閑話1・下 ドルグネル家
用語説明w
龍神皇国:惑星ウルにある大国
クレハナ:惑星ウルの龍神皇国の北に位置する小国。フィーナの故郷で内戦が激化している
セフィリア:竜人の女子で、長く美しい金髪が特徴。容姿端麗、学科、実技とも常に学年一位だが、パーティには恵まれていない。ラーズとフィーナは学園入学前からの知り合いで、セフィ姉と呼んで慕っている
セフィリア・ドルグネル
龍神皇国の貴族、ドルグネル家の令嬢
まだ学生ではあるが、彼女は成人を迎えると同時に当主となることが決められている
ドルグネル家は、実戦的な剣術と槍術、ドルグネル流という流派を興したことでも有名だ
「セフィ姉ー!」
「ピンク、久しぶり」
セフィリアが一年振りに騎士学園から帰省した
龍神皇国の中央区にある屋敷に着くと、同じく貴族であり、貴族の序列一位であるカエサリル家が遊びに来ていた
ピンクは今年五歳になる竜人の女の子
カエサリル家とは、カイザードラゴンの血を引く龍神皇国のドラゴンエリートだ
龍神皇国ではドラゴンに近しい血を持つものが尊ばれる
数ある竜の血統の中でも、皇帝の血統である龍神王、そしてカイザードラゴンが最上だと言われている
事実、過去の龍神皇国の英雄達もこの二つの血統であることがほとんどだ
セフィリアのドルグネル家は龍神王の血を引く家系であり、セフィリア自身も濃い龍の力を受け継いでいる
「ピンク、大きくなったわね」
「会いたかったー!」
ピンクが無邪気に抱き付いてくる
セフィリアは、そんなピンクを抱き上げた
「ピンク、セフィリアさんは帰って来たばかりで疲れているのよ?」
ピンクの母で、カエサリル家当主であるキリエが言う
キリエの燃えるような赤髪はピンクにも受け継がれている
「キリエさん、ご無沙汰しております。いいんです、私もピンクに会えてうれしいので」
「ごめんなさいね。この子、セフィリアさんに会えるのをずっと楽しみにしていたから」
貴族の序列トップであるカエサリル家の当主、キリエ
そのキリエがまだ学生のセフィリアをさん付けで呼ぶ、それはキリエのセフィリアに対する評価を表している
ドルグネル家は、現在は当主が不在
セフィリアの父親であり前当主はすでに亡くなっており、今はセフィリアの叔父が当主代理を務めている
カエサリル家とはセフィリアの両親の頃から仲がよく、娘のピンクもセフィリアに懐いている
龍神皇国の貴族は伝統的にボリュガ・バウド騎士学園に入学しており、ピンクもいずれはに入学することになる
「キリエさん。新しい皇太子がお生まれになったと聞きましたが、もうお会いになったのですか?」
「ええ、そうなの。お名前はソロン、遺伝子検査によれば、強い龍神王の血を引いているって」
「そうですか、よかったですね。でも…」
「そうね、また皇帝の後継者争いでゴタゴタしそうよねー」
「…」
後継者争いはどこにでもある
特に、貴族ともなると顕著だ
かく言うドルグネル家も、セフィリアが家督を継ぐことが決まるまでは紆余曲折があった
今でこそ、叔父も家督を譲ることに納得し、契約も済ませているため良好な関係となっている
だが、カエサリル家が介入するまでは、骨肉の争いとなりかねないほどゴタゴタしていた
しかし、セフィリアはまじめであり、意思が強く、理想を持っていた
常に努力と勉強をし続けた結果、まだ中等部でありながら貴族界の中でも突出した才能と実力を持つことを証明して見せた
大人顔負けの知識と発現力を持ち、今ではセフィリアが家督を継ぐことに異を唱えるものはない
それどころか、次代の龍神皇国を背負う期待の新世代と目されている
更に、騎士学園を卒業後は、国内最難関の龍神皇国立中央大学を受験することも決めており、次期党首としてふさわしさを証明することになるだろう
そして、それだけではない
セフィリアの実力とは、騎士としての実力も含む
セフィリアは、騎士としてもすでに騎士学園の学生の域を越えている
