出立
綱一達はエスリザの治療を受け即退院、足早に甲殻機格納庫へ向かっていた。
「もう! せっかくゆっくり出来ると思ってたのに、人使いが荒いなぁ」
華はプリプリと怒りをあらわにしている。
「しょうがないよ、華ちゃん、お仕事だもん」
「お仕事かぁ、なんだかんだでまゆみもこっちの生活順応してきたよね」
「うん……正直なところ戦いたくは無いけど……でも私が頑張れば人のためになるから……それにいつまでもうじうじしてられないし、みんなの足は引っ張りたくないから」
「ふーん、そうだ! 今回の遠征が終わったらさ、またこうくんにクレープ作ってもらお! それでお腹一杯食べるの、いーよね、こうくん?」
華は前を歩く綱一に手を合わせお願いする。
「しょうがないなあ、材料費半分出してくれるならいいよ」
「えー? おごってくれないのー?」
「おごりません! その代わり腕によりをかけて作ってやるよ」
「クレープか、そうだな、帰ってきたら皆で作ろう、俺も手伝う」
クレープ作りに武も賛同する。
「たけしゃん作れるのー?」
「こう見えて昔クレープ屋で働いていた事がある、人前に出しても恥ずかしくないくらいには作れるぞ?」
「へー、意外、じゃあ帰ってきたらクレープパーティーだね」
「おう!」
そして四人は甲殻機格納庫へ到着する。
「カバラッチさーん、甲殻機は?」
綱一は格納庫へ入るとカバラッチに甲殻機の状態を確認する。
「おう、来たか、四機とも状態は完璧だ、それとシャルロットだが余った廃材から追加武装を作ったから付けてみたぜ、おめぇさん高速移動が出来るんだろ? ちょうどいいはずだ」
「追加武装?」
綱一はそう聞くとシャルロットへ目を向ける。
そして目に写る甲殻機シャルロットには確かに見慣れぬものが付いていた。
甲殻機頭胸部側面に刃渡りおよそ五十センチメートル程の刀身のような物が後方に向け伸びている。
「あれは?」
「あれは魔導翼剣、魔力を纏わす事でそれを剣とする接近戦武装だ、あれ自体に切れ味はないが魔力を刀身にするから刃渡りを自由に変えられるからおめぇさんの移動術と相性はいいはずだ」
「ありがとうございます、役立ててみます」
「えー? こうくんだけずるいー」
華は不満そうに頬を膨らます。
「すまねぇな嬢ちゃん、あれはある程度速度が出せねぇと切れ味がでねぇから逆に速度が落ちちまって敵のど真ん中で孤立なんて事にもなりかねねぇ、それにミスリル不足でおいそれとなんでもかんでも作れねぇのさ、今回の作戦がうまくいったらなんか作ってやれるかもな」
「ちぇー」
そして四人は甲殻機専用スーツに着替え各機に乗り込みネルリゲンを出発する。
「ここから行くのは俺達207だけかー」
「まぁ、ネルリゲンの防衛もしなければいけないからな、近隣都市から少しずつ戦力を集めているのだろう」
「あーあ、いきなりの出発だからあの子たちになんにも言えなかったなぁ」
「華ちゃん何か言った?」
「んーん、なんでもないよー」
そして彼ら四人は翼兎イオンに導かれ北東、鉱山都市ミスリナルを目指す。
時はさかのぼり綱一達を病室から見送ったエスリザとパポリヤス。
「行かれましたね」
「はい、姫」
「ふぅ……」
綱一達が行った事を確認しエスリザは、よろめきそれをパポリヤスが抱き止める。
「姫、あまり御無理はなさらぬよう御願い致します、御身にもしもの事がありましたら……」
「はぁはぁ……良いのです……わたくしに出来るのはこれくらい……はぁはぁ、なのですから……ごほっ」
彼女は息をあらげ咳き込み咄嗟に口を手でおおう。
その手は絵の具を塗りたくったように赤に染まっている。
「姫、魔力欠乏症です、自分の魔力を御使いください」
彼はそう言って自身の親指を噛みきり彼女の前に差し出す。
彼女はその指を咥えゆっくりと息を整える。
「ありがとう、パポリヤス、もう大丈夫です」
「いいえ、ちょうどここにはベッドが沢山ありますから、少し休んでいきましょう、最も上等な物を用意させます」
パポリヤスはエスリザを優しく抱き抱える。
「では西脇様のベッドに……」
「いいえ、あのようなベッドは貴女に相応しくありません、直ぐに用意させますので」
「あー! せめて残り香だけでも!」
「バタバタしないで下さい、御体に障ります」
パポリヤスはエスリザを抱えスタスタと廊下を奥へと歩いて行く。
「あー! パポリヤスの意地悪ー!」
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