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1−2 激突、幸薄色男VS冷血女



始業式の翌日、ハイトたちAクラスの今学年最初の実技訓練は第六演習場で行われた。

イブリース学園の敷地内には実技訓練で使われる演習場が幾つかあり、その中で今回使う第六演習場は柵で周りを囲った簡単な作りの野外演習場だ。

野外演習場、ということあって天候が直接作用されるので雨が降った場合などは実技訓練が中止になる事もあるが、今日の天気はそのような事など一切気にしなくていい雲一つない晴天だ。

そんな春の晴天の下、燦々と降り注ぐ陽光を恨めしく思いながらハイトは実技訓練の担当の教師の説明を適当に聞き流していた。因みに、この実技訓練担当の教師はハイトたちAクラスのあのゴツい担任である。


「──ということで、今から実技訓練を始める。今日はまず最初に、自分のパートナーの実力を知る為にペアを組んだ者同士で模擬戦を行ってもらう。その模擬戦で自分のパートナーとなる者の実力をしっかりと把握し、そこから今後の訓練でお互いの長所を引き出せるような戦い方を見つけだせ。

その為にも今日は全員気を抜かずに全力で相手に挑むこと。このクラスは去年とあまりメンバーが変わっていないようだが、いくら相手の実力を知っているからと言っても決して力を抜くような真似をしないように。もしそんな輩がいれば俺が直接制裁を下す」


最後の直接制裁を下す、という箇所をやたら力強く言った担任の目を見て、あれはマジだ、とハイト含め、Aクラスの大勢の生徒が直感的に判断し、体を震わせた。


「模擬戦は第一組から一組づつ順番に行う。各自昨日配布した用紙に従い、ペアに分かれ、準備をしておけ。第一組目の者が準備が出来次第、模擬戦を開始する」


以上! と威厳のある声で締めて担任の説明が終わった。

説明が終わると生徒たちはぞろぞろと動いてペアに分かれながら、自分の武器を剣帯から抜いてチェックしたり、軽く準備運動をして体をほぐしたりして、各々準備に取りかかった。

 大抵の生徒はそのような感じで真面目に準備をするが、余り気が進まない者も少数だが確かに居る。もちろんハイトは後者に分類される。なんせ、彼のパートナーなあの貧乳女こと、シェイナードなのだ。


「よぉ、ハイト。お前も大変そうだな……、」


重い空気を漂わせ、昨日よりも一段と深いため息を吐くハイトの肩に手を乗せて話しかけてきた人物がいた。赤いオールバックの色男、コルテスだ。


「……、俺が言えた義理じゃないけど、なんでそっちもそんなにテンション低いの?」


昨日話した時とは別人のように暗い影を落とした顔をするコルテスにハイトは戸惑ったように尋ねた。

 すると、コルテスの口から暗黒物質ダークマターでも出しているのではないか、と疑いたくなるような暗くて重いため息を吐き出した。


「オレのパートナーさ、あの冷血女なんだよ……」


冷血女? とコルテスの言葉に疑問を抱きならがら彼が弱々しく人差し指を向けた方向を向く。

 そこにはハイトたちと比べ三歳くらい年下に見えるの小さな女の子が自分の身の丈ほどサイズの緋色の杖を持ってぼけーっと雲を眺めていた。


「……おい、あれのどこを見れば冷血女に見えるんだよ、全然普通じゃん。ていうかなんであんな幼い──」


子供がこんな所にいるんだ? と続く筈のハイトの言葉が途中で強制的に終了させなれた。何故ならハイトの足元から突如石で出来た槍が生えて、それが彼の首を刈らんと突き出してきたからだ。


「気ぃつけろよ、あの女の前で"そいつ"は禁句タブーだ」


"そいつ"とは恐らく『幼い』や『子供』といった単語なのだろう。咄嗟に回避して地面で転がりながら涙目になっているハイトはそれを嫌というほど理解し、言うのが遅かったコルテスを少し睨んだ。