魔法、特技、闘氣を身につけ、奥義を習得し、更に龍神王の血という固有の才能までが開花しかけている
騎士とは国家の兵器であり、力の象徴だ
国の戦力としてセフィリアの価値は大きくなり、それに伴ってドルグネル家の貴族界での序列も上がっていくのは確実だ
そんなセフィリアの目下の悩みは、貴族界におけるセフィリアに対する嫉妬、言われなき噂、そして、懐柔しようとしてくる輩の存在だ
セフィリアにいくら能力があったとしても、セフィリアはまだ十五歳
それにも関わらず、龍神皇国にはセフィリアに釣り合うような友人は無く、能力や家名で見てくる者ばかり
親に仲良くするように言われたと、近づいてくる同年代の貴族の子供達にセフィリアは少なからず傷ついてきた
家族もなく、友人と呼べる者もなく、セフィリアは孤独を感じていた
孤独であることに諦めを感じ、すでに孤独を受け入れていた
「セフィリアさん、いつ龍宮殿に行くの?」
「明日行く予定です」
龍宮殿
国会と並ぶ、龍神皇国の意思決定機関
皇帝の住む王宮であり、貴族を中心とした法律や行政を司る
更に、技術の粋を集めた魔法陣などが建設されている魔導法学研究施設でもある
「それなら、私も行ってあげるわ」
「いえ、大丈夫です。いつものことですし、これくらい自分で対処しなくてはいけませんから」
「そう…? 無理しないでね」
セフィリアは一年に一回しか龍神皇国に帰ってこない
そのため、夏休みの間に貴族の次期当主として皇帝陛下に謁見、貴族へあいさつ回りを行うことになる
「セフィリアさんは優秀だし、更に努力もしている。家柄もいいから、また嫉妬されるわね」
キリエが言う
「私は、貴族として必要な勉強をしているだけです。まだまだ力不足ですし、周囲の雑音を気にする余裕はありません」
「相変わらずストイックね…。ご両親のことが有るのは分かるけど、もう少し青春を楽しんでもいいんじゃないかしら」
「…」
セフィリアにとって、自分を高めることは特別なことではない
貴族として、騎士として、強くあらねばならない
それは当然のことなのだ
しかし、そのストイックさは、セフィリアの周囲の人間には理解されない
その努力量について行ける者がいないのだ
騎士学園でさえ、一緒にパーティを組める同級生はいない
セフィリアが単独でダンジョンに潜る理由でもある
「ピンク、ラーズとフィーナを覚えてる?」
「えー、誰ー?」
「去年くらいに会ったんだけどね。もう忘れちゃったかな?」
「えーっと、思い出すね!」
ピンクが可愛く首を左右に捻っている
「あの二人が私の学園に入学してくれたの。おかげで、今年の一年間は楽しかったわ」
「お友達?」
「そうね。どちらかと言うと弟、妹みたいな感じかしら」
「私も会いたーい!」
「ええ、夏休みに会いに行きましょうね」
セフィリアとピンクは頷き合う
「セフィリアさん、修行は?」
キリエが聞く
「はい。夏休みの間、龍としての修行を始めることになります。本格的に龍神王の力の覚醒を目指すと」
「また、忙しい夏休みになりそうね…」
「でも、もう少ししたらファブル地区に遊びに行く予定なんです」
「ああ、例のクレハナの王族の子の所ね。ウルラ家の姫の…」
「はい、そうです。名前はフィーナと言うんですけど、オーティル家という一般家庭で面倒を見てもらっているので、そこに行きます」
「一般家庭…。でも、そうね。たまには、しがらみを忘れる時間も必要よ」
「はい」
セフィリアは、五歳にしてすでに火を吐いている竜族の天才児、ピンクを撫でる
小さい火だが、これは間違いなく特技の一種、ドラゴンのブレス
ピンクは特技が得意なのかもしれない
こうして、セフィリアの夏休みは、修行と勉強、そして貴族としての仕事で過ぎていくのであった
一章終了です
読んでいただきありがとうございます
早めに二章開始できるようにしたいと思います
よろしくお願いします




