これからと残してきたものと
綱一達207小隊とラーモンの小隊は軍陣中央の一番大きなテントに赴く。
彼等は外に甲殻機を停め中へと入る。
「失礼しまーす……」
綱一達はテントの中へと入ると、奥には指揮官と思しき中年の男が腰かけており、中央の長机には綱一達と同じ甲殻機搭乗服を着た三四十代程の男が四人が腕を組み腰掛けている。
(この人達も魔導士かな?)
綱一はそう思いながら彼等に会釈をする。
「若いな、お前達小隊ナンバーと階級はなんだ」
「俺達ですか? 207小隊です、階級は紫級です」
四人の魔導士の一人が綱一に問うと綱一は自分の小隊と現在の階級を答える。
「207? はぁ、おい、聞いたか? 207でしかも紫級だとよ?」
「くくくっ」
「お荷物じゃないかねぇ」
魔導士の四人は綱一達を嘲笑うかのように肩を震わせている。
「ムッ、何か文句でもあるっての?」
彼等の態度に華は我慢ならずつい噛みついてしまう。
「大有りだよ、いいか? 小隊ナンバーは純粋にこの世界に来た順番を示す、つまり数字の若い方が戦闘経験が多いってこった、しかも207? 一番ぺーぺーじゃねーか、俺達は113小隊、お前達とは場数が違うし、殺した魔族も数えきれねぇ、格が違うんだよ」
「ぐぬぬぬ」
華は歯ぎしりをならしながら彼等を睨み付ける。
「華さん、ここは抑えて、彼等から見て経験が浅いのは事実だ、ここで言い争っても意味は無い」
「……フン!」
武が華をなだめひとまず華も落ち着きを取り戻す。
「まぁまぁバーカッス殿、これから共に戦うのだ、そう喧嘩腰にならずともそれに彼等はあの七死夜天を撃退したと報告にある、十分期待は出きるはず」
奥の指揮官と思しき男が仲裁に入りバーカッスと呼ばれた魔導士も取り敢えずそれ以上言うのをやめた。
「さぁ、君達も掛けてくれ」
綱一は促されるがまま長机に腰掛ける、無論バーカッス達とは対角に。
「がーはっはっは、いやいや糞してたら遅くなってしまったわ」
遅れてラーモン達がテントに入ってくる。
「ん? なんだぁ? 何やら険悪な感じだなぁ、ガハハハ」
二メートルを越す髭もじゃ筋肉達磨は耳を塞ぎたくなるような大声で笑い飛ばす。
「親父うるさい」
「ごほん、申し遅れた私は王国騎士団黄級騎士コットンだ、今回の作戦なのだが君達三小隊先陣を切りミスリナルの城門突破及び魔族の大将撃破をお願いしたい、危険な役回りであることは重々承知している、だが甲殻機の性能をもってすれば必ず成し遂げられると信じている」
「へっ、シンプルでいいじゃねぇか、要は敵陣切り裂いて城門ぶっ壊して中の魔族も皆殺しにすりゃ終わりだろ? どうせ魔族っつっても牛頭や小鬼程度しかいやしねぇさ、俺達は先に休ませてもらうぜ、作戦は明朝だったな、じゃあな」
そう言うとバーカッスは仲間と共にテントを後にする。
「バーカッス殿!? はぁ……」
コットンはバーカッスを呼び止めようとするがそれに耳も貸さず彼等は出ていってしまう。
「何あれ?! やな感じ!」
華は悪態をつきテントの入り口を睨む。
「君達も長旅で疲れただろう、今日はもう休んでくれ、食事と酒も用意させる、それとこれだけは覚えておいて欲しい、君達12機の甲殻機は我等の一個軍団以上の戦力である、もし敗戦濃厚となれば我等を見捨てて撤退せよ、甲殻機があればまた再起する事は可能故」
「そんなこと出きるわけ……」
綱一はコットンの言葉を否定しようとするが途中でまた大きな笑い声が響き渡る。
「がーはっは! あやつも言っておっただろう! 要は勝てばいいと、最初から負ける事を考えるとは指揮官としてどうなんだ?」
「……すまぬ失言だったな今の言葉は忘れてくれ」
そして綱一達は自分達のテントに案内されそこで食事をとり床につく。
夜も更け、綱一達四人は中央をカーテンで仕切られたテントで男女二人ずつ別れ就寝していた。
(…………)
綱一は一人眠れず天井を眺め物思いに更けていた。
「眠れないのか?」
突然小声で話しかけてくる武に綱一は少し驚きながらも視線を動かさずに答える。
「少し……考え事を」
綱一は少し言葉を濁していた。
「考え事?」
「はい……俺達こっちの世界に来てもうずいぶん経ったじゃないですか? その、元の世界じゃ俺多分死んだ事になってるんだろうな、とか思うと残してきた親父になんか申し訳なくて……」
「……すまない」
「あ……いや、西脇さんを責めてる訳じゃないですから、あの事故は西脇さんのせいでもありませんしたまたま偶然が重なって運の悪い方に転んだ結果であって……二人も言ってたじゃないですか」
「ああ、そう言って貰えると救われる…………綱一君には母親や兄弟はいないのか? 今父親の心配しかしていなかったみたいだが」
「ああ、いました、年の離れた兄が」
「いた……と言うことは……?」
「はい、兄は13年前に亡くなりました、そしてそれがショックだったのか母もその翌年に病気で、だから余計に親父が不憫で」
「あ……すまない、辛いことを聞いたか……」
「いやいや、俺その時5歳とかですよ、ほとんど実感ありませんでしたし、ただよく抱っこして貰っていたのは覚えてます、生きていればちょうど西脇さんと同じ位ですかね」
「そうか……」
(13年前で俺と同じ年……まさかな……)
「あ゛あ゛! 帰ったらクレープだぞぅ!」
突如カーテンの向こうから華が大声で叫び二人は驚き同時に視線を向ける。
「ムニャムニャ……スピー」
「寝言か……?」
「みたいですね、全く夢の中でも食い意地張ってるなー」
「君もよく夢の中でなにか食べているみたいだがな、明日も早いもう寝よう」
「え? ちょっと西脇さん?! 夢の中でってどういう? ちょっとー?」
「スピー」
そして明朝ミスリナル攻略戦が開幕する。
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遅筆ではありますが必ず更新していきますのでこれからも読んでいただけると嬉しいです。