「な、なぁ、おい。このクラスの連中ってお前以外みんなあんな感じなのか?」


ついさっき、ハイトに向かって必殺の一撃を放ったのにも関わらず、何事もなかったかのように再びぼけーっと雲を眺める少女にハイトは少なからず戦慄した。それはそうだろう、悪気が全くないというのに禁句タブーを口にしただけでサーチアンドデストロイとは洒落にならない。


「いや、全員ではないと思うが、昨日も言ったこのクラスは訳ありの人間が色々と多い。つまり奇人変人の割合が常人を上回ってるんだ。特にあの女とツェルペルドルフは実力があってアレだから尚のこと質が悪いんだよ……」


げっそりとした様子で話すコルテスの言葉は物凄く現実味の帯びたものだった。恐らくAクラスの中でも数少ない常識人に分類する彼の過ごした実体験から滲み出た言葉だったのだろう。相当苦労しているのが見て分かった。

 ハイトはそんなコルテスに同情しつつも、そんなクラスで俺、やっていけるのか? と早速、昨日思ったのと真逆の考えを募らせていた。


「ま、まぁ、お互いパートナーが最悪だけど、コルテスは実技の学年三位だろ? 今回の模擬戦であのお嬢さんをぎゃふんと言わせてやれよ」


正直、相手が女で使う武器も自分と相性が良いとは言え、Aクラスのエリート相手ではとても勝負にならない。とハイトはシェイナードと戦う前から既にそう考えている。

その点、コルテスは学年三位の実力者だ。

噂には剣術と魔術の両方を扱うと聞いている。そして対するあの少女は見たところ杖士だ。

 魔術しか使わない杖士と魔術と剣術の両方を使う剣魔士。手数の多さや近距離での素早い攻撃を考慮すると軍配が上がるのは明らかに剣魔士の方だ。

だからハイトもコルテスを元気付けるように、そのような言葉をかけたのだが、返ってきたのはまたしてもため息だった。


「ハイト、俺が三位ってことは、その上に俺より強い奴が二人いるってことだ。その意味、分かるか?」

「えっ、まさか……」

「あの冷血女、アルス=アンスターは実技だけではなく、総合成績トップのバケモン──つまり学年一強いってことだ。学園最大の権力を誇る生徒会相手に単独でタメはれるんじゃないかって噂もある」


語るコルテスの顔色は相変わらず悪かった。確かにそんな化け物を今から相手にするとなると気分も優れないだろう。


「あっ、因みに言っておくが、オレより強いもう一人、実技二位はお前のパートナーのツェルペルドルフだ」

「……………………えっ? マジで?」





コルテスからシェイナードの実力を聞かされた後、ハイトはコルテスと同じように暗黒物質ダークマターが混ざったようなため息を吐きながら、第一組から順に行われている模擬戦を眺めていた。


 今回の模擬戦は担任の立ち合いの下、行われている。制限時間は五分で勝敗の決定は担任の判定によって決められる。気を抜くな、とは言っても余りにも威力が高い魔術などには担任の待ったがかかる。

だが、それでも気を抜けば威力の高い魔術などでは大怪我を負う場合もある。だから、その事を十分に理解しているAクラスの生徒たちは真剣に模擬戦に取り組んだ。


「やっぱレベルが違うな、Aクラスの連中は」


 たった今、終わった第四組の試合を見て率直な感想を述べた。

 実技トップスリーの試合はまだ見てないものの、それ以外の連中もハイトが一年の時に所属していたクラスの実力とは比べ物にならないくらい高かった。

 Aクラスでは剣と銃や、銃と魔術と言った複数の戦術を使う生徒がいる。これはエリートの集まるAクラスだからこそ見れるもので、他のクラスの者では銃なら銃、剣なら剣と一つの戦術のみを特化させるのがやっとだ。そして特化した一つの戦術にしてもAクラスの生徒たちは他のクラスより群を抜いている。

