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第207甲殻魔導小隊  作者: 光 寿寿
第一章 ヘルズヘイム召喚
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アホ-!

「ああぁー!お尻いたい……」


 華はお尻をさすりながら夕食のテーブルへ向かっていた。


「あ……華ちゃん……」


 真弓が華の肩を叩き二人で後ろを振り向くと、後ろを歩いていた綱一が顔を赤くしてそっぽを向いていた。武は全く意に介していないようだ。


「あらあら~?こうくんにはうちのお尻は刺激が強すぎたかな~?」


 華はニシシと笑いながら少しからかっていた。


「そっ!そんなんじゃねーよ!ちょっとあっちが気になったって言うか何て言うか……」


 綱一は必死に否定しているがどんどん声が小さくなっていき最後はゴニョゴニョと何を言っているかわからない。それでは肯定しているようなものだ。


「逆にたけしゃんがなんとも思ってなさそーなのがなんかムカつくなぁ、なんかないの?私のこのわがままボディーを見て」


 華は腰と頭に手をやりポーズを決めて見せる。


「とてもいいスタイルだと思うぞ?出るところは出ているしくびれもある、かといって主張しすぎてはいないしな、あぁ勿論真弓さんも控え目ではあるが小さすぎるわけではないし全体的にバランスはいいと思う、だが俺は子供を見て欲情するほど堕ちてもいないだけだ」


 真弓と華はそれを聞き終わった所で赤面しだす。


「たけしゃんのアホ-!!!そんな面と向かって真面目に言われたら恥ずかしいじゃんか-!!」

「武さんそんなフォロー……いらないです」


 二人は言い終わったら身をひるがえしそそくさとテーブルへ向かっていった。


「俺は何か変なこと言ったか?」


 武は真顔で綱一に問う。


「西脇さん……あんたスゲーよ、普通面と向かってあそこまで言えませんよ……」




 四人はテーブルに座りレイチェルが目の前に料理を手際よく配っていく。


「今日はオーク肉のソテーとレリアスのサラダとヤバルパンですよ、パンには此方のヤムーのバターを塗って食べてくださいね」


 四人には聞きなれない単語がいくつか出てきたので頭の上に?マークが浮かんでいた。


「お気に召しませんか?」


 レイチェルは表情こそ変わらないが明らかにシュンとなりうなだれていた。


「ちちちちがいます!ちょっと聞きなれない名前のものが多かったので」


 綱一はあたふたしながら必死にフォローにはいる。


「冷めてしまってはもったいない、とりあえず食べてみよう、此方の食材と俺たちの世界の食材が同じなわけがないからな」


 武は並べられている料理を一口ずつ口に運んでいく。ナイフとフォークは少し形状は違うがほぼ一致していたのでなんなく使うことが出来た。

 レイチェル含む四人は固唾を飲んで見守っている。


「ふむ、オーク肉はほぼ豚肉に近い味と食感だな、レリアスのサラダはしゃきしゃきとしていてとても歯応えがいいレタスに近いかな?ヤバルパンは小麦パンとほぼ同じだ、ヤムーのバターは俺たちのよく知るバターと遜色はない」


「レイチェルさん、とても美味しいです」


 武はにこりと笑みを浮かべレイチェルに味の感想を言う。


「ありがとうございます、ゆっくりメシアガッテくださいね」


 そう言うとレイチェルは奥の階段を上がり2階のギャラリーに複数ある扉のうちの1つに入っていった。四人は各々に旨い、美味しい等言いながら料理に手をつけていく。



 四人が食事を終えたところでレイチェルが階段を下りてきた。


「レイチェルさんは食べないんですか?」


 綱一はふと疑問に思いレイチェルに質問してみる。


「私は日中に太陽光を少し浴びればそれで十分ですので大丈夫ですよ」


「ソーラー充電?」


「あちらに部屋を用意していますのでそちらデお休みクダサイ」


 レイチェルは先程の2階の複数ある部屋を指差す。


「当面の間はそちらで寝泊まりシテいただくこととなります。此方の世界の書物をいくつか用意していますので、ヴァルさんが最低1日1冊は読むように、と仰っていました、お風呂は奥のトイレの手前の部屋にありますのでご自由に入ってクダサイね」


