玉藻
真弓の光弾により頭部を失ったバフォは時折痙攣を起こしながら横たわる。
綱一はそれをただ静かに見つめていた。
(危なかった……駿足がなかったら多分重力に引かれて動けなくなってたな……)
「綱一! やったのか?!」
そこへマイケルが駆け寄ってくる。
「はい、なんとか……正直危なかったです」
「よくやった、ところで今の動きはなんだ? デタラメな速度が出ていたようだが?」
「駿足の事ですか? それがよくわからないんです、急がなきゃって思ったらいつの間にか出来るように……」
「……そうか……何はともあれお手柄だ、お前のお陰で全員生きている」
「いえ、一人で勝手に動いちゃってすいませんでした」
「謙遜は日本人の悪い癖だ、胸を張れ」
「ありがとうございます」
礼を述べる綱一の目の前にはマイケルの姿はなかった、いや、正確には目の前から一瞬で視角外に移動したと言った方が正しい。
「隊長!?」
マイケルの機体はまるで水面を跳ねる石のように何度も地面に機体を打ち付けながら数十、数百メートル程の距離を飛ばされている。
綱一はそれをただ愕然と見ている、目の前で起こったことを理解するには少し時間を要した。
そして同時に寒気を感じる。
それはそれは何処から来たのか、突如として現れていた、それも目の前に。
「全くバフォめ、一人でやらせてほしいと言うから任せてみればこの体たらく、情けない」
綱一の目の前には槍を握り真紅の着物を身に纏い美しく輝く銀の髪をなびかせ頭部に狐の耳を生やす九尾の女が立っていた。
(みっ……見えなかった……!?)
綱一は咄嗟に駿足を使い後方へ下がり九尾の女と距離をとり魔導砲を発射する。
「まぁ、そうあせるでない」
九尾の女は槍をフルスイングし綱一の放った光弾を打ち返す。
それは弧を描き綱一の遥か後方へと飛んでいく。
「ふむ、本塁打と言ったところかのう?」
九尾の女はクスクスと笑い綱一を見据える。
「私は魔王様が配下、七死夜天が一死玉藻、バフォをやったのはお主か?」
綱一はこの時玉藻に対し畏怖の念を抱く。
彼女は今まで戦った魔族とは明らかに違っていた。
ただその場に立っているだけにも関わらず強烈な威圧感、そして周囲に振り撒かれる殺気、今すぐにでも背を向けて逃げ出したいとさえ思ってしまう。
(気をしっかり持て綱一! 目を離したらその瞬間に終わるぞ!)
綱一はそう自分に言い聞かせ覚悟を決める。
生きるために。
「綱一君!」
武の綱一を呼ぶ声が聞こえると同時に数発の光弾が綱一の脇を通り抜け玉藻へ目掛け放たれる。
それを玉藻は片手で払い光弾は四散し玉藻の後ろで爆散する。
「綱一君! すまない遅くなった、もうすぐ援軍が来るはずだそれまでなんとか持ちこたえよう!」
武は綱一の隣に並び立ち玉藻を見据える。
「武さん、206の皆は?」
「全員機体の損傷は激しいが無事だ、心配は要らない、隊長も今華さんが診ている、今は正面の敵に集中だ」
「わかりました」
「綱一君、フォーメーションBで行こう、さっきの高速移動を使えばより効果的なはずだ、やれるか?」
「大丈夫です、行けます」
綱一と武は左右に分かれ回転式六連装砲を玉藻に集中させる。
玉藻はそれを槍を巧みに操りそれら全てを弾いていく。
辺りに火花が飛び散り光弾の弾ける音が木霊する。
そしていつしか玉藻の表情は豹変していく。
目は見開かれ口角は極限まで上がり次第に狂気の笑みを浮かべていく。
「ふふ……はははは!!! 楽しい! 実に! 楽しいぞ! やはり美しいのう! 必死に生きようと抗う姿は美しい! もっと見せなさい! もっと私を魅せてみなさい!」
「笑っていられるのも今のうちだ!」
武は回転式六連装砲を乱射しつつ魔導砲を撃ち込む、それを玉藻は槍で弾くと一射目の死角からもう一射が玉藻目掛け飛んでくる。
それを玉藻は素手で防ぐ。
(今だ!)
綱一は駿足を使い玉藻の背後へ距離を詰め魔導砲を発射する。
それを玉藻は体を捻りなんとか腕で防ぐ。
「惜しかったのう」
玉藻は笑みを浮かべそう呟くと次の瞬間。
頭部は爆発に包まれる。
後方に援護のため身を潜めていた真弓の砲撃が玉藻の頭部へ直撃したのだ。
「やったか!?」
「武さん! それあかんやつ!」
玉藻はこめかみから真っ赤な血を流しゆっくり真弓を凝視する。
「くくっ……ははははは! 血を流したのはいつぶりかのう! ふははははは!」
玉藻はくるりと槍を逆手に持ち変え真弓目掛けそれを投てきする。
「……!」
武は急いでその槍の斜線上に割って入り魔導防壁を展開する。
しかしその音をも置いてきた槍は武の防壁を貫きあろうことか甲殻機の装甲をも貫いた。
そしてその槍の勢いを殺しきれず武の甲殻機はゴロゴロと地面を転がる。
「武さん!?」
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