『特訓』開始
「……ぽふぅうううううううう!?」
悲痛な獸の叫びが聞こえる。
「ポ、ポン! 大丈夫!?」
同じように泣きそうな少女の声も聞こえてきた。
「まだまだ! 休むんじゃない! 強くなるんだろ! ふぉおおおおおお!」
そして、奇声を発する少女のような外見の女性が、凶悪な笑みを浮かべている。
(わ、忘れていた! というか、甘くみていた!ファミモンの訓練って、そういえば拷問みたいな内容だった!)
奇声を発している女性、モナは杖のようなモノを構えてポンの後ろに立っている。
そして、ポンは高速で動くベルトコンベアのようなモノの上で、ひたすらに走っていた。
「鍛えろ鍛えろ!! 強さとは!! すなわち強さだぁあああああああ!!」
モナが杖を振ると巨大なボールがいくつも現れる。
材質は一応柔らかそうだが、問題はそのボールが放たれた理由。
「ゆくぞ! これが本当の……特訓だぁああああああ」
「ぽ……ぽふぅうううううう!?」
「ポンーーーーーーー!?」
数多の大きなボールに打ちのめされて、ポンの体は見えなくなった。
「あ、あの! コレは本当に大丈夫なんでしょうか!?」
特訓を終えて倒れているポンを、クラムは心配そうに抱えている。
「大丈夫ですよ。この特訓は伝統的なファミモンのHPを鍛える特訓ですから。今は休暇の時期なので誰もいませんが、いつもは順番待ちが出来るくらい人気の特訓ですし」
「で、でもあんなボールを……しかもなんでモナ先生が!?」
「だって……本当の特訓施設の内容に任せると、その子死んじゃいますよ? 本来ならボールじゃなくて岩やら鉄球が飛んでくる内容ですし」
(……確かに、本来ならそういう内容だ。ゲームのファミモンでも、そういった映像が流れていたし)
ぐったりとしながらも、ポンはモナを睨んでいた。
(だからボールは優しさなんだろうけど……なんだろうけど!)
ボールをぶつける時に、モナが高笑いしていたのをポンは忘れない。
どうやら、モナは可愛らしい外見とは裏腹に、なかなかな性格のようだ。
「そもそも……騎士クラスでトップだったクラムちゃんなら、もう少し過酷な特訓をしてきたんじゃないですか?」
「うっ……まぁ、そうなんですけど……燃えさかる大剣とか飛んできましたけど」
(どんな特訓してきたの!? ご主人様!?)
驚きでポンはクラムを見つめる。
一方クラムは、ふぅとあきらめるように息を吐くと顔を上げる。
「特訓は、ファミモンが強くなるためには必須だと勉強しました……コレは、この子のために必要なことなんですよね」
「ええ、そうですね」
一回の特訓で死にそうに倒れているポンを見て、二人は悲しそうに顔を曇らせる。
(イヤ、特訓は強くなれる。普通のファミモンならほとんど特訓ばっかりすることになるんだけど。ポン君に必要なのは特訓じゃなくて……)
「ぽふ! ぽふうううう!!」
ポンは必死にそのことを伝えようとするが、ぽふぽふ言っても伝わる訳がない。
「HPの特訓は、あまり相性が良くなさそうでしたよね。あんまり伸びる気がしませんでした」
「そうですね。とりあえず、一通り特訓してみましょう。何か伸びるモノが一つでもあれば、そこから鍛えていけるので」
「ぽふううううう!」
ポンは叫ぶ。
彼は知っているのだ。
ポン君の育成方法に、まだ特訓は必要ないことを。
しかし、そんな思いはなかなか伝わらない。
「ふふ……この子もやる気があるみたいですね」
「そう……なんでしょうか。なんか嫌がっているようにも見えますけど」
「とにかく、特訓を続けましょう。普段は並んでいるので一日に一回の特訓しか出来ませんが、幸いにも今は全て空いています。今日で一通り訓練してみますよ!」
「ぽ!? ぽふうううううう!!」
(いやーーーーー! やめてーーーーーーー!)
そんなポンの叫びとは裏腹に、一応甘口になっている特訓を、一通り受けることになるのだった。
「ぽ……ぽふぅ」
「……大丈夫?」
訓練を受けた翌日、クラムとポンは再びグラウンドに来ていた。
「モナ先生が昨日の特訓の結果からいろいろ調べてくれるそうだけど」
訓練を終えたあとに、ポンの『鑑定』をし、ポンの適正を調べるのだそうだ。
『鑑定』の結果の表示はGなどアルファベット表記で、細かい数値などは書かれないが、専門の機材を使えば前回の結果からどれだけ上昇したのかなど、変化などが分かるらしい。
クラムとポンは、グラウンドの真ん中でぽつんと立っていたモナを見つける。
「先生、おはようございます。結果はどうでした……先生?」
「おはよう、クラムちゃん」
そのモナの目は、まさしく死んだようでクラムは思わず動きを止めてしまうのだった。
○○○日後に○○ポン