剣をとっても、その太刀筋は学生とは思えないほど見事で、魔術にしても見ただけでその卓越した才能を垣間見ることが出来る。


「……なんだ?」


ハイトはAクラスの生徒たちが見せる技術や才能に舌を巻いて関心していると、なにやら周りがざわざわと騒がしくなってきた事に気が付いた。


「あぁ、なるほど」


模擬戦のフィールドに立つ第五組目の生徒、銀髪の小柄な短髪少女と赤黒いオールバックの少年を見てハイトは納得した。コルテスとアルスの二人だ。

総合成績一位に常に君臨するアルス=アンスターと、実技三位のコルテス=カルテック、果たして軍配が上がるのはどちらか。

確かにこの二人の対戦カードは盛り上がるだろう。ハイトもこの二人の戦いに興味があり、フィールドを囲む人混みを分けて入り込み、試合が見えやすい前の方へと移動した。


「では、二人とも用意は出来たか?」


フィールドで睨み合う二人の間に立って審判をする担任が問う。


「オレはいつでも」

「………………、」


コルテスはいつもの爽やかな笑みとは違う、真剣さが帯びた強張った表情で答え、白色の鞘に入れられた装飾が殆どされていない白銀一色の両刃剣を右手で相手に突き出すように上段に構え、左手は鞘を持って下段に構える。例えるなら蟹鋏のような構えだ。


それに対してアルスは無言の返事を返しながらコツンと身の丈ほどの大きな杖で地面を叩く。


「模擬戦、第五組目────始めッ!」


審判の腕が振り下ろされ、試合開始の宣言と共に二人はほぼ同時に動いた。


「先手必勝ッ!」


コルテスは下段に構えた鞘を勢いよく地面に突き刺し、僅かに唇を動かす。どうやら魔術を発動させる為の契約のようだ。


 魔術を発動させるには空気中に停滞するマナを己の意識下に置いてから、それらから力を借りる。

 その作業の事を契約と呼び、マナとの契約方法はいくつかあり人によってその方法が分かれる。

 コルテスの契約方法に用いたのは言霊を使った詠唱系のようだ。


(恐らくあの鞘は魔術の効果対象を選択する鍵。そしてそれを地面に突き刺したってことは地中からの奇襲が狙いかな──だが、それにしても)


そんなコルテスの行動を冷静に分析し、腕を組みながら観戦するハイトは彼の技量に驚いていた。


(鞘を魔術媒体とした術式か……、さすがは実技三位なだけあるな。こんな芸当が出来る学生なんて普通はいない。いや、学生に限定しなくても出来る人間はそういないな。そもそも発想自体が画期的だし、何よりそれを実現できる程の技量を持ち合わせ初めて成せる業だ)


ハイトがそんな風に評価している間にコルテスが動いた。

 地面に突き刺していた鞘を抜き出し、一気にアルスとの間合いを詰める。その速度は人が出せる速さを遥かに超えていた。


(! コルテスの奴、精製も出来るのか)


マナとは別に人間が体内で微量に発するプラナという力がある。そして本来、体内で微量でしかないプラナをたまに自分の意志で練り上げることが出来る者がいる。

そのプラナを練り上げることを精製と言い、精製したプラナを全身に巡らすことで人としての身体機能を大幅に底上げすることが出来る。

そしてハイトはコルテスがマナとプラナを常人以上に扱っていた事に驚愕せずにいられなかった。


 基本的にマナを扱える者は杖士、プラナを扱える者は剣士か銃士と分かれるのだが、その理由はプラナとマナの両方とも扱う事が出来る人間がごく僅かだからだ。

 マナを扱う者はプラナを精製することが難しく、逆にプラナを精製できてもマナと契約ができないという者が多い。

エリートたちの集まるこのAクラスの者でもこの両方を扱える者は少なく、扱えたとしても、やはりどちらか片方に能力が偏ってしまう。


だが、コルテスは違う。

 彼のプラナによる身体能力強化で上げた速度は、普通の剣士よりも速い。それに加えての鞘を媒体とした魔術。

コルテスは剣士としても杖士としても並外れた才能を持ち合わせていた。


「今日こそ勝たせてもらうぜ、冷血女!」


間合いを詰めたコルテスから上段による白銀の刃と下段による白色の鞘がアルスに牙を向く。

身体能力の強化によって繰り出されるそれは絶対且つ必殺の二連撃はプラナで強化された動体視力があったとしても見切るのは難しいだろう。それは杖士のアルスからすれば見ることすら叶わない攻撃だ。

