表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/24

『黒』が見たい

「キキィイイイイイ!!」


 ポンを掲げていたコボルトは、そのままポンを地面に叩きつけた。


 ポンの身体からはっきりと骨が折れる音が聞こえた。


「がひゅっつ!?」


「キキイイイイイイイイ!」


 コボルト達の嬉しそうな声が周囲に響く。


 一方、ポンは思い出していた。


 コボルト達、魔人族達がなぜ『最悪』と呼ばれているのか。


(『経験値』がもらえないだけじゃない……コイツらは『邪悪』という言葉がふさわしいほどに最悪の性格をしていて……文字通り畜生)


 コボルトたちははしゃぎ、変な踊りのように飛び跳ねている。


 彼らの腰には、球体状のモノがいくつも括り付けられており、しっぽと一緒に上下に揺れていた。


 その球体状のモノとは……コボルトの頭だった。


 おそらく、『ビィスピンナ』の糸に絡まった仲間のモノだろう。


(助けられなくて首だけでも持って帰ろうとしているとか、糸で苦しんでいるのを介錯したとか、そんな話じゃない。コイツ等『魔人族』は、弱っている奴を痛めつけることに快感を覚えるだけだ。それが苦楽を共にした同族の仲間だろうと、『悪いご主人様』を殺した恩人だろうと関係ない。ただ、強い奴には従い、弱い奴をいじめる。それが『魔人族』)


 このことはゲームのファミリア・モンスターでも設定として説明されていたし、実際にシナリオでもその邪悪な部分を垣間見ることが出来た。


 ゲームの進行に関係はないフレーバーテキストのようなモノだったのでそこまで深くは考えず、ポンも重要視していなかったのだが、それが仇となった。


(『ビィスピンナ』さえ倒せば問題ないと思っちまった。ゲームだとボスを倒せば取り巻きは消えるからな……でも、ゲームじゃないんだ。コボルト達は近くにいたし、コイツ等は俺みたいな弱そうな生き物を見つけたら襲いかかるに決まっていた)


 おそらく、コボルトたちは木の上にいるポンを見つけ、周辺に落ちていた石を見つけて投げてきたのだろう。


 それは、『ビィスピンナ』を倒された敵討ちという感情も、食料を見つけたという食欲もいっさい無く、ただ弱そうな生き物を見つけたから暴力を振るった。


 それだけの行動理念からである。


 さきほどポンを地面に叩きつけたコボルトとは別のコボルトがポンを掴んで、また地面に叩きつける。


「ぎっ……!!」


 また、別のコボルトが同様に掴んで叩きつける。


「ぐぅ!」


 その度に骨が折れ、血が吹き出し、意識が飛んでいく。


(……痛みも感じなくなってきた……こりゃ、無理だ)


 地面の茶色と、自分の血の赤、コボルトの毛の薄汚い白。


 それだけが何度も視界に入っては消えてく。


(やっぱり、無理があったか。残り41日で……いや、そろそろ0時を過ぎるから、40日か? それにストレスで寿命が削れたし、これは確実に『重傷』だ。『重傷』だと確か、30日寿命が削れるから……もう、そんなこと関係ないか。これはもう無理だ。寿命とかの前に、殺される)


 だったら、死ぬ前にもっと綺麗なモノが見たかった。


(こんな地面の色じゃなくて、汚い白でもなくて。あのとき見た夜空の……)

 

 出て行く前に見た、ご主人様の。


(『黒』が、見たかった)


 コボルトがポンの首をつかみ持ち上げている。


『黒』がみたいと思っているのに、コボルトは首を後ろを持っているので、地面しか見えない。


 また地面に叩きつけるのだろう。


 いっそ剣で刺してくれれば、楽になれるのだろうが、コボルトたちの目的はポンを殺すことではない。


 ポンで遊ぶこと。


 それだけだ。


 まぁ、どちらにしてもポンが意識を保てるのも、これが最後だろう。


 ポンの身体の感覚は完全に無くなり、視界も半分ほど消えている。


 それでも、最後に、なんとか『黒』を見ようとポンが顔を少し上げた。




 そのときだった。






「うちの子になにをしているんだ貴様らぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



 激しい怒りがこもった声と共に、ポンを掴んでいたコボルトの頭が弾け飛ぶ。


(……え?)


「死ねやこらぁあああああああああああ!!」


 頭部を失い、ポンの掴んでいたコボルトの身体は倒れる前に、ほかの2匹のコボルト達は、身体そのが爆発したように散っていく。


(なに……が?)


 疑問が解消されるまえに、ポンの身体は柔らかい何かに包まれた。


(懐かしい匂い……この匂い)


 ポンはゆっくり首を上げる。


 そこには、見たかった『黒』があった。


 星が輝く夜空に、美しい黒い髪の少女の顔。


 ポンのご主人、クラムがいた。


「ポン。ポン大丈夫!? ごめんね、私がしっかり鍵をかけなかったから、こんなとこまで迷子になって……」

 

 クラムは泣きそうな顔でポンを見ていた。


(迷子じゃないよ。それに鍵を外したのは俺だよ。近くにあったティッシュ箱とかを足場にすれば簡単に届いたし)


 クラムの声を聞いて、ポンの心が安らいだ。


 全身傷だらけで、痛みさえない感じないほどの重傷なのに、心はぽかぽかと暖かい。


(ああ……眠い。このまま寝たら、きっと気持ちいいだろうな)


 そのまま、ポンは目を閉じて、深い眠りについた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