表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/24

夜の森

『ドロドローン(配置移動)』での移動を繰り返せるように事前に仕込んでいた小石を使い、ポンは周囲の木よりも幹の太い木の上にたどり着いた。


 そこには、昼間のうちに集めた枝と草が敷き詰められて立派なベッドになっている。


(……あの子が作ってくれたベッドにはかなわないけどな)


 ポンは軽く目を細めると、のそのそと寝床の上に座る。


(あとは、食べて、寝て。少しでもストレスが溜まらないようにしないと……逆にストレスが溜まりそうな気もするけども)


 周囲に集めておいた果物を『ポンポポン(アイテム移動)』で移動させる。


 今、ポンが持っているのは『マンダギ』という柑橘系の果物だ。

 ゲームのファミモンではHPを少量回復させる効果がある。


 口に運ぶと爽やかな酸味と、少しの苦みとかすかな甘みで、マズくはなかった。


(確か、育成に使うとストレスを軽減する効果があるんだよな。まぁ、ストレスの軽減なら、もっと効果の高いアイテムがあるけど。今の俺じゃ手に入れられないし、そもそもあるのかも分からないし)


 歯がないため、むしゃむしゃと、ゆっくりつぶすように『マンダギ』を食べていく。


(『サーチ』で名前がわかるから、ゲームの知識と合わせると毒のある果物や植物、キノコなんかも見分けがつくし、便利なもんだ)


 一つ、二つと食べてお腹が膨れたポンは、そのまま寝床に横になる。


(星……だ)


 そのころにはすっかり周囲は暗くなり、昨日と同じように星空が広がっていた。


(昨日と変わらない景色のはずなのに……どうしてだろう。昨日よりも綺麗じゃない気かする)


 ポンはそっと目を閉じた。


(大丈夫かな、あの子)


 脳裏に浮かんだのは、クラムだった。


(きっと、心配しているだろうな。今頃探しているんだろうか。いや、もう暗いしさすがに今は部屋に戻っている、か)


 でも、おそらく昼間は探してくれていたのではないだろうか。


 そう思って、ポンはグラウンドから離れるように森の奥に向かって進んでいたのだ。


(悪いことをしたかな。でも、レベルを上げて進化しないと、俺は結局死んでいたから……)


 ごめんなさい。


 そう何度も心の中で謝っていた。

 

 どうしてここまで彼女のことが気になるのだろう。


 人間だった時も、美しい女性と出会う機会はあった。


 それに、テレビや雑誌で見ていた芸能人やモデルだって、十分に魅力的だったはずだ。


 なのに、ここまで一人の人間のことを気にしていたことは、彼の記憶ではなかったことだ。


(たぶん……俺は今本当にファミモン、なんだろうな)


 召喚されたときから、ファミモンはきっとご主人様のことが大好きになるのだろう。


(というか、そうじゃないと俺はロリコンになってしまう……いや、今はポン君だし、生まれたのは一ヶ月前くらいだから、ロリコンとは違うのかもしれないが……いや、しかし……というか、生前はグラマラスなお姉さんが好みだったよな? 巨胸の……あの女優の……キツネのコスプレが可愛かった……)


 そんな思考を繰り返していくうちに、意識はしっかりと闇に消えていった。


 小さい体だ。


 まだまだ睡眠は沢山必要な時期だから、眠りに落ちて当然だった。


 しかし、その眠りは唐突に妨げられた。


(何か、近づいてきている)


 目をこらすと、灯りを持った集団が、ポンが眠っている木に向かって歩いてきていた。


 まだ、『サーチ』の範囲外だが、集団の姿はかろうじて見える。


(アレは……コボルト?)


 二足歩行の犬のような見た目の、魔人族の魔物だ。


(『最悪』だ。魔人族の魔物は……倒しても経験値がもらえない)


 これはファミモンの不思議な仕様の一つだったのだが、魔人族……つまり、人間のような外見をしている魔物は、もらえる経験値が0だったのだ。


 そのくせランクの割に魔人族は強い魔物が多く、魅力的な要素が無くて不評でしかなかったのだが、結局修正されることはなかった。


(こっちもゲームと同じ仕様とは限らないが……『最悪の魔人族』の一番の雑魚モンスターの一匹、コボルト。ランクはFだったか? 本当に『最悪』って言っちゃったよ。でも、『スモールワズ』よりも確実に強い。経験値がもらえようが、どっちにしても戦いたくない相手だ。このままやり過ごせればいいが……)


