走り出す瞬間
まず部屋に入り目に入るのは青々しい綺麗な芝生の色。
次に鮮やかな芝生の色とは対称的な無機質なコンクリートの壁。
この空間は6人では到底使い切れないほどの広さだ。
「すごい……めっちゃ広い!」
「こんな練習場見たことねぇッ!」
「わたしたち……ここを好きに使っていいんだ……!」
三人が感嘆の声を上げる、その声は遠くまで響いては消える。
反響でいかに部屋が広いかがわかる。
思わず叫びたくなってしまうほどだ。
「ここ……100人ぐらいなら……楽勝で入るはず……」
楓がそっと三人に教える。
案の定、三人ともえっというような表情を浮かべながら楓を見つめる。
その間に大樹とリオが二人並んで4人の前に立つ。
そこから発言を始める。
「まずはVR内での動作に慣れてもらう……」
「現実とはちょっと感覚違うから最初のうちは慣れないかもっ!」
「説明は体を動かしながらでな……」
「それじゃ!まずは走り込みっ!」
台本がありそうな雰囲気がするぐらいテンポのいい説明が終わるとリオが明るく練習内容を宣言する。
その宣言を聴くと4人は同じ列に並ぼうとする。
「ちょっと……待って……」
楓が3人に静止すると恥ずかしそうな顔をすると手で顔を覆い足をモジモジ動かし始める。
「あぁ……やっぱり……この服装恥ずかしい……」
「妹の……趣味で……着させられてるけど……」
服装に目をやると下半身は黒色のショートパンツに黒色のニーハイを着用している。
街で歩けば一部の人間はついつい見てしまいそうな服装だ。
肌の美しさも相まって女性だと言われても違和感はない。
「似合ってるからいいんじゃない?」
「カエデちゃんかわいいっ!」
二人が楓を褒める、楓は否定しながらも照れる。
「楓も大変だね、そーいう趣味の兄弟姉妹がいて……」
練がぼそっと呟く、すると周囲がどういうことと練に聴くが蓮はなんでもないと誤魔化した。
(別に誤魔化さなくていいのに……)
陽花が心でそっと呟く、どうやら蓮の事情を知っているようだ。
「お前らー、早く始めるぞー」
「ショウくんもう走っちゃったよーっ!」
二人が蓮たちに声をかける。
唯一会話の輪に入っていなかった翔汰はもう走り込んでいた。
それもかなり全力で走り込んでいるように見える。
「まだまだ行けるっ!」
それに気付いた3人は翔汰に負けないように走り始めた。
特に蓮はケガ以来久々に体を動かす。
ゲームの中とはいえ動かせる体に心を踊らせる。
蓮が一歩目を踏み出し全力で走るとすぐに衝撃が走る。
「うわっ、速ッ!」
思わず足を止めてしまう、その様子を見た楓が声をかける。
「このゲーム……現実より身体能力が大幅に上がってる……!」
「だから、まずは慣れることが大事……!」
蓮は楓の方を見て話を聞いた。
その話を聴くとまた走り出していく。