機械人形《オートマトン》レイチェル
四人はその後、馬車に乗り町中を移動している。
男女向かい合わせに座り各々窓から外を見ている。
窓の外には石材や木材で出来た建物が立ち並び道は石畳。
何台かの馬車も走り、自動車等はもちろん見かけない。耳の長さが常人の3倍はある者がいたと思えば背丈が100㎝ほどの筋骨隆々な初老の男もいる。
「は~っ、まだなんか実感なかったけどほんとにここ異世界なんだなぁ~」
華が窓の外を見ながらため息をつく。
「見た感じ中世ヨーロッパって感じだけどほんとに大丈夫か?その、甲殻機?ってやつは俺達みたいに呼ばれた人しか乗れないみたいなこと言ってたけどなんか技術レベルそんなに高いようには見えないんだよなぁ、もしかして人力車みたいな兵器だったりして……」
綱一は不満をあらわにする、その感情は当然である。外を見るに、機械の類いは見当たらず、ましてや人が乗って戦うための物などとてもあるとは思えないからだ。
「綱一くん、あまり怖がらせるようなことは言うもんじゃない」
綱一が武の方を見ると、武は真弓に目線をやり再び綱一を見る。綱一はハッ!として真弓を見ると不安そうな顔をし少し震えているようだ。
「ごっ……ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ……」
「もー!みんなこの先どうなるか不安なんだからそういうこと言わないの!」
華は真弓を抱き寄せながら綱一を嗜める。その手は少し震えているようで真弓だけはそれがわかった。
「……華ちゃん……」
すると馬車は徐々に速度を落とし停車した。すぐさま御者は降り馬車の扉を開ける。
「皆様、目的地に到着致しました」
御者に促され四人は馬車を降り辺りを見渡す。辺りは木々に囲まれており建物などは見当たらない。
「何もないけど……?」
綱一は疑問に思い御者に訪ねると、
「こちらでございます」
御者は林の奥へと進んでいく。100mほど歩いた先はひらけた空間になっており周囲数百メートルは草木1本生えておらずよく整備が行き届いたグランドのようだった。右手には木造の大きな建物が建っている。正面は巨大な観音開きとなっており高さも10m程であろうか。
四人は御者に促されその建物へと向かっていき観音扉の横にある人用であろう扉から中へと入っていく。中は仕切りなどはなく広い空間となっており中央には布をかけられた高さ2mほど長さは5m近くはあろう大きな物体があった。
「お連れ致しました!レイチェル殿はおられますか!」
御者は中に入るやいなや大きな声で叫ぶ。すると、奥から「はーい」という声と共に走ってくる。人の形をしてはいるが全身金属で出来ており口と呼べるものはなく瞳は丸みを帯びたひし形のレンズが2つつり上がるようについておりそれは青白く発光している。その人物を目の当たりにした瞬間四人は同じことを考えたことだろう。
(ロボだ)
「ありがとうございます、あとはこちらで引き継ぎマスので」
「では、よろしくお願いいたします」
レイチェルと呼ばれた人物?は深々と頭を下げ御者にお礼を言うと御者は建物から出ていく。
「自己紹介が遅れました、ワタクシ機械人形のレイチェルとモウシマス、甲殻機開発製造を担当しています」
四人は驚いた表情を隠せずレイチェルをまじまじと見つめていた。無理もない、この世界の文明レベルには彼女の存在はあまりにも異色。
もし彼女が造られた存在なら他にも高度な機械は存在していいはずである。
そんな四人の考えを見透かしてかレイチェルはクスッと笑う。
「異界の方は皆さん同じ反応をします、誰がワタクシを造ったのか、他にも同じ個体は存在するのか、と聞かれたこともありました。ワタクシは機械人形という種族、機械生命体の最後の生き残りです。ですので他の個体は今はオリマセン」
レイチェルに表情の変化は見られないがどこか寂しそうな雰囲気が漂っているように思える。
すると、レイチェルは手のひらをポンと合わせ、
「皆さん立ち話もなんですし少しお茶にしましょう、ココマデノ事に戸惑いもありましょう気持ちを落ち着かせる良いお茶がアリマスノ」
四人は奥に用意されていたテーブルへと促され腰掛ける。四人分のティーカップに紅茶が注がれそれを一口いただく。
「おいしい……」
「こちらの世界でよく飲まれているグラビリアという種類の紅茶デス、リラックス効果や疲労回復あと、少しですが魔力回復の効果もアリマスノ」
「あの、ところで気になってたんだけどもしかしてあれ……?」
華は中央に置かれている巨大な何かを指差しレイチェルに話しかける。
「よくぞ聞いてくれました!」
そう言ってレイチェルはそれのもとに駆け寄り布を鷲掴み引っ張る。中からは左右に広がる8本の脚、丸く長い胴体、丸い尻尾の黒光りするそれが現れた。
それは4人にとってはよく見かけるあれにそっくりである。
「でっかい蜘蛛だ……!」
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