トレントの森
明朝ミスリナル近郊、周囲は濃い霧に覆われていて見張らしは最悪だ。
「さて、お仕事の時間だ、お前ら遅れるなよ、ここは戦場だ新人だからと言って足手まといになるようなら即切り捨てるからな」
バーカッスは207小隊に対しそう釘を刺すとミスリナル目掛け走り出す。
「ちょっと! 待って下さいよ! こんな濃い霧の中孤立したら危ないっすよ!」
綱一はバーカッス達に制止を促す。
「何をビビってんだ新人! 魔族ごときが甲殻機に敵うかよ! あいつらも所詮は生き物、しかも得物は剣や弓だぞ、蹂躙して終わりだ」
しかしバーカッス達113小隊はさらに速度を上げる。
「がーはっは! 元気がいいのう!」
「ラーモンさん、笑ってないでなんとか言ってやって下さいよ」
「無駄だろうなぁ、なまじここでの生活が長いだけに相手の戦力をよく知っておる、実際大多数の敵はゴブリンやオークにミノタウロスしか現れておらん、そいつらではいくら束になろうと甲殻機には敵わんからなぁ」
「でももし七死夜天とか出てきたら! それじゃなくてもヤギ頭のバフォって奴もヤバいですよ! そんなのがまだいるんですから!」
「新人が撃退できる相手だ! 俺達なら確実に息の根とめてやるさ! はははー!」
バーカッス達は高笑いをしながらさらに先へと進んでいく。
「こうくん、なに言っても無駄ムダ、きっと凄い実力があるんだよ、ここは先輩達に胸を借りるつもりでついていこうじゃあないか」
「あれ姫路さんなんか怒ってらっしゃる?」
華のトゲのある台詞に綱一は少し畏怖を覚える。
そして一行はやがて森に差し掛かる。
十数メートルに伸びた木々は更に彼等の視界を奪う。
「……! ちょっと待って下さい!」
森に入った所で急に真弓が叫ぶように言葉を発する。
「なんだ! また泣き言か!」
「あっあの……その……おかしいです、昨日崖の上から見た時はこんなに木が生えてませんでした」
「はぁ? あそこからここまで何キロあると思ってる! 木の本数なんか分かるか! 見間違いだ! それともなにか? 一晩で木が生えてきたとでも……ぶへら!」
バーカッスは真弓にそう悪態をつきながら走っていると木の根に足を取られそのまま正面の大木に衝突する。
「バーカッスさん何やってんスか?」
たまらず彼の部下が足を止め声をかける。
「いやちげーよ、いまいきなり根っこが……」
バーカッスは自分がつまずいたであろう根に目をやるがそこには何も生えてはいなかった。
「……どういう事だ?」
「ちょっとバカスっち、うちら今物凄い囲まれてるんだけど?」
華は周囲を警戒しながらバーカッスに近付いていく。
「バカスって俺の事か?! ……囲まれてる? 何処だ、何もいないぞ?」
「感じないの? この木一本一本に少しだけ魔力が含まれてるんだけど?」
華がそう言うと綱一、武に真弓も互いに背中を守りながら周囲を警戒する。
「確かに感じます、言われるまで気が付かなかった」
「相当な数いるな、隠れていると言うより……」
「……多分この木が……」
「何を言ってる!? 何も感じないぞ!」
バーカッスは207小隊の動きに戸惑いながらも周囲を見渡すが視界に入る物はすべて何の変哲もない木々でしかなかった。
「ガハハハ、どうやらトレントどもに囲まれたようだのう、東のエルフの国があった所でよく見たわ」
「来るよ!」
華がそう叫ぶと周囲の木々が一斉に枝を動かし彼等を串刺しにしようと襲いかかる。
ラーモン隊と207小隊は回転式六連壮砲で応戦する。
「数が多すぎます! こうも周囲から攻められたんじゃ身動きが!」
トレントの猛攻を迎撃しつつ綱一は悲鳴にもよく似た叫び声をあげる。
「ガハハハ、これはピンチってやつかのう!」
「くそがぁぁ! 待ち伏せなんてこすい手使いやがってぇぇ!」
バーカッスも体制を立て直し応戦する。
飛び交う魔導砲と回転式六連壮砲による光弾が確実にトレントを撃破しているが一向にその数が減っていると言う実感がわかない。
それもそのはずだ、彼等の周囲にはおよそ数千のトレントがどんどんと集まってきている。
そして撃破してもすぐに新たなトレントが大地より生えてくると言う無限沸き状態だ。
「親父! これはどう考えてもおかしいぞ! 俺達が戦ってきたトレントはここまででかくねーし何より増え方が異常すぎ!」
「おお! シャス、よくぞそこに気が付いた、ワシも今そう思っておったわ」
「ラーモンさん、トレントになにか弱点とか無いのか? このままでは此方が消耗するだけだ、この状況を打開しないと」
武の脳裏に最悪の状況がよぎる。
現状トレントの増殖と撃破のバランスがとれているため彼等に損害はない、しかしいずれ魔力切れをおこすものが現れるかもしれない。
そうなれば攻守のバランスが崩れ、いずれ数で押しきられるかも知れないのだ。
「んー? トレントは確かよく燃えるな、炎の魔法でも使えればどうにかなるかもしれんな、だがこれ程の数を燃やすとなれば相当な火力が必要だぞ?」
「そもそも俺達魔導士は魔法使えねぇだろうが!」
バーカッスは悪態をつき、半ばやけくそ気味に魔導砲を打ち続けている。
「なんとかなるかも知れないです、ただ一度後退してコットンさんと合流する必要があります」
「綱一君、なにか考えがあるのか?」
「ふと思い付いただけで本当に成功するかは分かりませんけど……」
「どちらにせよ一度後退して態勢を立て直す必要がある、退路を開く、すまない少しだけ時間をくれ」
武はそう言うと砲撃をやめ、来た方角を向き、動きを止めた。
そしてトレントは格好の獲物と言わんばかりに武へ攻撃を集中させる。
「たけしゃんがなんかしようとしてるんだから邪魔しないでよね!」
その攻撃を華が撃ち落とす。
そして時間にしておよそ二三分程だろうか、武が動く。
砲頭を真っ直ぐ進行方向へ向け、八足で大地を踏みしめる。
そして砲頭から放たれる、それは一発の光弾等ではなく継続して放たれる光線。
武の直線上にいたトレントは跡形もなく消え去るのみだった。
「あれって親父の」
「そうだなぁ、魔導光線砲だなぁ、一度受けただけで覚えよったか」
「あまり時間はない、急ごう」
(見よう見まねだがなんとかうまくいったが、魔力消費量が多いな、あまり多用はできんか)
そして武の作った道を彼等は進み後退して行く。
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