一章 12話 たこ焼きクエスト
用語説明w
バウド・ボリュガ騎士学園:騎士を育てる特別な学園、九年制で全寮制。学園島全域が敷地であり、学園内に騎士の穴と呼ばれるダンジョンを持つ
授業を終えて、寮に戻る途中
「ちょっと寒くなって来たね…」
フィーナが言う
「そうね。入学式は真夏だったけど、いつの間にか秋も終りなのね」
ミィが頷く
確かに、夕方の風がもう冷たい
気が付いたら、バタバタと時間が過ぎてしまっている
「ヤマト、どうしたんだよ?」
さっきから仏頂面しているヤマトに、僕は声をかける
「…」
「ヤマト?」
ミィもヤマトを見る
「ヤマト…?」
そして、フィーナも
「……」
だが、ヤマトは黙ったままだ
明らかに何かある
だが、口を開かないヤマト
どうしようかとミィを見たら、ミィも首をすくめた
ヤマト、本当にどうしたんだろ?
「ヤマト、何を悩んでるんだよ」
「は?」
知らない振りをするヤマト
いや、バレバレじゃねーか
仕方がない、友達だからな
こういう時は一肌脱いでやるか
恥ずかしいから口には出さないけどな!
「ヤマト、ちょっとだけ遊びに行こうぜ」
「何言ってんだ? 平日の外出は禁止だろ」
ヤマトが言う
初等部の学生は、平日は学園から出るのは禁止されている
授業が終われば、後は寮に戻るだけ
学園から出て、学園町や港町に行っていいのは週末の休みの日だけなのだ
「ちょっとくらい、いいだろ? 学園町にあったたこ焼き食べたいって言ってたじゃん」
「…ああ、あれか」
ヤマトが思い出したように言う
「ラーズ、ダメだよ。先生に見つかったら…」
フィーナが言う
「ちょっとだけだって。あのたこ焼き屋、学園町に入ってすぐの所だからさ。しかも安かったし」
「そうだなぁ、めちゃくちゃ安かったな」
ヤマトが、完全にその気になった顔をしている
「ヤマトまで…。前に初等部の三年生の先輩が捕まって、ハビエル先生にすごい怒られてたんだよ? ダメだって…」
フィーナが心配そうな顔をする
「あー、あれ、えぐかったわね。みんなの前で怒鳴られて泣かされてたから。規律を破るようなものが騎士になる資格はないっっ! て…。その後、手書きで反省文二十枚欠かされてたわよ」
ミィがおかしそうに話す
「…」「…」
え、そんなにヤバいの?
たこ焼き屋、学園の門を出て本当にすぐそこなんだけど、やめた方がいいかな…
僕とヤマトが顔を見合わせる
「怖いのか?」
「は?」
ヤマトがニヤリと笑う
ヤマトのために言い出したのに、何で僕が挑発されてんだ?
「いやいや、なんか、やさぐれていたヤマトのために言ったんだよ? ヤマトこそ、怖いならやめた方がいいだろ」
「いやいやいや、俺は全然怖くないぜ。反省文くらい、どうってことないし。ラーズこそ、怖いならやめろよ」
「いやいやいやいや、言い出したの僕だし? 怖いとかないよ、そもそも見つかるわけないし」
「…じゃあ、行くか」
「……ヤマト、身体でかいんだから見つかるなよ?」
「見つからねぇよ。ラーズこそ、ドジ踏むなよな」
僕とヤマトは荷物を降ろす
「ミィ、フィーナ。ごめん、荷物だけ持っていてくんない?」
「…いいけど、私達のたこ焼きも買って来てよ」
「お前ら、行かないくせにずるくない?」
「口止め料と、荷物を預かるっていう役割はするんだし」
「み、ミィ姉…」
フィーナが、完全に止める気のないミィに何か言いたげな顔をする
「…そう言えば、フィーナっていつの間にかミィのことをミィ姉って呼んでるな」
「寮でも一緒だし、年上だし…」
フィーナが、少し恥ずかしそうに言う
「ミィって、こずるい所あるけど面倒見いいもんな」
ヤマトが頷く
「誰がこずるいだ! あ、捕まっても私達は何も聞いてませんって言うからね」
「いや、完全にこずるいだろ…」
フィーナは内向的な性格で、女子寮で上手くやれるか心配していた
だが、ミィと言う年上の友達が出来たことで、最近は明るくなったと思う
僕は、そんな様子のフィーナを見てちょっと安心した
だけど、僕はミィと同い年で、僕の方が付き合いは長いのに、どうして僕は兄呼ばわりされないのだろうか?
え、頼りないの?
結構心配して気にかけてるつもりなんだけど?
