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謝罪と鑑定

「申し訳ございませんでした」


 クラムが頭を下げている。


 そこにいるのは、小さな女性教諭モナだ。


 クラムが頭を下げている理由は、彼女の隣にお座りしている小さな獸。


 彼女のファミモンであるポンだ。


 クラムは、モナに嘘をついた。


『自分のファミモンは倒した』と。


 そのことに対する謝罪である。


 教師と生徒。


 その間に発生した嘘の報告に対して、どのような罰則があるのか。


 校則などには記載がなく、つまりは教師の裁量によって決定する。


 モナが、クラムに施したのは……


「ふふ……大丈夫ですよ」


 微笑みだった。


 短い間だったが、モナと接してヒドい罰はないだろうと判断していたクラムだったが、モナの笑顔に安堵する。


 退学まではいかなくても、最悪停学などの可能性はあったからだ。


「それよりも安心しました。スカートの下にこんな小さな子を隠して、大丈夫かなって思っていましたから」


「もしかして……気づいていたんですか?」


「はい。クラムちゃんの動きは明らかにおかしかったですからね。ファミモンの気配もしていたので」


 くすくすとモナは笑う。


「私も一応はこの学院の教師ですから……でも、本当によかったです」


 モナは笑みを止めた。


「……先生?」


「ファミモンの生殺与奪は、使役者マスターにあります。そして、弱いファミモンを育てることは、推奨されることではありません」


 モナから感じる、ヒリヒリとした感覚にクラムは息をのむ。


 モナはこの学院の教師。


 しかも、最高学部の一つ、使役者マスタークラスに選ばれた。


 ほわほわとした見た目と言動だが、何かしらの面で一流と呼ばれた人物でなくては、この王立の学院の教師は務まらない。


「実をいうとですね。結構いるんですよ。召喚したファミモンが弱そうだと、その場で殺してしまう人が。学生に限らず」


「……そうでしょうね」


 ファミモンを育てるのには、膨大なコストがかかる。


 そのため、連れているファミモンが弱いと使役者マスターが批判されることになるのだ。


 使役者マスターは、権力者や富豪が多い。


 彼らにとってメンツは、他の命よりも重視される。


 明言はされていないが……図書館にあるファミモンに関する資料も、弱いファミモンは殺すことを推奨する内容になっていた。


「正直な話をしましょうか。もし、クラムちゃんが呼び出したファミモンを殺していた場合……退学にするつもりでした」


「え?」


「クラムちゃんは学生で、ここは学院です。『学ぶところ』です。そして、何を『学ぶ』のか。ここ、使役者マスタークラスでは、ファミモンの育成方法を学ぶのです。なのに、弱いからとファミモンを殺してしまうのは、本末転倒ではないですか?」



 モナの言葉がじわじわと広がって、クラムは口を閉ざした。


 反論出来ない。

 何も。


「本当に襲われたという理由ならまだしも、その子のように敵対する意志もなく、弱いファミモンを殺してしまうような生徒は、使役者マスターにふさわしくないと私は……前任者の先生も、考えています」


