王都サルムにて
綱一たちが玉藻等を退けた数時間後、王都サルムに数羽のラバットが伝書を携えサルム城へと集まっていた。
「なぁ、あれラバットじゃないか?」
城壁の上部に設けられた胸壁で見張りをする兵士が上空でこちらへ向かってくるラバットを見つけ同僚にその旨を伝える。
「んー? そうみたいだな……全線からの定期連絡か?」
「おい、あっちからも二羽くるぞ?」
他の同僚が更に二羽別の方向から来るラバットを確認する。
「おい! その後ろからも来てるぞ!」
「定期連絡にしては数が多いな、それにまるで示し合わせたように同時に来るなんて普通じゃない!」
「ムー!」
一羽目のラバットが一人の兵士の胸元へ飛び込む。
そのラバットは明らかに疲弊しており兵士はラバットを労いながら胸壁通路へゆっくりと寝かせる。
「よしよしよし、よく頑張ったな偉いぞー」
兵士はラバットを撫でながら首輪に取り付けられた筒の中に入っている手紙を取り出し目を通す。
「こっ……これは!」
「おい! この内容は!」
「大変だ!」
他の兵士も別のラバットの手紙を確認し互いが互いの顔を見合わせる。
「すぐに兵士長に報告だ! 早く上に伝えないと!」
一人の兵士がすべての手紙を受け取り胸壁から階段を降りていく。
王都サルムの城内、王の間の玉座にグロリアス13世は鎮座していた。
そして王の間の扉がゆっくりと開かれ赤いローブを羽織る初老の男が一人、入室してくる。
「おお、エレムギルかどうした?」
グロリアスにエレムギルと呼ばれた赤いローブの男は王の眼前で跪くとその口を開く。
「前線各地、七つの地点で魔導士達が七死夜天と交戦致しました、その際72名の魔導士が死亡、4名が甲殻機と共に行方不明、その他にも重軽傷者も複数名出ております」
「なっ……七死夜天?! 五十年姿を現していなかった奴等がか!?」
「報告によればあの時と同一個体と思われる者もおりますが何体かは未知の個体も確認しました」
「それで、奴等は……?」
「甲殻機と戦闘の後、侵攻すること無く撤退していったようです、まるで小手調べをするかのように……」
「わかった、では前線に至急甲殻機の修理に必要なものと治療物質を追加で送れ、それと聖女の派遣も許可する、これ以上奴等の好きにさせてはならん、あと天弓はどうしておる?」
「彼等も各地で戦ってくれています、必ずや我等に勝利をもたらしてくれるでしょう」
「ふむ、では物資の件はたのんだぞエレムギルよ」
「ははっ!」
エレムギルは深く頭を下げると立ち上がり王の間をあとにしようと身を翻す。
それと同時に扉が勢いよく開かれる。
「お父様!!!」
扉を開いた主は純白のドレスの裾を掴み赤い髪をなびかせながらヅカヅカと真っ直ぐ進んでいく。
そしてその金色の瞳はグロリアスを見据えていた。
「お父様! 先程の聖女の派遣も許可するとおっしゃいましたね!」
「聞いておったのか!? エスリザ!」
「はい! それはもうこの耳で確かに! でしたらわたくしも前線へ向かいます!」
エスリザと呼ばれた女はグロリアスの目の前で仁王立ちし彼に詰め寄る。
「ならん! お前にもしもの事があっては!」
「いいえ! わたくしも聖女として生まれたからにはこの力を誰かのために使いたいのです! 今使わずしていつ使うと言うのですか! この世界となんの関係もない異界の方達が前線でこの国のために戦ってくださっているのです! 王族であるわたくしが彼等のお役にたたなければ!」
「しっしかしだなぁ……」
「もしダメだと仰るのならもうお父様にお菓子を作って差し上げません! 最近巷で噂のくれーぷと言うものを今練習中ですのに、あーあ残念です」
「いっイヤ待てエスリザ! それはあまりにもズルい!」
「あーあ残念ですわ、もうわたくしがお父様にお菓子を作って差し上げることが出来ませんのね」
「ぐぬぬぬ……わかった……お前も聖女として前線に赴いてもらう……」
グロリアスはうなだれ力無くそう呟いた。
「ありがとうございます、お父様、出来れば城郭都市ネルリゲンがよろしいのですが?」
「もう好きにしてよい……ただし条件がある、戦闘区域には入らぬことだ、必ず安全な所におるように、エレムギルよエスリザの護衛を何人か選抜してくれるか……」
「わかりました、特に優秀な魔法使いを付けましょう」
「はぁ……たのんだぞ」
グロリアスは深くため息をつきエレムギルとエスリザは王の間をあとにする。
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