 どうにもイヤな予感がする。


 コボルト達は、なぜかまっすぐこちらに向かってやってきているのだ。


(周りに比べるとちょっと大きな木だし、たまたまこの木に用事があるとか……ないか)


 コボルト達の歩みに迷いがない。


 それに、彼らはまっすぐに上方……つまりは、ポンが寝床にしている木の枝を見ている。


 数は10匹ほどだろうか。


(やれやれ。しょうがない。ここまできたら覚悟を決めて……)


 コボルト達が木の根本まであと50メートルほどに迫った時だ。


 コボルトの1匹が姿を消した。


「ギギイ!?」


 急に消えた仲間の行方を探すと、すぐにわかった。


 しなる木の枝から伸びた縄に片足をとられ、宙づりになっている。


 気になったのか、近くのコボルト達が仲間が宙づりになっている木の真下に駆け寄っていく。


 そこには、当然のように落とし穴が掘られていた。


「ギギギイイ!?」


 さらに3匹コボルトは落とし穴に落ち、底に仕込まれていた剣や槍で傷を負う。


 コボルトの群はパニック状態になっていた。


(……よし、今のうちに逃げよう)


 コボルト達の騒ぎを見ながら、ポンは寝床から撤退する準備を終えていた。


(念のために周囲に罠を仕掛けていてよかった。夜は強い魔物も多いだろうし。コボルトじゃなかったら倒してもよかったんだけど)


 ちなみに、寝床も別の場所に用意している。


(拠点は複数用意しておく……仕事の経験がこんなところで活きるなんてなぁ)


 ブラック過ぎて思い出したくもない仕事内容を思い出し、暗くなる気持ちをなんとか追い出す。


(今の俺はポン君だ。そして、逃げないといけない時。あれだけ騒いでいるんだ。俺が姿を消しても追ってこれないはず……)


 さっそく『ドロドローン(配置移動)』で逃げようとしたときだ。


 コボルトたちの動きが妙に騒がしくなった。


 さきほど、仲間が罠にかかったときよりも騒々しい。


(なんだ? どうした?)


 がさがさと木々が揺れ、そしてコボルトがつり下がっている木が折れていく。


(おいおい……うそだろ?)


 現れたのは、おそらくは牛くらいの大きさはある巨大な蜘蛛。


(『ビィスピンナ』ランクDの魔物じゃねーか)


『ビィスピンナ』は、キチキチと8本ある足のうち、前の2本を動かしている。


 そして、木につり下げられていたコボルトを一瞬のうちに突き刺してしまった。


(……食べている?)


 コボルトの串刺しを作った『ビィスピンナ』は、そのままコボルトを口に運んでバリバリと食べてしまった。


 仲間を食べられて戦々恐々としているコボルトたちをよそに、『ビィスピンナ』は、落とし穴に落ちていたコボルトも次々と食べていく。


(う……と、とりあえずこのままコボルト達を『ビィスピンナ』が食べてくれるのはありがたい。俺みたいな小さいやつよりもコボルトの方が喰いごたえがあるだろうし、このまま逃げれば……)


 しかし、どうもイヤな予感が消えない。


 そして、コボルトと『ビィスピンナ』の様子を見て、その予感が間違えていなかったことがすぐにわかった。


(な、なんか守っているみたいじゃないか? あのコボルト達。仲間を食べられたくせに……)


 コボルト達は、なぜか『ビィスピンナ』の周囲を守るように囲んでいる。


 仲間を食べられたからといって戦いもせず、また逃げもせず。


(ど、どういうことだ? いや、待てよ? そういえば)


 そこで、ようやくポンは『ビィスピンナ』がどのような魔物か思い出した。


(家畜化。たしか、『ビィスピンナ』は別の弱い魔物を家畜にして従わせるって説明文に書いてあった気がする……それに、そもそもコボルト達は『魔人族』つまり、あのコボルト達は……)


『ビィスピンナ』の家畜。


(じゃあ、あの『ビィスピンナ』の目的は……)


 その思考を読んだかのように、『ビィスピンナ』がポンの方を見た。


 おぞましいまでの複眼が、しっかりとこちらを見ているようで、ポンの毛がぞわぞわと立っていく。


(ヤバイ、逃げ……)


 動こうとした瞬間だった。


 ポンの体が、グンと何かに引っ張られた。


(……え?)


 気がつかなかった、ポンの背中についていた一本の糸。


 それが、『ビィスピンナ』の糸であることを理解した時には、眼前に『ビィスピンナ』の凶悪な口が広がっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