決まった、と誰もが思った。だが、コルテスの刃がアルスに届くことはなく、ガキィン! という金属同士を勢いよくぶつけ合ったような音が第六演習場に響き渡った。


「ちっ、やっぱ簡単にはヤラセてくないよな」

「…………、」


手に響いた衝撃で顔をしかめながらコルテスはアルスを自分の剣から守った"それ"を恨めしく睨み付けた。

コルテスの刃と鞘を受け止めている物、それは宙に停滞した不気味な黒い砂だった。


(砂鉄、だな)


それを見てハイトはその不気味な黒い砂の正体を直ぐに見破った。

アルスが使ったのは砂鉄。それも大量の砂鉄を圧縮して硬度をより高くした物を宙に浮かべてコルテスの刃を防せいだ。しかも、


(あのお嬢さんがさっきの攻撃を見えていたとは思えない。多分、あの砂鉄は術者を自動的に防御する機能が付いているんだろうな)


三位のコルテスであの実力だ。その彼より強いというアルスならそれくらいの芸当を成すこと自体には余り驚かない。しかし、どうにも解せない点がある。


(砂鉄の収集及び圧縮、そしてそれに自己防衛の機能を加えるとなると、マナとの契約はかなり複雑なものになる筈だが……)


そう、試合が開始してからアルスがマナを契約した素振りなど一切なかったのだ。いや、契約どころか彼女は試合開始以降ずっとその位置を変えていない。


(いや、まさかあの時か……?)


ふと、ハイトの頭に思い浮んだのは試合が始まる前の光景。あの時コルテスは剣と鞘を構え、確かアルスは杖で地面を叩いていた。


(そんな事が……たったあれだけの動作でこの規模の魔術に必要なマナと契約を結んだっていうのか?)


「……バケモンかよ、あのお嬢さん」


あまりの規格外な能力を持つアルスにハイトは思わず声を零していた。

そんなハイトの事など知らずにコルテスとアルスの二人は戦いを更に進めていた。


「まっ、お前をこれ位でヤレルなんて思っちゃいないがなっ!」


コルテスは距離を変えずアルスに上下左右、全方向から剣と鞘で猛攻を仕掛けた。目にも見えない止まらぬ攻撃は一振りする度に風を切る音が鳴り、その風切り音は詰まることなく連続して鳴り続ける。


