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強くなるために

「えっと、どうしたんですか?」


「ごめんなさい……その……ごめんなさい」


「あ、謝らないで、いったいどうしたのか説明を……」


「その、ポンちゃんの『鑑定』の結果なんだけど……何も伸びなかったの!」


 ええ、っとクラムは驚いているが、ポンの心は風のない日の水面のように静かだった。


(そりゃあな。ポン君だもんな)


「の、伸びなかったって、いったい何で……結構過酷な特訓でしたよ? 柔らかい針の上で瞑想とか、グローブをつけた丸太を避けたりとか!」


「わからないの! でも普通なら……☆3つクラスのファミモンでもある程度強くなるはずなのに、この子は何も伸びなかったの! 手加減しすぎた? でも、あれ以上は危ないし」


「じゃ、じゃあこの子は強くなれないってことですか」


「まったく伸びないわけじゃないと思うから、いつかは……でも、この伸び率だと、強くなる前に」


 きゃいきゃいとクラムとモナは話し合っているが、彼はポン君がどうすれば強くなれるか知っている。


 知っているが……


(どうしようかな……ぶっちゃけ、昨日の5連続の特訓が痛すぎて、最強になれる目がほとんど消えたんだけど……)


 ファミリア・モンスターはソーシャルゲームであるが、最大の特徴はその難易度だった。


 キャラクターを育てるのが他のソーシャルゲームと比べて、異常なまでに難しいのだ。


 そのなかでもポン君は圧倒的な……いや、地獄的な難易度で、無課金で最強にするには一回の育成ミスも許されず、さらに幸運が必要と言われていた。


 そんなポン君に対して、五回も特訓をしてしまったのだ。


 それは、取り返しのつかないミスであった。


 ポンは、クラムとモナをみる。


 自分の育成方法について、一生懸命話し合う二人。


(この世界がファミモンと同じ世界なのか……同じ要素を持っているだけの、ぜんぜん別の世界なのか、よく分からない。でも、騎士クラスとか、ファミモンのゲームでは聞いたことがない単語はある。だったら、まだ可能性はある)


 知識はあまりないのかもしれない。


 ポン君の存在自体、記録さえないのだ。


 でも、二人はポンについて一生懸命努力しようとしている。


 なら、ポン自身も頑張ってみていいのではないだろうか。


 グラウンドを見渡し、ポンは目をつけていた場所に向かって走り出す。


「……あ、こら。急にどうしたの? あんまり離れちゃ危ないでしょ。訓練用の森だけど、一応魔物がいるんだし。アンタなんて一口でパクリといかれちゃうわよ」


「ぽ、ぽふうう……」


(やっぱり、あそこは森なのね。しかも、魔物がいる。だったら、なおさらあそこに行かないと……)


「ちょっと! コラ! 暴れないの!」


 じたばたとポンが暴れるとクラムは困惑しながらも落とさないようにしっかりと抱きしめる。


 そんなクラムの様子を心配してモナも寄ってきた。


「どうしたんですか?」


「すみません。ちょっと、この子が……」


「ふむ。森の方に行きたがっているように見えますね。でも、森は……」


 ポンが進もうとしている先にある森を見て、モナは急に何かを思いついたように手を叩く。


「そうです! この手がありました!」


「どうしたんですか?」


「いえ、この子を強くする方法です。バッチリ思いつきましたよ。先生が」


「おおー!」


(おおー!)


 と、クラムとポンはキラキラと目を開く。


 クラムの場合は、ポンの育成に光明が見えた安堵が含まれ、ポンの場合は単純に自分の意図に気づいてもらえたのが嬉しかったのだ。


(やっと気づいてくれたのか! そう。ポン君の育成に大切なのは特訓じゃないのよ。ポン君はまず、森で……)


「さて……さっそく手続きをしてきますね! ちょっと待っていてください!」


 モナが、グラウンドから立ち去っていく。


(手続き? 森に行くのにそんなのがいるのか?)


 そんなモナの背中を、ポンとクラムは黙って見送った。


 ……見送ってしまった。


「……さぁ! 準備出来ましたよ!」


「あの……これは……」


 グラウンドには、煌びやかで厳かな宝石がちりばめられた何らかの儀式的な道具が置かれ、地面には複雑な模様が描かれている。


 模様はモナが帰ってきてから、地面に描いたモノだ。


「『修行の陣』です」


 えへんとモナは胸を張っている。


「『修行の陣』って……確か、ファミモンの新しい可能性を見い出す術式ですよね?」


「ええ。本来なら学期が終わる頃に一回、ファミモンを連れていけるのですが」


「なんでそんなモノがここに?」


「先生! 頑張りました!」


 グッとモナが握り拳を顔の横に持ってくる。


「通常の特訓ではポンちゃんの才能が分からなかったですが……この『修行』なら、何か分かるかもしれません」


 おお、とクラムは嬉しそうにしているが、ポンは冷や汗が止まらなかった。


(まてまてまて『修行』って言ったか? ふざけるなよ!? なんで森に行こうとしたら『修行』って発想になるんだよ)


「『修行』と言えば魔境化した森が一般的ですからね。ポンちゃんが森に向かおうとして、ピンときたんですよ」


(しらねーよ。そんな一般論。というか、違うって。俺が森に行きたかったのは……)


「でも、『修行』でも何も得るモノがなかったら」


「大丈夫。今回は特別に『修行の陣』を三重に書きましたから。三回『修行』に行けます。これだけ『修行』すれば、何かは必ず得ることができるはずです」


(……はい?)


 モナの言葉にポンは固まってしまう。


「三重って……そんなこと出来るんですか? というか、それはやりすぎでは……」


「本当は一回分しか許可が出なかったんですけどね。このことは内緒ですよ?」


 イタズラがバレないようにお願いする幼子のような顔でモナが言う。


 それは、とても可愛らしいモノなのだろうが、ポンは違った。


(三回って……ちょっ! ふざけるなって! 一回はいい。最悪我慢する。どうせ一回は必要だったし。でも、三回はやりすぎだって! そんなに修行したら……)


「では、さっそく始めましょうか。鬼のいぬ間になんとやら……『修行の陣』を一回起動すると一週間は会えません」


「はい」


「今回は三回なので三週間ですね。少し長いお別れになるので……」


 モナに促され、クラムはポンを抱え、顔を合わせる。


「ポン……頑張ってね。大丈夫。ポンならきっと強くなれるから」


「ぽひゅーー……ぽひゅううううん」


「そんなに悲しそうな声を出さないで。大丈夫だから、強くなれるから」


(違う!強くなるとか、そんなレベルの話じゃない! お願い、止めて! このままだと……)


『修行の陣』が輝き始める。


「ポン……またね」


 クラムはそっとポンを『修行の陣』に置いて、手を振った。


「ぽひゅうううううん!」


(またね、じゃなくて!)


 光が強くなり、視界が白く染まっていく。


(このままだと死んじゃうから! 『修行』は『寿命』が! 『寿命』がぁあああああああああああ!)


 そして、そのままポンは三週間『修行』をすることになった。


○○○日後に○○ポン

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