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第207甲殻魔導小隊  作者: 光 寿寿
第二章  強襲 七死夜天
35/58

ツァルの大平原の戦い


 綱一達がこの森林に身を潜めてどれ程の時が経っただろうか?

 ついた当初は昇りきっていなかった太陽もいつしかてっぺんを越え徐々に傾き始め辺りは静寂に包まれていた。


 聴こえるのはそこに生息する鳥のさえずりとたまに吹く風による木々の葉擦はずれのみ。


 そんな静寂の時間はついに終わりを迎える。


「あの……隊長……あれがそうですか?」


 一番早く気づいたのは真弓だった、それは地平線の向こうからゆっくりと、そして真っ直ぐとこちらへ向かってくる。

 

「もう見えたのか? そうだ、あれが魔族の群れだ」


 それらは特に隊列を成すわけでもなくただ群れを成し真っ直ぐと歩いてくる。

 緑の肌に子供ほどの体躯に醜悪な顔のゴブリン、豚の顔をし太く大柄な人のようなオーク、そして少数の牛頭の筋骨隆々な大男のミノタウロスにそれと同じ程の体躯をした赤い肌の大男オーガ。

 どれも革や鉄の鎧で武装をし各々剣や弓、大斧を携えている。


「まだ撃つなよ、もう少し引き付けてからだ、206は右翼、207は左翼を狙え、真弓は豚面より頭一つ抜けている馬面と赤鬼を狙えるか? ヴァルムガルから射撃の腕はいいと聞いているが?」


 マイケルは二小隊に指示をし真弓にのみ個別に指示を送る。


「やって……みます」


 各機砲身を目標に向けマイケルの指示を待つ。


(いつも通り目標に向かって撃つだけ! いつも通り、いつものように! ただそれだけ!)


 綱一も覚悟を決め目標を見据える。


「全機撃て!」


 マイケルの一声に全機一斉に魔導砲を発射、魔力の光弾はを描き魔族の群れへ降り注ぐ、それは着弾と同時に爆発し数体の魔族体の欠損及び臓物と紫の体液を撒き散らし事切れていく。

 そんな同胞の変わり果てた姿に目もくれず魔族は光弾の降り注ぐなか足を速め武器を構え雄叫びをあげながら光弾の放たれる位置を目指す。


 しかし魔導砲の射程は二から三キロメートル、いくら走ったところでその距離が一瞬で縮まることはない。

 そしてここはなんの遮蔽物もないツァルの大平原、文字通り逃げも隠れもできはしない。


「頃合いか……撃ち方止め!」


 五千はいた魔族の群れのおよそ七割程が倒れた頃、マイケルは全機の砲撃の停止させる。

 もはや彼らの眼前には先程の青々とした平原は存在せず数多くの光弾により掘り起こされた土と紫の体液を撒き散らした肉の塊が広がっている。


 しかし魔族の足は止まること無く真っ直ぐと彼らに向かってくる。

 大柄の魔族、オーガやミノタウロスは的確に頭を吹き飛ばされ生き残っているのはもはやゴブリンと少数のオークを残すのみとなっている。


「なんで……向かってくるんだよ! もう勝負はついたじゃないか!」


 この惨状ではもはや魔族に勝機はない、綱一の叫びはまるで彼等には聞こえていないかのように迷い無く真っ直ぐと突撃を繰り返す。


「無駄だ綱一、あいつらは最後の一人になっても歩みを止めることはない、ただ真っ直ぐに私達を殺すことだけを考えている」


「どうして……!」


「さあな、いずれあいつらのボスのところに行って直接聞いてみるといい、……これより掃討戦に入る! サラ! アイシャ! 真弓と華はその場から援護! B.Bとダリルと綱一、武は前進し敵を撃て! 一人も逃がすな!」


 マイケルは綱一に皮肉っぽく言うと全機に指示を飛ばし前進する。


「よっしゃー! さっさと終わらせて帰って一杯やろうぜー!」

「早く寝たい」


 B.Bとダリルはすぐさま行動を開始、魔族へ回転式六連装砲を乱射しながら魔族の群れへ突撃していく。


「綱一くん割り切るしかない、ここはそういう世界なんだと」


 武はそう綱一に声をかけ前進を始める。


「わかってますよ……」


 綱一もそう呟くと少し遅れて前進を始める。


 そこからはまさに蹂躙だった。

 ゴブリンの弓や剣は甲殻機の装甲に傷をつけることも叶わずオークはただの鈍足で大きな的でしかない、誰一人一矢報いることもなくただの肉塊と化していく。


「今ので最後……ですかね?」


 綱一の甲殻機は紫の液体をしたたらせながら辺りを見回す。


「ああ、もう生きている魔族はいないようだ、どれも魔力を感じない」


 そしてそれは武も同様だった、多分に魔族の血を浴び足元にはそれらの屍が大量に横たわっている。

 そしてそれらは生きているうちは少量なれど魔力を含んでいたが命絶たれた瞬間にその魔力は何処かへと消失していった。

 

「おーい、お前らご苦労さん、初めてにしては上出来だったぞ……またえらくかぶったなぁ」


 マイケルが綱一と武の元に歩みより二人の惨状を目の当たりにする。

 彼の甲殻機は多少返り血がついてはいるものの二人ほどひどくはなかった。


「たーいちょー!」


「どうした?」


 後方で待機していた華が声を張り上げ大急ぎで三人の元へ駆け寄ってくる。

 

「あっちの方から魔力を感じる! なんか凄い大きいの! それに結構はやい!」


 華は魔族が進行してきた方角、北を指す。


「私は何も感じないが? 二人とも感じるか?」


「いえ、ですが華さんは俺達二人より魔力感知の範囲が広いので俺達の感知範囲外になにかいるのかもしれません」


「そうか、華、距離はどれくらいだ?」


「二キロより向こう! 真っ直ぐこっちに向かってる!」


(そんな広範囲まで分かるのか!?)

「全機北を警戒!」


 全甲殻機が北の方角に注目するがそこには何もいない。

 なにか動くものや土埃つちぼこりすらも。


「二キロ以内入った!」


「何処だ?! もう見えてもいい頃だろう!」


「千五百!」


「千! 八百! 七百!」


 もはや目と鼻の先だと言うのにそれは一向に姿を表さない。

 そしてそれの速度は時速百キロをゆうに越えていた。


「五百! 四百! 三百!」


「確かに魔力を感じるが! だが何処だ!」

「何処にもいない!」


 五百以内に近づいて来た頃から綱一と武はぼんやりとその存在に気づき始めていた。


「! 全機その場から離れろ! 下だ!」

「びーびー! した!」


 マイケルと華が同時に声をあげるとそれはついに姿を表す。

 それは突如として音もなく土の中から飛び出した。

 その際にB.Bは地上二十メートル程に突き上げられ身動きがとれない。

 そして真下では巨大なミミズの化け物が甲殻機を一飲みできそうな程大口を空けて向かって来ていた。

 


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