「……………、」


だがその全ての攻撃があの砂鉄の塊に防がれ、アルスに触れることすら許されない。

 一太刀も決まらないコルテス。そして彼の刃を全て防いでいたアルスの方からも攻撃が展開される。

 トンッとアルスが杖で地面を優しく叩く。

 たったそれだけの動作でアルスの周りの宙を囲う砂鉄とは別に、新たな黒い砂が地上から宙に吸い上げられ、八本の漆黒の槍となってコルテスを包囲する陣形で形成された。


「ちっ!」


 それを見て舌打ちをしながら、瞬時にプラナで強化した脚力でバックステップを踏み、アルスとの間合いを開ける。

 直後、寸前までコルテスがいた地面を漆黒の八槍が貫いていた。


激しく動くコルテスとは反対にアルスは静止の体制を変えない。拠点防衛は杖士の基本的な戦闘スタイルである。

 そして基本的が故に、杖士の才能のみに特化したアルスにとってこのスタイルは最強でもある。


「そろそろ、だな」

「……………?」


距離を取って攻撃の手を一旦、中断していたコルテスがニヤリと笑った。

アルスはそれに特に感情を顔に出すことなく首を傾げたが、次の瞬間、アルスは目を剥いた。


 コルテスの足元の地面がいつの間にか氷で覆われていたのだ。


「この暖かい気候で、渇いた地面。オレが使う術にとってこのフィールドはちょいと不利なんでね。だから変えさせてもらうぜ」


コルテスの足元の氷は徐々に辺りの地面を浸食していき、周囲の暖かい気候がどんどん下げられていく。


「発動までの時間が長いのがこの術の欠点だが、一度発動させればこっちのもんだ」


氷結世界クリアフィールド、とコルテスはこの術を呼んでいた。

ハイトはもちろんの事、Aクラスの他の生徒もこれには驚愕していた。周囲の環境にまで影響を及ぼす術など、見たことがなかったのだ。


「さぁ、ご堪能あれ氷の世界を──」


コルテスは手にしていた鞘を氷の地面に突き立てた。そして素手になった左手をアルスの方へと差し出し、パチンッと指を鳴らす。

すると、アルスを今まで守っていた砂鉄の塊が徐々に凍っていき、最後には氷の塊となって宙に浮いていた砂鉄はゴトンと地面に落ちた。


「今このフィールドは完全にオレの支配下にある。お前が操る砂も、この領域内ではオレの合図一つで簡単に凍らすことが出来るんだぜ?」


 そう言ってもう一度パチンッと指を鳴らす。今度は先程アルスが放った地面に刺さっている八本の槍が瞬時に凍った。


「さっ、これでお前を守る物はなくなった。チェックメイトだぜ、冷血女」


自信に満ち溢れた表情で勝利宣言を告げるコルテス。対しアルスは氷の地面に杖を立てたまま、眉一つ動かさず、ぼけーっとしている。

 この光景を見ていた生徒たちも"殆ど"がコルテスの勝利を確信している。

 因みに、その"殆ど"に含まれていないのは劣等生のハイトと、人混みから離れて遠くから戦いを観戦している優等生のシェイナードだ。


「……終わりだ」


コルテスは勝ち誇ったようにもう一度、勝利宣言を言って、再びパチンッと指を鳴らした。




 ……だが、今度は何も起きない。


「………………あれ?」


もう一度パチン。しかし何も起こらない。

もう一度パチン、パチン、パチン、パチン、パチン………………




「あなたのその魔術は確かに凄い、だけどまだ未完成。だから弱点を見つけてそこを突くのは凄く簡単」


指をずっとパチンパチンと鳴らし続けるコルテスにAクラスのメンバーからだんだんとシラケた視線が集まってきた時だった。

ずっと無口だったアルスが口を開き淡々と言葉を放った。


「弱点……まさか!?」


その言葉にはっ、となり足元に突き立ててある白色の鞘を見た。よく見るとそこにはアルスの操っていた砂鉄が微量だが付着していた。


「その魔術は結界内の物体を任意に凍らすことが出来るような能力を持つ強力な結界魔術。だけど、そんな強力な結界を維持するにはマナとの契約を繋ぎ止める媒体が必要。そしてその媒体はあなたの鞘。私はあなたが鞘で攻撃した際に私のマナの媒体である砂鉄を付着させていた。そして付着さした砂鉄を通して術式を乱した。因みに、あなたの結界を不発させることも可能だったけど、少しだけ興味があったので発動して効果を確認してから術を中断させた」


意外に口を開けばよく喋るんだなあの子、とはハイトの感想だ。

ペラペラと滝のように流れるアルスの言葉を要約すると、


「ごっめーん、なんか色々カッコつけてたみたいだけど、あなたの考えてたことなんて最初からお見通し♪

防ごうと思えば防げたけど何だか楽しそうだったから、最後まであなたに付き合ってあげたの、てへ♪」


的な内容である。いや、色々と違うかもしれないが、コルテスからすればそんな感じに言われたのも同然である。

 アルスの言葉に数秒の間、呆然としていたコルテスだったが、やがて肩が震えだし、いつの間にか白銀の剣をギュッと握り締めていた。


「────ち、」

「……………?」

「ちっくしょおぉぉぉぉぉぉぉおお!!!」


最早やけくそである。

コルテスは無駄にプラナ全開で地面を蹴り上げ爆走し、一直線にアルスへと駆けた。

フェイントも何もない愚直なまでの突撃にアルスは特にリアクションを取ることなく杖でトンッ、と地面を叩く。すると突撃するコルテスの進行上の凍った地面が盛り上がり、そして──


