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「到着っと」


 空が黒から青と白が混ざり始めるころ、クラムとポンは家に帰り着いていた。


「今からはさすがに先生に見せられないよね。寝ているだろうし。ポンは見たところ元気そうだし、一眠りしてから行くか。いろいろ報告したいし」


 クラムはポンの頭をゆっくりとなでる。


(本当に、心配してくれていたんだな)


 目を細め、クラムの手を受け入れていたポンは、ちらりと床を見る。


 そこには、大量のポスター、チラシと、油性マジックのようなモノが散らばっていた。


(……『この子捜しています!!』って、まぁ、迷子の犬とか猫とか探すときの定番だけど。自分で作られると複雑な気分だなぁ)


 ちなみに、作っている途中で『今、休暇中で学校に人がいない』と気づいたため、クラムは直接ポンを探しに行ったのである。


 その際、慌てて出かけたため、床は散らばり放題のヒドい惨状であった。


「……あとで片づけないと。とりあえず、ポンが無事でよかった」


 きゅっとクラムはポンを抱きしめる。


 一方、ここでポンの当初の疑問が再燃する。


(無事って、そういえば俺はなんで生きているんだ?)


 計算ではポンの寿命はもう0日のはずなのだ。


(計算ミスとか?まぁ、知識から計算した結果だし、暗算だから細かいミスもあるだろうから単純にその可能性がもっとも高いけど……)


 生きているだけありがたい話だが、逆に言うといつ死ぬかわからない状態だ。


 それはそれで怖い話である。


(とりあえず、計算しなおしてみるかな? 何か間違いがあるのかも……)


 そんなことを考えてる間に、ポンはカゴに運ばれた。


 一日ぶりであるが、妙に懐かしくて、うれしくなるクラムが作ってくれたカゴである。


 ふわふわの毛布に降りて、ポンはぐいっと伸びをする。


(ああ、帰ってこれた)


「ちょっとそこで大人しくしててね。さすがに汚れたから、お風呂を沸かして……」


 そのとき、急にポンの身体が光り始めた。


「え?」


(えっ?)


 目が開けられないほどの光量ではなく、光っているとわかる程度の光。

 

 でもなぜ光っているのか。

 その答えはすぐにわかった。


「何、これ。『進化させますか?』って」


 光が文字となり、それを読んだクラムの動きが止まる。


「進化……って。確か、成長したファミモンが、さらなる高次元の存在になるための現象。特訓とかと違って、身体の作りを変えるから、ステータスが大幅に変わるし、寿命も……」


 クラムは身体を細かくふるわせると、その場に座り込んだ。


「寿命も……変わる。増える。じゃあ、まだポンは死なないの?」


 ぽろぽろとクラムの目から涙がこぼれていく。


 一方、ポンは唖然としていた。


(進化? マジで? まだまだレベルを上げないと進化なんて無理でしょ?どうやって条件をクリアして……まさか、ご主人様?)


 ポンはすぐに答えにたどり着く。


(ファミモンのバトルはチーム制。経験値はバトルに出ていたメンバー全員が獲得していたけど……もしかして、ご主人様が倒していた魔物の分の経験値が俺に入った?)


 魔物を倒したあとに見えるもやもやが見えなかったが、クラムがものすごいスピードで駆けていたので見えなかったのだろう。


(俺が今生きているのも、これが原因か? そういえば、進化のイベントは条件を達成していても、選択出来るのはバトルが終わって拠点に帰ってきたときだったな)


 クラムが森でポンを抱えたまま戦い続け、駆け続けたので、すでに寿命が終えているにも関わらず、ポンは生きていたのだろう。


 進化のイベントが終わるまで。


(やっぱり、ご主人様が俺を助けてくれたわけだ。『特訓』とか『修行』とかで寿命を削られたけど……助けてくれたのは、ご主人様だ)


 クラムが自分を助けてくれた。


 そう考えるだけでポンの身体もぷるぷると震えてくる。


 喜びで身体が震えることが、実際にあるなんて、ポン自身も驚いてしまった。


(いつかは、俺がご主人様を助けられるようにならないとな……まぁ、『最強』になれる進化先は選べないけど、一応ポン君はファミリア・モンスターで最高レア度のファミモンだ。最後まで育てれば『最強』以外でも多少は……)


 ポンが将来進化して、クラムと共に戦い、守っている姿を夢想していたころ、クラムは涙を拭いて、落ち着きを取り戻していた。


「よかった……でも、進化ってどうすればいいんだろう。名前、かな? 進化先が三つも表示されているんだけど」


(……………………………………え?)


 クラムがぽつりとつぶやいた言葉に、ポンは夢想から引き戻される。


「『闇夜の戦狸の子』『陽光の賢狸の子』『白く弱い陣狸の子』か。ファミモンによっては複数の進化先があるって話だけど……困ったな。どれがいいんだろ」


 クラムがうーんと悩んでいるが、ポンの驚きはそれどころではなかった。


(ほ、ほほほ本当に三つある! 特殊条件の進化ツリーも表示されている! な、なんで!?)


