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42日後に死ぬタヌキ

(綺麗な星だなぁ)


 夜の闇の中に、キラキラとした星が無数に輝いている。


(闇だから空は黒色、じゃなくて、まるで深い海の色のようになっている)


 夜の空の色のことなんて、考えたのはいつ以来だろう。


 もしかしたら、死ぬ前はこんなこと1回も考えたことはなかったかもしれない。


(生き返って、あっという間に残りの『寿命』が42日、か。そもそも、転生なんてこと自体がラッキーだろうけど、早すぎないか?)


 ポンは寝床を抜け出して、窓の縁に座っていた。


 自分の『寿命』が残り一ヶ月と少しと知ってのんびりと眠れるほど、図太い神経はさすがにない。


(まぁ、もしかしたらポン君の姿に転生したこと自体が『あの世』の話、なのかもな。49日だっけ? 残りが42日だけど。誤差もあるかもしれないし、元々生活していた分の日数もあるしな)


 そこで、ポンは下を見た。


 ポン君の姿で目覚めてから、はじめて見た少女。


 クラムがすぅすぅと小さな寝息を立てている。


(……綺麗だな。この子。もしかしたら天使なのかも。そうか、そう考えると確かにあの世なのかもな、ここは)


 クラムの艶やかな肌は、星の光さえも反射している。


(じゃあ、そこまで落胆する話でもないのか。残り42日。もう今日が終わるから、41日か。のんびり過ごしていいかもしれない)


 夕方、モナがクラムに呼ばれて診察をしにきた。


 しきりに3連続の『修行』をさせてしまったことをポンに謝りながら、ポンの今後のことを相談していた。


 ポンの『修行』による成果は一定以上あったが、期待していたようなステータスの伸びはなかった。


 なので、学校の時に他の生徒たちのファミモンと一緒に授業を受けさせるのか、考えるようにクラムに言っていた。


 今回、ポンは『病気』で寝込んでしまった。


『病気』は大変珍しく、そこまで虚弱なポンが、無理をすることをモナもよしとしなかったのだ。


(ポン君の育成。やっぱり無理だったか。まぁ、攻略法を知っている熟練者でも普通に失敗するからな。ゲームでプレイヤーをサポートしてくれるNPCのアドバイス通りだけ行動すると確実に失敗するし、そう考えると当然の結果だ)


 ポンの脳裏に、顔が浮かぶ。


(たぶん、この世界の人たちはファミモンについてゲームのNPC程度の知識しかないんだろう。じゃなきゃあんな無茶な『特訓』や『修行』はやらない)


 2人の少女の顔。


(ああ、もしかしたらあの二人はNPCなのかもな。俺が49日くらいで死ぬようにするための。神様が作った人形とか? じゃあ、もしかして今はあの世の試練的なやつなのか? ここでの行為で天国か地獄か決まる、みたいな? ははは、そんなわけない。わけない)


 ポンの今後について話す、クラムとモナの顔。

 それが何度も、彼の、ポンの脳裏に浮かんでくる。


(……そんなわけ、ないだろうが!)


 ポンは、ぎゅっと拳を握る。


 ポンは見ていた。


 今日、クラムとモナが、話していたのを。


 二人とも、声が枯れていた。


 目が真っ赤に充血し、震えていた。


 苦渋だったのだろう。


 ポンを強くするために、『特訓』や『修行』をさせたのは。


 後悔だったのだろう。

 

 結果として、『病気』が発生し、ポンの『寿命』を大幅に削ってしまったのは。


(彼女たち。この世界の人間たちが、どれだけファミモンの知識があるのか分からないけど、ゲームのNPCと同程度の知識があるのなら、もう少しで死にそうなファミモンについては分かる。ゲームでも、残り寿命が100日を切った時は、サポートのキャラクターが教えてくれたからな)


 ポンを診察して、そのことが判明したのだろう。


 クラムは今、泣き疲れて眠っている。


(ずっと、ずっと謝っていたからな。わんわん泣いて、こんな小さな子が、こんな小さいやつのために……)


 あんな顔で泣く少女が、人形のわけがない。


 ゲームのNPCのわけがない。


 ポンは、彼女が眠ってから何度も繰り返した思考を、再度する。


 どう考えても、失敗する可能性が高い。


 ゲームなら、確実に詰んでいる状況だ。


(……でも、可能性がないわけじゃない。それに、そもそもここはゲームじゃない)


 ポンは、こっそりと窓を開ける。


 皮膚に当たる夜の風は冷たかった。


(俺もゲームのキャラクターじゃないし……この子は、ちゃんとした人間だ)


 ポンは、もう一度、クラムの寝顔を見る。


 これが最後かもしれない。


(最後に、俺が死ぬことを悲しんでくれる人に会えて……泣いてくれる人がいることを知れて、よかった。ありがとう、クラム。俺のご主人様)


 ポンは、そのまま夜の闇に向かって走り出した。


(……もう、『寿命』はない。でも、増やすことは出来る。……『進化』することで!)


 少ない可能性にかけて、ひたすらに走り続けた。


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