「ごふぁっ!!?」


凍った地面を突き抜けて生えた、土で出来た巨人の拳がきれいな角度でコルテスの顎に入り、見事なアッパーカットを決めてコルテスを吹き飛ばした。

 ゴロンゴロンと地面を転がっていき、コルテスは

ちょうど観戦していたハイトの足元まで飛ばされていった。


「………、あー、えっと、大丈夫か?」


 うつ伏せになって倒れ込んでいるコルテスに少し言いよどみながらハイトは問いかける。すると、コルテスはうつ伏せのまま、情けない声でこう返した。


「……だからあの女とやるのはイヤなんだよ、ちくしょぉ…………」


向こうでは審判を勤めていた担任の声が上がり、第五組目の模擬戦はアルスの勝ちで幕を閉じた。





第五組目の模擬戦が終った後、模擬戦の前にあれほど強力な魔術は使うなと説明を受けていたにも関わらず結界魔術、氷結世界クリアフィールドを使用したコルテスにはあのゴツい担任からみっちりと説教を受けることとなった。

無様な負けをクラスの前で晒し更には鬼担任からの説教と、この色男は顔が良い分、色々と幸が薄いようだとハイトは今日のコルテスを見てそう思った。


「そういやさ、次の第六組目ってハイトの番じゃねえか?」


そう考えていると、当のコルテスから声をかけられた。先程の試合で受けたダメージが残っているのか、コルテスは若干腫れた顎をさすっていた。

 幸が薄い上に顔までダメになってはこの男に救いがなくなるのではないか? とは言葉にせずハイトはそれを心内に納めながら、返事をする。


「……あー、そうだったな」


露骨なくらい嫌な顔である。コルテスもそれには思わず苦笑いを浮かべる。

 苦笑いするコルテスを横目に、ホント、嫌になるね。と愚直をこぼしながらハイトはフィールドの方に視線をやる。そこにはあの貧乳女シェイナードが両手に短銃を添えながら既に待ち構えていた。


「……やる気満々、ってか? 劣等生相手になにムキになってんだか」


再び深いため息。ハイト的には全くやる気がないのだが、真面目にやらねば担任からの制裁が下る。

さっきコルテスに鬼のような表情で説教をしていた担任を思い出し、思わず身震いがした。


「あれの制裁はご免だな……やるしかないか」


 そう呟いて、ハイトは腰の剣帯から武器を抜き、それを軽く肩に担ぐ。


「それ、金属棍棒メノスか? また随分とマイナーな獲物だな」


トントンとハイトが自分の肩を叩くそれは、先端が槍のように尖った流線型フォルムのメノスだ。特に装飾された様子はなく、持ち主のハイトの髪と同じ浅葱色をしたシンプルなデザインである。


 まぁね、とコルテスに背を向けて答えながらハイトはシェイナードの待つフィールドへと歩みだそうとする。


「? なぁ、ハイト。お前って銃も使えるのか?」


ハイトが後ろを向いた際に浮いた制服の上着の下にチラッと見えた、剣帯の背に付けられた銃を入れるホルダーにコルテスは疑問に思った。

 すると、ハイトは足を止めて振り返り、コルテスの疑問に少しだけ戸惑ったように間を空け、そしてこう答えた。


「…………銃は、使わないよ」


それだけ言ってハイトは人混みを分けながらシェイナードが待つフィールドへと向かって行った。


「"使えない"じゃなくて"使わない"、か……」


ハイトの答えた言い回しに若干のシコリを感じながら、コルテスはハイトの背中を見送った。

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