床の合図よりも前に僕たちは目が覚めた
僕たち少年兵が朝食を食べている間も、キャンプの中は慌ただしいまま
何かが起こったのは間違いなさそうだ
子供達は皆、不安そうな表情を浮かべている
「何があったのですか?」
ゴルダが、テントに入ってきたボウマン教官に尋ねる
「今日は水汲みと戦闘訓練の予定だったが、すべて中止だ。指示があるまで待機とする」
「待機…、ですか?」
「そうだ。今、このキャンプは重大なトラブルに見舞われている。少年兵の出番はない」
「…っ!?」
ゴルダは納得がいかない顔をしする
だが、言う通りに席に戻った
「これから先、何があるか分からん。全員、しっかりと食事と休息を取っておけ」
そう言うと、ボウマン教官は行ってしまった
「何があったんだろう?」
「分からないけど、ただ事じゃなさそうだよね」
僕とニーナは、とりあえず言われた通りに食事を取った
食事を終えて外に出ると、相変わらずキャンプはバタバタしている
正規兵が武器をかき集め、戦車や戦闘車両を動かしている
「…戦いでも始まるのかな?」
「うーん、どうなんだろう」
僕たちが少年兵用のテントに向うと、その途中で正規兵とゴルダが話しているのが見えた
あの正規兵は、少年兵を殴りつけていたヘンリクだ
「お前、志はあるのか?」
「はい!」
「この世を変えるために戦えるのか?」
「はい!」
「今、攻めてきているのは、腐り切った現代社会の軍団だ。だが、奴らは強い。 仲間のために死ぬ覚悟はあるんだな?」
「は、はい! もちろんです!」
「よし、お前にこれを預ける。敵に撃ち込み、正義の狼煙を上げてやれ! 行くぞ!」
「はい!」
ヘンリクがゴルダにロケットランチャーを渡す
そして、ゴルダを連れて歩いて行ってしまう
「ゴ、ゴルダ、どこに行くんだ? 武器なんか持って…」
「……行きましょ。私たちには関係ないよ」
ニーナはそう言うと、僕の腕を引っ張ってテントに入ってしまう
それからしばらくは、騒がしさはあるが何事もなく時間が過ぎて行った
異変が起きたのは午後になってからだった
「戻ったぞー!」
「負傷者を運べ!」
キャンプの外に出ていた正規兵が戻って来た
五台以上の車両が出て行ったはずだが、戻って来た車両はたったの二台
しかも、重傷者が三人も乗っていた
「ゴ、ゴルダ!」
ボウマン教官が、一人の少年兵を抱き上げる
ゴルダは胸や腹を鮮血に染めていた
体からは力が抜け、ピクリとも動かない
「ヘンリク! 貴様、なぜゴルダを連れて行った!? 少年兵は全員、次の場所に連れて行くと言ったはずだ!」
「…正規兵の手が足りない。ゴルダが自分から熱心に連れて行くように頼んで来たんだ」
ゴキィッ!
