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コボルト

(こりゃあ、確実に『ストレス』で寿命が削れたな)


 今のポンの体調は、『特訓』で疲れ果てて帰宅しているときによく似ていた。


(もしくは、人間でサラリーマンだったときの仕事終わり。あの仕事、やっぱり寿命を削りながらやっていたのか)


 昔のことを思いだし、ポンは少し遠い目をする。


 といっても、ポンがこの世界に転生してから一ヶ月も経過していないのだが。


(さて、とりあえず。レベルアップはしたけどこれまでと同じ感覚だから1アップってところかな? つまり俺の今のレベルは6。けど、『ストレス』も溜まってこれで俺の寿命は10日マイナスして31日、か。いや、今の時間は何時だ? 0時を超えていたら1日マイナスで30日? まぁ、そんなことより。ランクDの魔物を倒して、毎回これじゃあやっぱり無理ゲーだな。レベルが一気に3とか上がらないと)


 倒すごとにレベルが上がったとしても、そのたびにストレスで寿命が削られるのなら、結局ポンがレベル10になる頃には寿命が無くなってしまう。


(慣れればどうにかなるのか? でも自分の身体よりも大きな口を開けて待ちかまえる化け物に、ギリギリで毒やら武器を投げ込む戦法に、慣れるとは思えないけど)


 正直、そこらへんのジェットコースターよりも心身にかかるストレスは大きいはずだ。


 ホラー映画のクライマックスを連発しているようなモノである。


(最後の罠に落として、上から武器を降らせる戦法もな。事前に毒やら武器やらで弱らせたから出来たわけで。もっと、戦略を練るか……毒を塗り込んだ落とし穴を作るとか……いやでも最初はすぐに抜け出すだろうし、一度落ちたらそのあとは警戒して……)


『ストレス』をこらえ、削れていく『寿命』の痛みに耐えながらポンはツラツラと先ほどの戦闘の反省をしていた。


 終わったと思ったのだろう。


 実際、『ビィスピンナ』との戦いは終わっている。


「ご……ひゅっ?」


 突然、ポンの視界が激しく横にずれ、遅れて衝撃が全身を襲う。


(……は?)


 痛みと混乱は思考の全てを占め、ポンはそのまま地面に落ちた。


(な……にが?)


 地面に落ちた衝撃でさらに視界と思考が揺れ、ポンの意識がぐにゃぐにゃとゆがんでいく。


 それでも、生き物としての本能だろう。


 突然襲った身体の危機にどう対処すればいいのかと、ポンは周囲から可能な限り情報を得ようと、五感を何とか動かす。


「キキィイイイ! キイイイ!!」


 すると、20メートルほど離れた場所から、コボルト達がやってくるのが見えた。


『ビィスピンナ』の家畜となり、こき使われていたコボルト。


『ビィスピンナ』に仲間たちも殺され、今は3匹しかいない。


 彼らは、とてもうれしそうだった。


 スキップをして、下手くそな鼻歌まで歌っている。


 憎き『ご主人様』である『ビィスピンナ』が倒され、自由を得たことに対する喜びなのだろう。



 ……いや、違う。


 コボルト達は、地面に落ちて倒れているポンを見つけると嬉しそうに寄声を発する。


 憎き『ご主人様』を倒したポンがまだ生きていることに喜び、介抱してくれるのだろうか。


 いいや、違う。


 一匹のコボルトがポンを片手で荒々しくつかみ、天に掲げる。


 英雄への賞賛だろうか。


 違う。


 違う。


(こいつらは……)


 ポンは見た。


 こちらを見ている2匹のコボルトの顔を。


 ポンは感じた。


 片手でポンの身体を掲げるコボルトの顔を。


 彼らは、犬歯をはっきりと見せながら嗜虐の笑みを浮かべていた。


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