「何から何までありがとうございます」


「いえいえ、これも私の仕事ですから」


 そう言ってレイチェルは食器を片付け奥の部屋へと入っていった。


「今、レイチェルさん笑ってなかった?」


 綱一には最後にレイチェルが笑ったように見えたようだが、無論レイチェルに表情の変化は見られない。


「うちもそう見えた……」

「……私も……」

「あぁ、確かに笑っていたような」


 どうやら四人ともそう見えていたようだ。




 四人は自室を決め各々部屋を確認するため入っていった、どの部屋も同じ作り家具なども同じ配置であったためさほど悩むこともなく決まっていた。

 部屋には中央に小さな丸テーブルと椅子が、奥にはベッドがありその上には着替え手拭いタオルのようなものが全て複数枚置いてあった、入って左手には大型の本棚とぎっしり詰め込まれたゆうに100冊は超えるであろう本の数々が並んでいた。


「うへぇ、これ全部読めってか……」


 綱一は部屋に入るやいなやため息をつく。


「何々?文字は日本語じゃないな、でも読める……何でだろ?」


 綱一は本の背に書いてあるタイトルを順番に見ていく。


「優しい通貨の単位と買い物の仕方、魔法大全集、魔導具図鑑、魔道具図鑑、なんだこれややこしいな、魔族図鑑、甲殻魔導士の階級の仕組み、天弓、楽しいお料理本、魔族戦争の歴史、etc.」


「一人で部屋にこもって読むのもなぁ」


 綱一は取り敢えず優しい通貨の単位と買い物の仕方を取り出し部屋を後にした。

 階段を下り1階へ行くとすでに武が10冊ほど本を積み重ねテーブルに座っていた。


「そんなに読むんですか?!」


「あぁ綱一くんか、まぁ全部読むわけではないが、読書は嫌いじゃない」


 綱一はへーと言って対角に座り読書を始める。


「あっ、そう言えばこの本もそうですけど全部日本語じゃないな、見たこともない文字で書いてあるじゃないですか。でも読めるんですよねー、なんか不思議な感じしますねー」


「あぁ、それなら魔法大全集4項目目「召喚術とゲートについて」に書いてあったぞ、なんでも召喚士が魂を呼び出しゲートで受肉中にこの世界の言語が流れ込んできて共に記憶されるらしい」


「魔法の力パネェな……」


「ちょっと男子~!うちら今からお風呂行こうと思うんだけど先入っていい~?」


 そうこう話していると2階から華が元気よく1階にいる2人に話しかける。


「俺はいいですけど西脇さんはいいですか?」


「あぁ、俺もかまわない」


「いいよー!」


 綱一は武の了解を得て華に承諾する。それを聞いた華は「いいって、行こ」と言い真弓の手を引き階段をトテトテ降りてきてお風呂へと向かった。



 二人がお風呂へ入り十数分後武は黙々と読書を続けているが、綱一はなにやらソワソワして落ち着かないようだ。


「どうした?綱一くん、なにやら落ち着きがないぞ?」


「逆に西脇さん何でそんなに落ち着いていられるんですか!女の子が!あの壁の向こうに!いるんですよ!しかもあられもない姿で!落ち着けってほうが無理でしょーが!」


 綱一は静かにしかし確実に叫んでいた。


「すまないが俺は30代女性にしか興味はない、同級生には君たちより少し下の子供がいるんだぞ?そんな目で見れるわけがない」


「これが年の功か……」


「まぁおっさんなのは認めるよ」


 そうこう話していると二人はお風呂から上がったようだ、しかしなにやら様子がおかしい。

 扉から真弓は出てきているが華は出てこようとしない。そんな二人を綱一と武は注視している。


「きっとあの人たちなら大丈夫だから」


「でも、今さら……」


 華は真弓に腕を引かれ扉から出てきてテーブルに近づいてくる。


「お風呂……上がったから……」


 それを伝える華だが明らかに様子がおかしい、不自然なほど目が泳いでいる。

 