「がっ…!!」
ボウマン教官が、思いっきりヘンリクを殴りつける
「お前はナイツオブラウンドの指示に従わなかった。このことは報告する」
「ぐっ…、ふざけんなよ、じじい! 敵が攻めてきているんだぞ!? 使える者を使って何が悪い!」
「その敵は、お前が無茶な誘拐を繰り返して足が付いた。因果応報だ」
「…!」
「お前は正規兵だ。最後まで責任を持って戦い抜け。撤退も許さん。ただし、今後、少年兵を使うことは許さない。…分かったな」
「くそっ…!」
ヘンリクはものすごい形相でボウマン教官を睨んだ後、舌打ちをして行ってしまった
その後、ゴルダは人が入れるくらいの寝袋のような袋に入れられた
死体袋といって、亡くなった人を入れる袋だ
やっぱり、ゴルダは戦いに行った
そして、攻撃を受けて死んでしまった
ニーナはそれが分かっていたから、何も言わずに僕をテントに引っ張ったんだ
日が落ちて、辺りはもう真っ暗
キャンプは戦いの準備で騒がしいが、少年兵は就寝を言い渡された
僕は眠れずに、ぼー…っと正規兵が動き回るのを見ていた
「ラーズ、眠れないのか?」
「あ、はい…」
振り返ると、ボウマン教官が立っていた
「ラーズ、騎士学園の騎士は強いのか?」
ボウマン教官が尋ねる
「…はい。闘氣を使いますし、学生でも一人でダンジョンに潜ってモンスターを倒している人がいます」
「学生でもか、ボリュガ・バウド騎士学園は噂にたがわぬ場所のようだな」
もちろん、そんな超人学生はセフィ姉しか知らないけど
「でも、騎士だけでなく一般兵の人も凄いと思います」
「ほぉ…、そう思うか?」
「はい。いろいろな武器を使えば、闘氣が無くてもドラゴンを狩ることができるんですから」
「なるほどな。だが、一番の凄さは兵器の凄さじゃない」
「え?」
僕はボウマン教官の顔を見上げる
「その兵器をどこで、どうやって使うのか。それを考え出す戦略が一般兵の本当の強さだ」
「戦略…」
「そして、精神論にはなってしまうが…、そのためには、敵がどんなに強くても戦うことを諦めない。理解し、分析し、考える。どんなにピンチでも、常に冷静に物事を見る必要がある」
「はい」
ボウマン教官が、諭すように僕に言う
「いいか、ラーズ。何度でも言うが、生き残ることを諦めるな。死ぬまで足掻け。潔さなんて諦めることと同義だ。歯を喰いしばり、泥水をすすってでも生き残るのが真の戦士の力だ」
「…はい」
ボウマン教官の真剣さに、僕はもう一度頷く
その言葉は、これで会えないような、まるで最後かのような言葉にも聞こえた
僕が頷いたのを見ると、ボウマン教官はゆっくりと空を見上げる
キャンプの光は全て消されており、星がたくさん輝いる
「私はな、全ての子供は幸せになるべきだと思っている」
「え…」
「子供が暴力を受けたり、ましてや殺されたりなど、あってはならないことだ。そんなことが起こらないように、そのために世界を変えるために戦っていた」
「…」
「だが、どんな場所でも、人が集まり社会が出来上がれば理不尽なことは起こる。いつまでたっても、理不尽さは無くなりはしない」
「ボウマン教官…」
「…おっと、ついつい愚痴を言ってしまったな。だが、私たち大人の役目は子供達に背中を見せることだ。何があろうと、私は子供達を守り続けるし諦めたりはしない。それこそ、死ぬまでな」
そう言うと、ボウマン教官は笑う
「ボウマン教官は、どうして森の牙にいるんですか?」
僕の問いに、ボウマン教官はまた星空を見上げた
「私は、大切なものを失ってしまったんだ」
「大切なものですか?」
「…娘だ」
「あ…、す、すみません…」
僕は、慌てて謝る
また無神経に聞いてしまった
「いいんだ。それ以来、私は子供達がそんな目に遭わなくていいようにここに来た。それでも、やはり助けられない子供はいるのだがな」
「…」
僕は、ゴルダのことを思い出す
「そう言えば、ラーズは騎士学園でタケミカタナという者を聞いたことあがあるか?」
不意にボウマン教官が言う
「タケミカタナ…? いえ、無いです」
「そうか。騎士殺しの騎士として、騎士学園に囚われていると聞いたのだがな。まぁ、学生が知っていることでもないか」
騎士殺しの騎士!?
そう言えばセフィ姉が、秘密の牢屋に大罪人が囚われていて、スターチス学園長が監視しているとか言っていたけど…
「さ、ラーズ。そろそろ寝ろ。明日も、今日と同じようにバタバタする。もしかしたら、もっと慌ただしくなるかもしれないからな」
「分かりました」
「眠るべき時に寝る。それは戦士として必要な能力だ」
「は、はい!」
ボウマン教官は、そう言って僕の頭に手を置く
そして、優しい目で僕を見つめた後、正規兵のテントの方へと向かって行った
大罪人 二章 15話 セフィ姉との時間