「そうだったのですか」


 なら、自分はふさわしくないのではないか。


 当然の答えが、クラムの脳裏を埋めていく。


 クラムは、確実に、隣で座っている弱いファミモンを殺そうとしていたのだから。


「もっとも、クラムちゃんがこの子を殺してしまうなんて、考えていなかったですけどね」


「……え?」


 モナが、またふふふと笑う。


「だって、クラムちゃんがその子をスカートの中に隠しているとき、まるでお母さんみたいでしたから。『絶対にこの子を守るんだ』って、強い意志で私を睨んで……」


「そ、そんな! 私は、この子を殺そうと……」


「でも、殺さなかった。悩んで悩んで、きっと沢山の殺す理由が本や知識に記されていたのに、それに抵抗した。抵抗できたのは……可愛かったからでしょうか?」


 モナの指摘に、クラムは顔を赤くする。


「そ……うですね」


 そして、少し照れながらも、隣にいる弱い、白い幼いファミモンを抱っこした。


「……名前はなんというのですか?」


「ポンです」


 クラムがなでてやると、ポンは「ポフン」と小さく鳴いて、目を細めている。


「……可愛い」


「ふふ。本当に可愛い名前です。うん。その『可愛い』があれば、大丈夫。クラムちゃんは立派な使役者マスターになれますよ」


「……ありがとうございます」


「さて、ではそろそろ真面目な話にいきましょうか」


 ポフとモナは手をたたくと、席を立ち、透明の水晶が埋め込まれた機材を持ってくる。


「生まれたばかりの弱いファミモンを殺すことを許すつもりはないですが、ファミモンが弱いままでいることも許すつもりはありません。ご存じのとおり、弱いファミモンを放置するには、そのコストが我々人類には高すぎるからです。ではどうすればいいと思いますか?」


「鍛えればいい」


 クラムは即答する。


「そうです。そのために、まずはその子の適正を調べましょう」


 モナは、水晶が埋め込まれた機材に手を置く。


「これは『ステータスボード』触れたモノの現在の能力、適正などを『鑑定』して表示してくれるものです。ファミモンなら種族名もわかりますね。クラムちゃんは……使ったことがありますよね?」


「はい。騎士クラスのときは、しょっちゅう計られていましたから。……『平民ごときが、強いわけがないだろ。不正を暴いてやる』と難癖をつけられて」


 クラムは苦い顔を浮かべる。


 入学当初はアンの取り巻きがステータスボードでの鑑定を強要していたが、騎士クラスを辞める直前は王太子の側近……つまり、師匠の息子であるホウラアクがクラムの鑑定をしにきていたのだ。


 調べなくても、クラムが強いことは、幼少の頃から知っているはずなのに、である。


 悔しかったし、寂しかった。

 

「……イヤなことを思い出させてしまったようですね」


「いえ、大丈夫です。でも、『鑑定』が出来てよかったです。図書館で調べても、この子のことがよくわからなくて……」


 クラムの横にいる白い幼獸、ポン。


 ファミモンについては、その全容が解明されているわけではないが、それでも、このポンについては情報がなさすぎた。


「近縁種と思われるような種族さえ分からなくて……先生は何かご存じですか?」


「いいえ。悲しいですけど、弱そうだと判断されたファミモンは秘密裏に処理されることが多いですから……ここまで小さくて、属性の色味が少ない白いファミモンを育てることはそうないでしょうね」


 二人の間に、少し重い空気が流れる。


「で、でもこれから鑑定するんですよね?」


「そ、そうですね。鑑定すればある意味、世紀の大発見かもしれないし、やってみましょう」


 気を取り直して、クラムは白い幼獸を抱き抱える。


「ふむ。まったく暴れもしないですね。クラムちゃんのことを信頼しているからでしょうか」


「ポンは賢いですから……よいしょっと。ほら、ここよ。ここに手を置きなさい」


 クラムは、幼獸の小さい手をつかみ、そっと機材の中央にある水晶の上に乗せる。


「さて、少しでもいい結果が出るといいけど……」


 モナが機材のスイッチを押す。


 すると、水晶が虹色に輝きだした。


「これって……ウソ。ドンドン眩しくなって」


 光は徐々に強さを増し、そしてついにはクラムとモナの視界を遮るほどに輝いた。

 

 虹色の光は混ざり、白くなる。


 ようやく視界が回復してきたころ、クラムとモナは弱々しく口を開いた。


「な、なにあの光?鑑定って、こんなに光りましたっけ?」


「ううん……そんなことはないはずですけど……もしかして、この子のせい?」


 モナの言葉に、クラムも、そして発したモナ自身も顔を上げる。


「……見てみましょう」


「……そうですね」


 そして、二人はおそるおそるポンの鑑定結果を見る。


「こ、これは……!?」


 二人が驚きの声をあげる一方、ポン自身は冷静だった。


(……まぁ、驚くだろうな。だってこの体は)


 ポンは、自分の白い体をまじまじとみる。


(ファミリア・モンスターで最強の一体だったからな)


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