「あれ?」


 最初に気付いたのは綱一だった。


「え?ここのお風呂目の色変わるの!?」


 どうにも斜め上の勘違いをしているようだ。


「ちっ!ちげーしこれは生まれつき!」


「だってさっきまで!」


 華の瞳は左が青く右は茶色い。


「オッドアイだ!はじめて見た」


 オッドアイ、正式名称は虹彩異色症こうさいいしょくしょうと言いハーフの中でも希に見られる珍しい先天性の症状である。


「うち、ママがアメリカ人でね、この目と髪の毛が遺伝したの!」


「なんで今まで隠してたのに会って間もない俺達にカミングアウト?」


「一緒に生活してたらいつかわかるじゃん!だから先に言っとこうと思って……変……かな?」


「最初は驚いたけど別に変じゃないよ、それも個性じゃない?」


「へへ、そっか……変じゃないか……」


 華はぎこちなく笑う、どこか肩の荷が下りたような。


「とても綺麗な瞳をしていると思うぞ?それに髪の毛も、いいものを受け継いだな」


 武は華にトドメを刺す、顔はみるみる赤くなっていき最後には爆発したとかしないとか。


「たけしゃんのアホ-!だからそう言う恥ずかしいこと真顔で言うなや-!」


 華はそう言いながら階段をかけ上がり自室へと帰っていく。真弓は深々と一礼し華を追いかけていく。


「これは子供の頃になんかあったやつですね」


「子供は時に残酷だからな、だが憶測で過去を詮索するのはやめようか」


「そうですね」


こうして今日も夜はふけていく。









 夜中武は自室でテーブルに座り一人本を読んでいた。本にしおりを挟み「ん-!」と背伸びをする。


(少し休憩するか……)


 テーブルに置いてあるたばこへと手を伸ばす。


(ここは今後誰か使う可能性もありそうだな……)


 タオルのようなものを首にかけ自室を後にする。


(何処かに井戸的なものでもないものか)


 そう思いながら建物の周りをぐるりとまわっていると井戸を見つける。

 井戸に近づいていくと横目に人影のようなものがうつった気がした。武はそちらを向くと華が体育座りをして建物にもたれ掛かり下を向いている。


「はなさんか……ビックリするじゃないか、どうした、こんな時間に?」


「たけしゃんこそ……」


「俺は少し目を冷やそうと思って、それと一服だ」


「うちは……これからどうなるんだろなーって思ったら眠れなくなっちゃって少し涼んでたとこ」


「そうか……」


 武は華と少し離れたところに立ちタバコに火をつける。


「まっなんとかなるよね!」


 華は、んーっと背伸びをし明るく笑顔を作る。


「うち、もう寝る!じゃ!お休み-」


 そう言って華はその場を立ち去ろうとする。


「大丈夫か?」


 華の後ろ姿に武は一言声をかけた。


「大丈夫って……何が?うちは……うちは……」


 華の頬を一滴の涙がったって落ちた。


「大丈夫なわけないじゃん!いきなり死んだって言われて!そしたら戦争中だから戦ってほしい?ワケわかんないよ!そんなすぐに気持ちの整理なんて出きるわけないじゃん!でも!でも!うちが不安になってたらまゆみも不安になっちゃう!うちはあの子に不安になってほしくないの!あの子の不安そうな顔なんて見たくないの!どうしたらいいの!?」


 華はその場にへたりこみわんわん泣いている。



 十数分後華は少し落ち着いたがまだむせび泣いていた。武は華の目の前にしゃがみこむ。


「泣きたいときは好きなだけ泣くといい、泣けないときはいつでも俺を頼ればいいなんでもとは言わないが相談ぐらいには乗れるかもしれない。だてに君たちの倍生きていない、ストレス発散がしたければいくらでも付き合おう」


「ただし恋愛相談はダメだあまり経験豊富と言うわけではないからな」


「もう、しまらないなぁ」


 華は半笑いで涙をぬぐいながら答える。


「落ち着いたか?」


「うん、泣いたらなんかスッキリした、今度泣きたくなったらまた付き合ってよね!」


「あぁ、いつでも」


「その時は胸のひとつでもかしてよねー」


「こんなおっさんの胸ならいくらでもかそう、ほら」


 そう言うと華に濡れタオルを差し出す。


「そんなに目を赤くはらしてるとせっかくの美人が台無しだぞ?」


「アホ-、たけしゃんはすぐ真顔で恥ずかしいこと言う」



読んでいただきありがとうございます

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