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EP.4

 涼太は、ブーツを履き、二本足で立ち、言葉を話す猫を見つめる。

 猫は、満月を見上げながら、さらに涼太に語りかける。


「きっと、君にもその日がやって来る」

「その日って?」

「君が探しているモノが見つかる日」

「探しているモノ?」

「今の君にはわからないかもしれない。でも、君も気付く日が来るはずだ」

「なるほど……」


 猫は、涼太をじっと見つめる。涼太は、その大きな瞳に吸い込まれそうな気がして、頭がくらくらした。

 猫は、おもむろに口を開く。


「君ならきっと見つけられるよ。大丈夫。だって、僕を見つけることが出来たのだから」


 猫は、にっこりと笑った。

 涼太は、何も咀嚼できていないものの、頷いた。空を見上げると、綺麗な月が浮かんでいる。


「僕以外にも、僕のような生き物はたくさんいる。昔の人間は『物の怪』と呼んでいたこともあったな……」


 猫は、懐かしそうに目を細めた。


「物の怪……」


 涼太は、その言葉に懐かしさを感じていた。

小学生の頃に読んでいた、妖怪たちが出てくる物語。彼らに会いたいと本気で思っていたあの頃を思い出す。


「ということは、君は『物の怪』と呼ばれていたのかい?」

「そんな風に呼んでいた人間もいた。でも、その優しかった彼も、もうここにはいない。人間は儚い」


 猫は哀しそうな顔で、また空を見上げた。

 涼太は、なんだかいたたまれない気持ちになって、言葉を探した。


「でも、人間には寿命があるから、一つ一つの出来事を大事にしていると思う。だから、僕は君との出会いを大切にするよ」


 涼太なりの心遣いだった。

 人間の記憶は脆い。認知症になれば、この出来事どころか家族の顔すらわからなくなるかもしれない。それでも、この猫の心が少しでも軽くなれば良いと思いながら、涼太は言葉を口に出した。

 すると、猫は嬉しそうに目を細めた。


「ありがとう。君は、やはり僕が思った通りの人間だ。だからこそ、君に伝えておくよ。君はこれから、きっと思わぬ出来事の連続に心が折れそうになる時が来るかもしれない。でも、忘れないで。君のことを案じている僕がいることを」


 猫は、微笑みながら首に下げていたペンダントを外して、涼太に差し出した。


「これは、僕のお守りの一つだ。君に、幸多からんことを」


 涼太はペンダントを受け取ると、ペンダントを見つめた。青く透き通った、とても綺麗なペンダントだった。


「ありがとう」


 猫にお礼を言うと、ペンダントを首にかけた。猫は、満足そうに涼太を見つめた。


「それじゃ、僕はそろそろ行くとするよ」


 猫はくるりと涼太に背を向けて、その場を立ち去った。涼太は、猫の背中を見つめ続けた。

 猫を見送った後も、その場に立ち尽くす。たった今起きた出来事に、頭が追い付いていなかった。

 涼太は、どこか夢心地でペンダントを見た。ペンダントが、きらりとどこかの光を反射した。

 これは夢ではないのだと、ペンダントは告げていた。

 涼太は、翌日も仕事である事を急に思い出し、そそくさと帰宅した。

 玄関に入ると、涼太は溜息をついた。頭を振って、さっきの出来事を一旦頭から引き離そうとする。

 ペンダントを眺める。ペンダントは、蛍光灯に照らされて、きらきらと光っている。

 涼太は、うっかり知らなくて良い世界に足を踏み入れてしまったのかもしれないということに、身震いをした。

 不安を吹き飛ばそうと、涼太はビールを一気に胃袋に押し込んだ。すきっ腹に突っ込んだおかげか、あっという間に酔いが回ってきて、涼太はそのまま眠り込んでしまった。

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