 クラムの言うとおり、進化先が3つ表示されている。


 進化そのものに意識をとられ、表示されている文字にまで気が回っていなかったのである。


(2つ目のツリーはレベル15だから表示される可能性もあったけど、3つ目の条件の魔物の討伐数1000匹はいくらなんでも今日だけじゃ……)


 そこでふと、ポンの頭に浮かんだのは森の光景だった。


 最初に踏み入れた時、至る所に大量に落ちていたクラムの武器。


 かなり奥に進んだところにまで、クラムの武器は落ちていた。


 あの武器が落ちていた分だけ、クラムが森で魔物を倒し続けていたのだとしたら……


(そういえば、俺が『修行』している間、ご主人様は何をしていたんだ? もし、森で魔物を倒し続けていたんだとしたら……その討伐もカウントされていたとしたら)


 ポンの推測は間違っていないのだろう。

 現に、ポン君を最強にするための3つ目の進化ツリーは表示されているのである。


(と、とにかくこれで最強になれるのか? 諦めていたけど、最強の『真獣』に……)


 期待と喜びでポンは高揚していた。


 しかし、ポンはここで肝心なことを忘れている。


 ファミリア・モンスターで、ポン君の育成の際に初心者が必ずひっかかる、最悪の罠があることに。


「うーん、とりあえずは二択か。『闇夜』か『陽光』か。ああ、こんな時に先生がいればなぁ!」


(……違う!!)


 クラムの言葉に、ポンは慌てる。


(そうだった! 何も情報を調べていないプレイヤーは、ポン君の進化先に名前の強そうな『闇夜の戦狸の子』か『陽光の賢狸の子』を選びがちなんだった! 大当たり、3つ目の進化先『白く弱い陣狸の子』は、ぱっと見、名前に変化がないからな)


 イヤラシい選択だとはポンも思う。


 しかし、ポン君を最強にするには『陣狸』である必要があるのだ。


(ああああああああああ! どうしよう! このままだと確実に『白く弱い陣狸の子』は選ばれない!)


 ポンは頭をかかえる。


(これはどうにかしないと! せっかくのチャンスなんだ! でもどうするんだ! 今の俺はポン君で、狸の子供だ。『ぽひゅぽひゅ』言うだけじゃ何も伝わらないし……)


 今のポンが何か意志を伝えることが出来ないのは『修行』の件で、すでに体験している。

 鳴き声やジェスチャーではダメなのだ。


(もっと、物理的に、何かはっきりと意志を伝えられるモノは……)


 今にもクラムは進化先を選んでしまいそうだ。

 ポン自身が選べたらいいのだが、決定権はクラムにあるようである。


 ファミリア・モンスターは主人に仕える使い魔だ。

 そう考えると当たり前ではある。


 ポンは必死に周囲を見渡す。


 何かないだろうか。


 自分の意志を伝えられるモノ。こと。


(……あ、あれは)


 そのとき、ポンはひらめいた。


 今の自分でも意志を伝えられる方法。


 ポンは急いでカゴから抜け出す。


「……あ、ちょっと! どうしたの!? また抜け出す気じゃないでしょうね?」


 大人しくしていたポンが急に飛び出したので、クラムは慌ててポンを捕まえようとする。


(今捕まるわけには……仕方ない)


 クラムの手が迫っていることを感じたポンは、『ポンポポン(アイテム移動)』を発動させる。


「わっ!?って、これ、何? 『マンダギ』? ポンが出したの?って……」


 今までクラムには見せていない『アップ』で驚かせている間に、ポンは目的の場所にたどり着いた。


(よし……これで……)


 ポンは落ちていたモノを拾うと、急いで作り出した。


 自分の意志を伝えるため。


 ポンが出来ること。


 それは、人が意志を伝えるために生み出したもっとも便利な道具の一つ。


「……え?」


 クラムはポンが作ったモノを見て、驚き固まってしまう。


『しんかはオレにきめさせて』


 落ちていたチラシと筆記用具を使用して、そう書かれているポンが作り出した『文章』は、はっきりとクラムにも読めるモノだった。


 なぜなら、クラムの世界の文字も、ポンが生きていた世界と同じ文字を使用していたからだ。


(……オレにも読めていたからな。このチラシの文章もだけど、『トイレ』の案内の文字とか。ここがファミリア・モンスターのゲームの世界と同じって言うなら、そりゃ言葉もゲームと同じ。オレの世界と一緒ってわけだ)


 クラムは固まったまま動かない。


 それはそうだろう。


 ポンはどう見ても小さな子狸にしか見えない。


 なのに文字を書き、それを見せてきたのだ。


「えっと……ポン。もしかしてアンタ、言葉がわかるの?」


 恐る恐る聞いてくるクラムに、ポンは答える。


『はい』と。


「え……ええええ? どういうこと!?」


 頭を抱えたクラムに、ポンも苦笑いを浮かべるしかなかった。


おしゃかしゃままと申します!

ここまで読んでくださってありがとうございます。

おもしろいなぁ(*^ω^*)

続きが読みたいよ(。・ω・。)

と少しでも思っていただけたらうれしいです!

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さらにうれしさUPですよ.゜+.(´∀`*).+゜.


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