「おい、ラーズ。早く行くぞ、日が暮れて来てるんだから」
「あ、うん、分かった」
冬が近づき、かなり日が短くなってきた
そんな暗い道でのたこ焼きクエスト、ちょっとした冒険
ヤマトもちょっとドキドキしているのが分かる
僕たちはミィとフィーナに手を振って、学園の裏門に走った
・・・・・・
「どうやって行く?」
僕はヤマトを振り返る
「裏門には守衛さんがいたよな」
「手前の畑の方から出れたんじゃなかったけ?」
「前、MEBを見たところか」
「そうそう。あの畑の横の細い道を上がって行けばいいだろ」
頷き合い、僕たちは小高い丘みたいになっている坂道を上る
木々が生い茂る雑木林の中の、半分獣道かっていう細い道だ
更に進み、丘を越えてなだらかに坂を下ると雑木林が途切れた
「なんか広い場所に出た」
「あの光が学園町だろ」
「あそこが裏門だから、こっちから行けば大丈夫じゃない?」
薄暗くなっているから、裏門から離れて進めば姿は見えない…と、思う
守衛さんも小屋の中にいるようで、小屋の窓から明かりが見えるだけで姿は見えない
僕たちは急いで学園町の方へと向かう
少し草原を進むと、すぐに学園町と学園を繋ぐ道に出た
そこから十分ほど
すぐに学園町につき、僕たちは目当てのお店を見つけた
「ラーズ、やってるぞ」
「よし、二パックずつ買おう」
「よし」
店の窓の前に行くと、おばちゃんが顔を出す
「あれ、あんたら初等部の学生さんじゃないの?」
「うぐっ…、い、いいえ!」
「…何言ってんだい、バレバレだよ。お客さんだから黙っておいてあげるけど、すぐに帰るんだよ? ここは学園が近いから、よく先生が見回りに来てるからね」
「あ、は、はい!」
そう言って、僕たちはお金を払ってたこ焼きを受け取る
「中等部になったら、授業後に来てもよくなるからね。それまでは我慢するんだよ」
「す、すみません!」
僕たちは、気まずくなって謝る
たこ焼きを受け取ると、おばちゃんにお礼を言って、すぐに来た道を戻る
「おいおい、一瞬でおばちゃんにばれたじゃねーか!」
「生徒の僕たちより、おばちゃんの方が学園のルールに詳しいって」
「中等部の先輩はいいよな。買い食い出来て」
「早く帰ろう! 来た道を走れば見つからないよ」
「ああ、急ごうぜ!」
僕とヤマトは、たこ焼きがグチャグチャにならないように気を付けながら来た道を戻る
途中から、道を外れて雑木林の方向に向かう
裏門には守衛さんがいるので、たこ焼きを持ってはさすがに通れない
「はぁ…、はぁ…」
「やっとここまで来たな…」
僕とヤマトは、肩で息をしながら獣道まで戻って来た
見つかるかもとしれないというドキドキ感が、スタミナを削っていく
いつもより何倍も疲れた
肌寒さがあるのに、もう汗だくだ
「よし、ここを抜ければクエストクリアだ」
「行こう」
今回のプチ冒険は、無事に終われそうだ
僕たちは雑木林の中に入っていく
ガサガサ…
木々の間を歩いて行く
ガサッ…
バサバサ…
ザザッ…!
「くそっ、ローブが引っかかるな!」
「来るとき、こんなに引っかかったか?」
バサッ…
「またかよ!」
ガサガサ…
「うわっ」
ザザァーーーッ!
「…」「…」
おかしい
さっきから歩いているが、雑木林を全然抜けられない
来るときはこんなに歩いていないはずだ
くすくす…
あはは…
「…」「…」
そして、明らかに何かの声が聞こえ始めた
ラングドン先生が言っていた、木霊というやつだろうか
だが、あの時とは違って、明らかにこちらに興味を持って笑いかけてくる
僕たちの注意を引こうとしている
そんな気がするのだ
「…」
「…」
ホー ホー ホー
フゥー ホォー
「なぁ…」
「うん…」
僕とヤマトは、立ち止まって顔を見合わせる
「ここ、一本道だったよな」
「ああ。さすがにおかしいよ」
「それに、肩が重い…」
「俺もなんか疲れて来た」
ずっと歩いているのに、全然道が終わらない
そして、だんだん足が動かなくなってきた
体の調子が変というか…
普段と違う気がする
怖い
はっきり言って、めちゃくちゃ怖くなってきた
ヤマトも、少し泣きそうになっている気がする
僕も同じような顔をしていると思う
何で雑木林を抜けられないんだよ!?
「こらっ!」
「ひぃぃぃっ!?」「ぎゃあぁぁぁぁっ!!」
な、何何何っ!?
急に何だよぉぉぉっ!?
突然、声をかけられて、僕たちは腰を抜かして後ずさる
そこに立っていたのは、ラングドン先生だった
木霊 一章 6話 農園




