強がり
聞き覚えある声が彼の意識を覚ますと、窓から温かい太陽が目に飛び込んでくる。
辺りを見渡すとパソコンにゲーム機やCDやBlu-ray、漫画が入っている棚が目に入る。
どうやら現実に戻ってきたようだ、とはいえ悪夢から覚めても現実もまた悪夢なのに変わりはない。
彼はここ数日悪夢を見ているようだ、しかも中身は決まって同じ、そのせいで彼は不眠に陥っていた。
はっと我に返ると一人の女性に気が付く、女性は蓮の体を揺さぶっていた。
心配そうな顔をしていた、ずっと蓮にそばで見守っていたのだろうか。
「ようやく……終わった……」
安堵の表情で呟く、しかし目が虚ろな以上その顔から生気を感じない。
体全体を震わせながら自分の手を見ると再び己に深い絶望感が芽生えてくるのがわかる。
「どうしたの……? 泣いてたし泣き止んだと思ったらうなされて叫んでるし……」
「死んじゃうのかと思ったよ……」
心配するような目で蓮を見つめ手を握る。
彼女の名は紅咲 明音、今年で高校三年生の姉だ。
髪をヘアゴムで結んだ髪型が特徴的だ。
クラスの人気者で明るく真面目な性格なのだが弟の事になると暴走する。
なんでも異性関連の噂があるようだが……。
「んもーびっくりしたよぉーレンくん急に倒れちゃうんだからー!」
「お姉ちゃんを心配させちゃダメだぞっ!」
暗かったテンションが変わり、彼女らしい明るい態度に変わる。
その態度のまま蓮の顔をベタベタと触る。
暗い表情は人には見せたくないようだ、特に弟にはなおさら。
「やめてよ……僕もう高校生なんだよ……」
「いちいちそうやって心配してくるのやめて!」
冷たい態度で姉に対応する。
どうやら過去のトラウマから彼女に苦手意識を持っているようだ。
更に不眠によるストレスもあり少しイラつきを見せ始める。
しかし、この言葉を照れ隠しとして受け取った明音は思いっきり抱きついてきた。
「あーもう照れてる?可愛すぎぃー!」
強く抱きついてくると、蓮の顔が更に怒りの表情に変わっていく。
蓮より背の高い女性ということもあり相対的に蓮が子供のように見えてくる。
「やめてぇ……っ恥ずかしいッ!」
そう叫ぶと体を振り切り明音を押しのけベットから起き上がる。
そして遂に怒りの感情を顕にして姉に怒りだす。
苦手意識があるとはいえ大事な家族に珍しく声を荒げる。
「ほっといてよ! 僕なんかより自分のこと心配したら!」
そしてそこから間髪入れずに止めの一言を放った。
「お姉ちゃんなんか嫌いッ! もう部屋に入って来ないでっ!」
ついに拒絶反応を示す蓮、思わず怒りの声が漏れてしまった。
突然の怒りに明音は明るい表情が嘘かのように曇る。
そして、彼女は彼に起こった過去の事を思い出し自分の軽さに頭を抱えてしまう。
そのまま呟くようなぼそぼそとした声で言葉を落とす。
「ごめん……本当に心配で……レンくんは自分より大事だから……また……カッコいい姿が見たくて……」
そう言葉を残し部屋から出る。
蓮は扉を見つめながら後悔したような顔をした。
苦手とはいえ加速を傷つけた、その罪悪感に駆られ更に表情を落とす。
彼女から落とされた言葉が引っかかる。
どう頑張ったって過去には戻れない。
いくらこの世界で技術力が進化したとてタイムマシンなんてものはあるわけがない。
その事実にやはり絶望感を感じる。
(もう……誰とも……関わりたくない……弱い自分を……見られたくない……)
(ごめん……また人傷つけて……辛い……痛い……)
(もう……自分が嫌いだ……)
イスに座りながら考え込む。
彼が一人になりたがるのも理由があった、昔は誰よりも輝いた目で夢を追いかけた。
その姿にみんなが惹かれ人がどんどんと集まっていく。
しかしその夢はもはや叶わない。
肩の力も腕の力も足の力も戻らない、天才と称された彼はもう普通に人間に戻ってしまったのだ、まるで魔法が解けたかのように。
長いリハビリからも何も得られず周りが練習する姿を眺めるだけ、それを見て苛立ってしまう自分も。
自分のすべてを未だに受け入れられない。
あの日の幻想をただ繰り返すだけ。
(気持ち悪い……心のなかでまだ変なものが燃えてる……)
それでも彼はどこか期待していた。
新しい夢と目標を手に入れられる事を、本人としては諦めたつもりでも本能がそうさせない。
まだ夢への希望は消えていない、本当はそう信じたかった。
しかし、今の彼に信じることなどできない。
そんな自分にまた苛立ち、拳をギュッと握る。
悲観に囚われそうになると、部屋にノックが響いた。
部屋の外から微かに声が聴こえる。
「蓮!いるかぁー?!」
「いるなら……開けて……」
「会いに来たぞっー!」
聞き慣れた声が廊下に響く、その声が部屋にも聞こえてくる。
誰よりも大切で家族同然の友達だ、普段なら喜んで一緒に遊ぶだろう。
しかし、彼らとは大ケガした日以来まともに会話すらしていない。
誰とも会いたくない状態では友達とはいえうっとおしく感じているようだ。
(なんで来るんだよ……来てほしくないのに……)
しかし、流石に友達に酷い扱いをする訳にはいかない。
彼も人の心は失ったわけではない。
蓮はゆっくり扉を開ける、その手は微かに震えていた。
扉を開けた瞬間、3人は笑顔で部屋に入ってくる。
名前 紅咲 明音
身長 175cm
血液型 O型
誕生日 6月29日
好きな事 弟と遊ぶこと 歌を歌う 曲を作る 動画投稿
好きな食べ物 チョコパフェ 出来れば甘さ控えめのやつ
嫌いな食べ物 辛いもの全般 弟にカッコつけたくて大食いして胃を壊したから
将来の夢 プロ野球選手が登場曲に使う もしくは作る